第9話
26年の歳月はあっという間に過ぎていった。
僕はぼんやり塾の前のベンチに座って、桜を見ていた。今日も空があの日のようにきれいなブルーだ。
そこに一番に
「よっ!」
相変わらず力はかっこよかった。ブルーのシャツの袖を今日もまくり、その腕にはパテックフィリップ カラトラパのシックなデザインの腕時計をしていた。
「久しぶりだな。忙しいのによくこれたな。」というと
「いや~。この日だけは、スケジュールをあけてたさ。みんなに会いたかったからな。香織たちは?」
「香織は中で料理をしているよ。」
う~ん。なんともいえないいいにおい。玄関のほうまでガーリックやバジルの香りがしてきた。その時、塾の門から孝弘が入ってきた。
「おっす!」
孝弘はスタンドカラーのグレーのカーディガンを着ていた。
そんなことより、孝弘は塾の入口の少し前で車を降りていたに違いない。孝弘の後ろにでっかいロールスロイスが静かに通りすぎたのを僕は見落とさなかった。
「この辺りはすっかり変わってしまったんだな。再開発で道も広くなっているし。この桜がなかったらこの場所もみつけれたかどうか。」
中学の時にかけていたあの黒ぶち眼鏡はなく、なんとも高そうな眼鏡をした孝弘は知的そのもの、シャープなあごのラインが男でも惚れそうになる。涼やかな目は女がほっとかないなと思うと同時に、こいつただものではないな。僕はそう直観した。
みんなが揃ったところで中に入った。
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