第5話

次の週、塾にいくと幾分いつもより先生の顔が晴れやかになっている気がした。

あの人と仲直りできたのかな~なんて白いワンピースの女の人の顔を思い浮かべていると突然僕に向かって先生が聞いてきた。


「昴、潜在能力と顕在能力を知っているか?」


僕はあわてて、「はい、聞いたことはあります。」


「うん。では香織、潜在能力と顕在能力の説明して。」先生はその説明を僕にさせなかったのは、たいした回答ができないと察したに違いない。


確かにはっきり説明なんかできなかった。すると、香織が話し出した。


「はい。私たちの意識の中には、潜在意識と顕在意識とがあるといわれています。

そのことをよく氷山に例えられることがあり、自分で自覚できている意識を顕在意識といい、それが約10パーセントとしたら、あとの約90パーセントは氷山の沈んでいる部分に例えられ、それが潜在意識といわれています。潜在意識は無意識たったり、超意識も含まれ、私たちが自覚していない意識の事です。」


あまりにもすらすら答えた香織に3人が「お~!」と声をそろえて尊敬のまなざしを向けた。


「その通り。よく説明できました。では、孝弘君。実際に君が潜在意識を使って成功した例をあげてください。」



「え~と。例えば歴史の勉強してなかった時に強く祈ったら、学校の先生が風邪で休んで試験が中止になったときとか~。」


僕たちも先生も思わず笑った。真面目な孝弘にもこんなおちゃめなところがあるんだと改めて親近感がわいた。


「ま~それは、そうだったかもしれませんが~。はっはっはっ。

それではこんなことはないですか?


例えば、道ですれ違ったあの人誰だったけ~、なんか知ってるような、

でも、今は思い出せないな~というとき、その疑問は放置しておきます。



しばらく時間がたって、そんなことはすっかり忘れてしまっていたのにもかかわらず、その出来事の瞬間から実は潜在能力が働きだして答えを出してきます。あの方は保育園時代のバラ組さんの時の先生ですよと。


すると、君たちはあたかも自分が当然知っていたかのように、「あっ、そうだった。」とまるで自分の意識している顕在意識が覚えていたかのように思う。しかし、その答えを導き出したのは、君たちの中にある意識してない部分、つまり、潜在意識が答えを深いところから引き出してきた答えなんです。




では、鎖につながれた象の話は聞いたことがありますか?


5メートルの鎖に何年もつながれた象がいます。

ある時、誰かがその象を放してやろうとその象につけてある鎖をはずしました。


その象はどうなったでしょうか?」


先生は力の方を見た。それで、力は得意そうに


「そりゃ、どんどん走って逃げたにきまってんでしょ。こんなチャンスはないんだから。」



「残念。象は5メートル範囲から一歩も出ることはありませんでした。


なぜなら、象の潜在意識にはその先に自由があるという意識がまったくなかったからです。


潜在意識はかつてフロイトやユングが深層心理学や分析心理学などで無意識の存在などを理論を提唱されてきました。そして現代ではマーフィーの法則などでも伝えられています。


潜在意識に願望を刻み込むことで願いが叶う、成功哲学として知られています。


興味があったら本屋で探してみてください。



身近なところでの例えで話していきましょう。体育の授業を思い出してください。


みんな一列に並んでいます。前にはとび箱があります。


例えば君たちの目標が5段飛べたらいいなと思っていたとしましょう。


そうするとあなたたちは4段か、5段までしか飛べません。


では、目標を7段にしました。すると、5段は楽々クリア、そして、6段もなんなくクリア。そして7段も飛べる日がくるかもしれません。

それを顕在意識だけでなく、潜在意識に刻むことをしているのが、一流のアスリートです。


もちろん血のにじむような努力もしていますが、世界のトップに立つためには、自分が本番で成功しているイメージ、金メダルをとったイメージなどを大いに使っています。


平成に活躍し続けたイチローももちろん誰にも負けない努力はしたでしょうが、このイメージをなくして成功はなかったはずです。


君たちは、テレビで活躍している著明人、またアスリート、はたまたノーベル賞受賞者などは特別な人で、自分とは遠い世界のたまたま頭がいい人とか、たまたまラッキーな特別な人とおもっているかもしれません。



それは、ひょっとして、一緒にテレビを見ていた隣の人が、『あの人すごいね~。誰もできっこないよね~』とか、『天才は違うね~』とか言ってたのを聞いていたかもしれません。


あるいは、テレビのコメンテーターが『あの方は別格ですね。どうやったらできるんですかね~』なんて驚いて見せたのを聞いたとか、あるいは自分がなりたい職業を言った時に、親がなにげに『そんなんで生活できるようになるわけないわよ。』などといったのを聞いたことによって、自分にはもっとも遠くの世界なってしまったりしたこともあるかもしれません。


でも、今活躍している芸能人にも、ひどいいじめを受けていた人が何人もいることを知らなくてはならないし、輝かしい活躍を私たちに披露してくれて、私たちを魅了してきたイチローも引退会見には『失敗したことに向き合うのは辛いんですけど、そこを向き合ってきました。寒い時の練習はへこむ。』とも言っていた。


また、人生をある時から、大逆転をなしとげた人もいます。



そう、みんなが憧れる人も誰しも神ではない、失敗もするし、いい環境にいた人ばかりではない。

だから、なにもやる前に諦めることは、今日からやめて欲しいのです。次は君たちの番なのだから、どんな環境でも強く願えば道案内を潜在意識が案内してくれる。その情報を気づかずに歩くのか、それとも、インスピレーションをキャッチして次に進むのかは君たちの顕在意識の選択です。』」


先生は今日は穏やかな口調だった。思えば、それはもう自分たちがなにかを始めようとしている気持ちを汲み取っていたのかもしれない。


それとも、あの白いワンピースの女の人がそうさせていたんだろうか。13歳の恋もしたことない僕には到底わからないジャンルだった。


ただ、わかっていることは、この4人は確実になにかをつかんでいるということだった。もう誰も愚痴や弱音は吐かなくなっていた。。




『気を付けて帰りなさい。孝弘だけ少し残ってくれる?

それから、今度は特別に日曜の授業になります。私服で1時に集合するように。では。』と先生はいって孝弘を奥の部屋に連れていった。


なんの話なんだよ~。ここで言えばいいじゃんか。とも思うがまあ、そこは詮索せんさくせず家路に向かった。

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