第14話
そして、僕が話す番になった。
そう、僕はあの頃は、すべてのことが中途半端だった。
クラスの皆は、やれワンピースだ、やれ乃木坂だ、いや欅坂だとか、野球のどこが勝って、どこが負けたなど、テレビで見る情報に一喜一憂していて、そんな気持ちになれるクラスメイトのことを羨ましくも思いもしたが、そんな熱い気持ちになれず、冷めた目でそいつらを見下してもいたかもしれない。
あの塾にいくまでは。
たった3ヶ月間、あの不思議な魅力の先生が、僕たちに教えてくれたのは、今を真剣に生きること。
今やるべきことを一生懸命やるんだと、熱い眼差しで話してくれた時から、確実に人生が少しづつかわりはじめた。
両親に対する見方も180度変わっていき、自分にとって、愛すべき家族になっていった。
それに、なんに対しても興味が湧いた。数学や物理はにがてだったが、歴史や古典には知りたい意欲が出てきた。
それに伴い茶道や花道、また、それからは磁器から陶器、また香りなどにも好奇心がとまらなかった。
受験勉強というより、興味から国語と社会は楽勝の成績だった。
そして、天皇陛下退位に伴い年号が「令和」に決まった!
梅の花の下で読まれた歌の万葉集の一場面に想いをはせていると、どうしてもその福岡県の太宰府にある坂本八幡神社にいきたくなって、一泊で母親といった。
母は嬉しそうに一緒にいってくれた。
いろんなことに興味をもつと、人生が楽しくなってきた。
そして、いきたい道が自然に開けてくる。
大学もそう苦労することなく、私立のK大学にすんなり合格し、物流に興味があったので、都内に本社がある商社に難なく内定をもらった。
そう、人間観察力もついていたので、なるだけ、自分に合う人を見つけて仕事も円滑にすすめた。
社会人になってから2年たったころ、海外買い付けに成功し、それが爆発的ヒットだったので会社の中では一躍有名人になった。
自分は仕事がうまくいったからといって、自惚れやおごりはない。どちらかといえば、誰かの役にたってひっそり喜んでいるのが、自分らしいと思っている。
だけれども、会社に何兆円もの利益を残したとなれば、花形扱いになり、ちやほやされてしまう。
まあ、悪い気はしないが、どうも、自分であって自分ではない感じだ。
そういう時に、やはり妬んで来るものが出てくる。
そんな人間には近づかないようにしているのだか、これがサラリーマンの世界で、役職が上の人間には歯向かえない。
ある時、自分にはとても納得いかない品をかなりの数量を輸入するプロジェクトのチーフに無理やりさせられた。
自分は上司にかなり強気で反対した。しかし 、その上司は思い込みも激しく、まわりも巻き込み強行に話しをすすめてきた。
そして僕に向かってこういった。
「若いのになにをびびってるんだ。心配するななんかあったら私が全責任を取るから。安心しろ。」ともいった。
これが、社会の難しさというものか。納得いかなく、失敗が見えていても回避できない。
もう開きなおるしかない。えーい。従うしかなかった。
歴史好きの自分は今も昔も同じなんだと悟った。
そんな時、妙な疲れがたまっていたので、なにげにはいったリラクゼーションサロンの受付にいたのが、香織だった。
美人になっていた。
久しぶりに笑って話しした。何しろ彼女のストーリーは面白かった。
話しが尽きずお互いの話しをした。
そして今直面している僕に降り掛かっている問題の悩みも打ち明けた。
すると「先生に会いにいってみたら?なにかヒントくれるんじゃない?」
そういってくれた。
そうだ。自分のことばかりで毎日過ごしていたが、先生はお元気なんだろうか?
今の話しを先生にしたら、先生はなんといってくれるんだろう?
次の休みに先生に会いにいこう。そう決めたら心がフワッと軽くなったんだ。
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