第14話
ごめんと言いかけて、僕は言葉を途切らせた。
違う。今言いたいのはこれじゃない。言い忘れちゃいけないのは、この言葉じゃない。
今、一番に伝えたい言葉――。
「……ありがとう、待っててくれて」
言い直してそっと手を握り返した僕に、驚いたように一弥が目を剥いた。俯く僕の上から、ボソリと呟く。
「お前今、すっげぇブサイク」
「な、なんでだよ?」
顔を上げると、一弥は笑ってた。偽りの笑顔なんかじゃなく、あの笑顔で――。
僕が見惚れていると、彼は体を折って爆笑を始めた。お腹を抱え、笑い続ける。
「目は腫れて土偶みてぇだし、鼻は真っ赤っ赤だ! ひでェー!」
「ひどいのは一弥だよ」
鼻を押さえモゴモゴと言った僕に、彼はずっと握ったままだった手を引いて、歩き始めた。
「お前の手、あったかいな」
背中越しの声に、一瞬息が止まる。
「うん、さっきまでココア飲んでたから」
クスクス笑うと、一弥が「なにぃー!」と声をあげて唸った。
「人が寒空の下、凍えてたってのによ」
チロリ、と責めるように向けられた視線すらも心地よい。僕をあったかいと感じてくれる人がいる、それだけで嬉しかった。
「……お前。ごめんって言わないんだな」
「え?」
「いつもは言ってんだろ、バカの一つ憶えみてぇによ」
「あ……」
口元に手をあてた僕に、一弥はフンと鼻を鳴らした。
「なあ。俺達が最初に言葉を交わした時の事、お前憶えてるか?」
「教室の扉の所でぶつかりそうになった時?」
「そう。あん時もお前、ごめんって言ったんだぜ。それもさ、めっちゃ早く。俺の言葉も聞かずにさっさと行っちまうし」
「えーッ。ちゃんと聞いてたよ。一弥はあのとき『いや』って言ってくれたんだよ」
そうだ。ちゃんと憶えてる。
怖そうな顔してるのに、ホントはやさしい人なんだなぁって思ったんだもん。
その時の事がうれしくて、一弥を目で追いかけるようになったんだもん。
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