第23話

先生が妹さんから聞いた話しは伯父さんたちの話だけではなかったんだ。


それは、両親を失くすことになったあの交通事故の相手のことなんだよ。


      ・・・・・


「私は事故を起こした相手がどんなやつなのかまったく聞かされてなかった。


もしも、その時に会っていたら、ボコボコにしてやるつもりで、毎日体を鍛えていた。


故意であろうが、過失であろうが私には関係なかった。誰かを強く恨まなければ生きていけない。恨みを晴らしてやるという思いだけが、心のよりどころとして、生き抜く力になっていたのかもしれないな。


あの幸せな温かい家族との生活は二度と戻ってこないと知っていても、母や父や妹が恋しかった。


昴、知っているよな。女性が訪ねてきたこと。」


「はい、綺麗な方ですよね。」


「そう。あんな小さかった妹が、立派に成長して私の目の前に現れた。


事故以来、時々妹の泣き叫ぶ声を夢に見て何度も夜中に目が覚めたことがあった。


その妹が私を探し、会いに来てくれたんだ。

本当に幸せな再開だった。


そして、お互いにどういう環境でここまで生きてきたか一晩中語り明かしたよ。」  


「妹さんだったんですか?

彼女さんかと思ってました。」 


「妹はある豊かな夫婦に引き取られ、養女としたて大事に育てられた。何不自由なく育てられたんだよ。


水泳や英語、ビアノやバイオリンなども習わせてもらったそうだ。


大学時代には海外留学もし、世界ピアノコンクールにも出場もしたんだって。



妹のピアノを一度聞いたが、それは胸を打つ響きだった。


妹に二回目に会った時に、妹から話しがあるから落ち着いて聞いて欲しいといわれた。」


「話しってなんですか?」僕はたいてい、そういう前置きの話しとはかなり衝撃的な話に違いないとなんだか嫌な汗が出てきた。


「昴、まさにそうなんだよ。私が聞くには耐えられない程のまったく予想もしてなかった内容だったんだ。」


先生は少し、不気味な笑いをして、それからすぐに悲しい顔になって、続けた。


「妹が引き取られた家は裕福な家庭だった。

そこには一人息子がいたんだ。私より10歳位離れている人で、昔一度結婚したそうだ。


結婚式にはお互いの友人もたくさん列席した。

彼は野球部だったらしく、彼の友人がスピーチをした。


仲間思いの彼のエピソードを話し、最後に仲間がサインしたボールを花嫁にポンと渡したそうだ。


これからは花嫁にバトンタッチするからよろしくってな。」


僕は話しの先が見えず、でも心臓が高鳴り始めていた。


まさか。


「まさか、そうまさか、あの事故の日に白いドレスが血に染まって運ばれたのは、ウエディングドレスを着た花嫁だったんだよ。」



「えっ?ということは加害者のご両親のもと、妹さんは育てられたということですか?」


「そうなんだ。妹も知らずにいたが、兄妹として一緒に暮らしていたが、だんだんお互いに愛情が芽生えたそうだ。妹が20歳になった日に、そのことを打ち明けらたんだ。」


なんということだ。先生がいつか恨みを果たしたい相手が妹さんの婚約者になってしまったとは。


運命というには先生があまりにも可愛そうだ。

妹さんの幸せを祈りつつも、心が整理できずに何日か過ごしたらしい。

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