第6話

日曜日はいったいどんなことをするんだろう。



とにかくあの先生は読めない。今までで出会った先生とは違う観察力というか、時々人の心を読める超能力者なのかと思わず思いたくなる、僕からみたらそんな印象の人だった。


そういう思いが、この日曜日でまた強くなった。


「今日は電車に乗って、繁華街までいきます。


では、今日の課題です。まず、電車に乗ったら人を観察します。あんまりじろじろ見ると失礼ですから、さりげなくみて一人の方の仕事や、生活、趣味を想像してみてください。電車に乗っている間はおしゃべり禁止です。三つ目の駅でおりますよ。」


といったかと思うとすでに5人分の切符を買ってあり、それぞれに渡した。


電車にのると、年取った推定75歳の白髪交じりの男性が座っているのが目に入ってきた。


僕はこの人にしようとさりげなくドア近くにたって横顔を見た。なんとも顔立ちがきれいで、若い時はけっこうもてたんじゃないか位は想像できた。


でもこれくらいは誰でも言う事は出来るだろうし、他に仕事っていってもなんもわからない。日曜日だから、ワンポイントのポロシャツに普通のパンツだし。もっとわかりやすい人にすればよかったと後悔したが、今からではもう遅すぎる。もうすでに2駅まできていた。


ここからは、勝手に妄想するしかない。彼は医学部の大学教授で、今日は医学書を買いにでかけたっと。それで~、それで~ついでに洋服も買おうと思っている。


いくら見つめても、そんなことしか思い浮かばなかった。


終点の駅で降りて先生についていくとそこはホテルのなかにある喫茶室だった。


「ここなら、席が離れているから、隣の人にも聞かれにくいからな。」


まるで僕たちは刑事がひそひそ話をするかのようで、少し興奮してきた。みんなどんな人を観察してきてどんなことを言うのだろうか?


ジュースやアイスクリームを頼んだあとに、では「トップは昴から。」と先生に促されたのでさっき感じたままを言った。


すると、すぐに先生は「残念だが、当たっているとは言えないな。


彼はたぶん結構いい会社をリタイアーして優雅に年金生活をしていると思われる。


紺色のラコステのポロシャツが、スーツを着ていた何十年も通った会社人生を表し、また、ポロシャツでもあまり大胆な色は人込みで浮くような気がして選べない。紺色が一番落ち着く色なんだ。


会社勤めからやっていたゴルフはいまもその時の仲間とやるが、なかなかうまくならない。その証拠に電車に乗る前から手にもっている雑誌を丸めてスイングを駅でやっていた。うまくない人がするゴルフ好きのお決まりのルーティンだ。ちなみにその丸めた本はゴルフ雑誌だからな。


それに、かれは腰痛を患っている。なぜなら、僕たちと同じ駅から乗ったにもかかわらず、三つ目の駅で降りるというのに一目散に椅子に向かった。昴はそのあと、その人を見たんだ。


それから、医学書は重いのでなかなか買って帰らないもな。今は重い本はネット通販で買うからね。でも、本屋に行くのはあたっているかもしれない。毎日が日曜日になったいまは、暇をもてあましているから、昔から好きな歴史本ってとこかな。


とにかく、暇つぶしで今日は街にでてきたってところで特に重要な目的はないんじゃないかな。」


なるほど、やっぱこの先生、実際の年齢より年取ってんな。

どうみても30歳だけど、観察力は70歳代くらいじゃないか。


「じゃ~次は力だね。」


「ほい、いい女見っけたんだよ。」


僕と孝弘は「え~!」と大声をだしかけたが、先生と香織からにらみつけられぐっと我慢した。


「本を読んでいるその彼女はスタイルもよく清楚なブルーのカーディガンに白のスカート!時々遠くの方を見つめるそのまなざし!あれは不倫だね。日曜日には相手には家庭があるため、デートもできない。それで、奥さんよりもっと、もっときれいになってやるって意気込みで、化粧品と洋服を買いに行くところだよ、きっと。」


まったくもって力のかってな妄想で当たっている余地はなさそうだった。


「残念ながら、当たっているとはいえないかな。まず、彼女の開いていたのはTOEICのテキストだよ。そしてイヤフォンで聞いていたのはリスニングテストの過去問だね。すれ違った時に少しだけ漏れ聞こえたからね。今日はTOEICの試験がA高校であるから、そこに向かっていると思われる。


彼女は本来おしゃれにを気を遣うタイプだが、ここ最近は試験に向けて猛勉強をしていたんだろう。伸びた髪を一つにまとめていたからね。きっと試験がおわったら、予約していた行きつけの美容院にいくんじゃないかな。


それと、彼女は勉強家で志も高く、美意識も高い。そんな彼女が奥さんの次とか2番目なんてことは選択しない。彼女は言い寄られている男どもには見向きもせず、まずは、自分の力で生きていこうとする、エネルギーがみえるね。」



「へ~。そうか。なるほど。」みんなまるで先生が彼女の人生を本当は知っているかのように話すのを、感心して聞いていた。


「では次は香織だね。」


「はい。私は50歳くらいのご夫婦を見てました。正直お二人のお洋服を見ていたら、あまり裕福ではない感じがしました。ご主人は生地の薄いシャツ、正直安っぽいものを着ていました。持っているリュックはボロボロで端の方から糸がでています。

奥さんと言えば流行遅れのデザインのブラウスとパンツで体も細すぎてあんまりおいしいものを食べてないのかとも感じます。でも二人はなにを話しているかはわかりませんが、仲のいいご夫婦で最初から、最後まで笑っておられました。」


するとすかさず先生は「悪い香織。この方達は以前見かけたことがある。なので香織の答えはやっぱり違っているとはっきり言えるんだよ。


以前見かけたのは、僕が普通預金口座を都市銀行に作りにいって順番待ちしていた時だ。僕の前にいた夫婦は財形貯蓄コーナーで相談していた。その時にもあの男の人はあのボロボロのリュックだったよ。


でもそのリュックからスーパーのビニール袋を取り出したら、そこから10冊もの通帳が出て来たよ。銀行に高額預金したら資産運用のおすすめなどが銀行から電話がかかってくる。それで、話を聞きにきていたんだろう。それと銀行が破綻した場合

1000万とその利息までを保護されることをペイオフというが、たぶんその10冊の通帳には1000万円づつ預金しているのではないかと予想される。従って約1億くらいの預金はもっている方に間違いないと思う。


ちなみに、そのあと近くの天ぷら屋でもみかけたが、一人前が770円からのメニューの大衆的な店で楽しそうにお話ししてたよ。そこの天ぷら屋は安くても抜群にうまく、超人気店だよ。


さっき夫婦といったが、実は最近結婚されたんではないかと想像できる。なぜなら、話し方が丁寧で、何十年も連れ添った夫婦の会話ではなかったからね~。たぶんあまり贅沢をしない、無駄なことはしないなど、お金の価値観が一緒で意気投合しているカップルなんではないかな。」


まるで名探偵コナンじゃないか。そこまで一気に話した先生を見ながらみんな目を丸くしていた。


そして、孝弘の番になった。


「俺のも違うんだろうな~と自信なさげに話始めた。」


僕もここまでで僕たちがなにを言っても正解はないなと思い始めていた。








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