第10話

キッチンとリビングが一緒になった部屋で香織はピンクの花柄のエプロンをして忙しそうに大皿にできた料理を盛っていた。


「うまそう~。」皆が口々にいった。


「あなたたち、久しぶりに会ったっていうのに、挨拶ってもんがないの?」


料理に気をとられていた二人が香織の顔を見て驚いた顔をした。


「お前本当に香織か?すごくきれいになったな。」と力が。


「本当に。女優かモデルみたいになってるじゃないか。どっどっどうしたんだよ。」と孝弘が続けた。


「まあまあ、話はあとにしてせっかくの料理冷めちゃうから、食べようぜ。」僕はみんなに席に着くように促した。


「では、4人の再会を祝してかんぱ~い。」


テーブルの上には20種類もの料理が並んでいた。小エビのカクテル。優しい味のかぼちゃのスープ。ガーリックの効いたローストビーフ。アボカドとトマトサラダ。それにタイのガッパオまで大皿にもってあり、みんな「うまいうまい。」と口々にいうだけで、よっぽど腹が減っていたのか、しばらくがっついていた。


香織が「もう、長い時間かけて作ったんだからね。もっと上品に食べて頂戴!」とふくれて見せた。


孝弘の持ってきたワインはフランスのポムルール地方の高級赤ワイン『シャトー・ル・パン1997』だった。辛口のワインで、なんとも香りに深みにがあり、さすがにシンデレラワインと呼ばれるだけあって華麗な舞を口の中で感じさせ、僕たちを饒舌にさせていった。


「力はなかなかの偉業を成し遂げたらしいな。」と僕は、時々地元で聞くうわさを確かめたくて、話を振った。


「そうだな。先生は俺たちに自信をつけさせてくれたよな。


なんにも燃えてやったことがなかった俺は、まあ、すこしは興味あった英語だけ頑張ってみたんだ。やり始めるとだんだん面白くなってきて、映画館にいっても字幕なしでだいたい理解できるようになってきたよ。


それと、パソコンだけは、適当に触ってたら、ある程度使いこなせた。

昔っからメカだけは得意だったからな。


高校では、弁論大会で優勝までしてしまった。そのテーマは人は見かけでは判断できないって感じの!」そこまで言って力は舌を出して見せた。それは、電車の中で僕たちができなかったあのテーマだ。


「俺たちにはあんな人を見る目はあの当時にはなかったよな。うちの親父なんかはいくつになっても女にだまされてたしな。はっはっは。」と笑った。


「その偉業ってなんだい?」と孝弘が先を聞きたがった。


「組の連中の仕事を派遣する会社をつくったのさ。最初はほんと大変だったよ。

なにしろ、他人から指図されるのは嫌いな者ばかりだからな。おまけにいろんな体験がないので、仕事がすぐにできない。即戦力がないと、派遣先は嫌がる。そして、なんといっても、やくざのレッテルが張られると、そこで500円なくなってもそいつらのせいにされてしまう。まったく負の連鎖さ。


それで、まず、俺は彼らを徹底的に訓練した。昔っから俺には忠誠心ってもんがあったからな。社会的マナー。ルール。そこから始まって、パソコンが得意なものは、そこを強化し、計算に強いものには簿記を教え、字がうまい者には筆の使い方や、

のし、手紙の書き方という具合に、徹底的に一つのことに自信が持てるほどにした。それで、だんだん、うちのメンバーが認知され始めた。


今では他のはぐれものも登録するので、初期メンバーは指導側にまわってるさ。


人って変わるもんだな~」


いやいや力が一番変わってるやろ~。


「会社がひとつうまく回りだしたら、やりたいことが次々でてくるし、なにをやってもうまくいくんだよな~。


次に成功したのが、あのオレオレ詐欺の撲滅電話逆探知装置なんだ。」


僕たちは椅子からひっくり返りそうになった。「え~!」


「そう、あの時代はその詐欺の被害が何兆円にもなっていたよな。

俺はそんな年寄りをいじめるようなものを許せなかった。うちのばあちゃんは俺にはよくしてくれたんだ。親父はあんな風だし、お袋は出ていくし、そのあとばあちゃんにはよくしてもらった。


世間では年寄りを狙った詐欺のニュースが毎日テレビから流れてきていた。


それで、俺は金をかけて、AIを駆使した装置を作ったんよ。つまりどういうことかといえば、電話は同じところから数回かかってくる、そして他の家にも同じところから一日、なん百件もかけているはずだ。それを、30秒で探知し、その怪しい電話はすぐに警察に通報させるシステムで、電話で話している最中に電話をかけている相手を突き止め駆け付けて御用となる。警備会社とも連携しているので、検挙率は98パーセントになった。


まあ、これには死ぬ前の親父が驚いていたな。」


「まったくもってすごいわ。素晴らしい発明をしたのね。」と香織が感動して涙をぬぐった。


確かにあの時の力を知っている僕は、高卒で会社をいくつももっている志の高い人になっていることには驚かされていた。


「そういうお前もすごい変わりようだな。街で出会っても絶対わからないぜ。それにずいぶん痩せたな~。」と力が尋ねると香織は話し出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る