第15話

「違ぇよ。俺はあの時『いや、こっちこそ悪ィ』ってちゃんと言おうとしてたんだぜ。それも聞かずにさっさと行っちまってよ。――んで気付いたらお前、誰にでもすぐ『ごめん』って言ってんだもん。俺、最初お前嫌いだったなぁ。凄ぇイラついた」


「うん」




 そうだね。だってそれは、僕を守ってくれる呪文のような言葉だったから。


 誰ともぶつかる事なく、生きていくのには必要な言葉だったから。




 ――それで一弥は、ずっと怒ってたのかな?




 僕がいつまでも一弥に謝ってばかりだったから?


 だから、イライラしてたの?




「でもさ、そのうち。こいつの事笑わせてみてぇなって思うようになってた。こいつが遠慮しなくていい存在になりてぇって。……だから何回も話しかけてさ。お前は憶えてねぇだろうけど、初めて笑ってくれた時は『やったーッ』って叫びたいくらいだったんだぜ」




 信じられない思いで一弥を見つめる。すると彼は、一瞬だけ僕を振り返った。




「寒くて死にそうだ。なんか奢れよ、真」


 照れたその声がやさしくて、思わず笑ってしまう。


 一弥の顔を見たい気もしたけれど、それより今は、この背中を眺めていたかった。闇でしか現れてくれない、さり気ない透明な翼を。




 僕もいつか、なれるだろうか。


 この人の天使に。柔らかな大きな翼で、包んであげる事ができるだろうか。




 そして大事な何かを、伝える事が。




「ねぇ一弥。いつも誰とメールしてるの?」


 疑問に思って訊いてみる。




 一弥に笑顔を浮かべさせられているのは、いったい誰なの?




「ん? 見るか?」


 一弥は携帯の画面を、僕へと向けた。






『その時にね、天使様が言ったんだ。


「汝、案ずる事なかれ」だって。だから、大丈夫だよ』





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