第8話


 オルガに言われて波瑠は我に帰る。

 たしかに。波瑠は今まで人との会話に困った事がない。

 日本語を話しているつもりだが、出会った人全ての人が日本語を知っている訳が無いのだ。



「とりあえず、一度私達の国であるリセッタ国王都へ向かうのはいかがですか?そこで魔力鑑定をして王の許可が得られればリセッタ国で働くことも可能だと思いますよ」

「え!!」


 思わぬ助け舟だ。

 身寄りも無ければ日本に帰れる保証もない波瑠にとってはとてもありがたい申し出だ。

 しかし1つ疑問がある。

 波瑠は眉を下げ意を決して3人に問うた。



「リセッタ国は....その、シーズル国でのように異世界人を利用する国ではないのでしょうか」


 正直、今の波瑠には何が悪で何が善なのかわからない。

 嘘をついてるとは思えないが、嘘ではないという確証はないのだ。

 美味しい食べ物を貰った手前だが。


「ふはっ!!」

「ふふふ」


 そんな波瑠の質問に今度は3人が噴き出し笑い出した。

 フォーマが波瑠の頭を撫でる。



「人を疑う力があるのは良い事だな」

「俺らが悪いやつではあっても、まぁ少なくともシーズル国よりはましだと思うぜ!リセッタ国では異世界人を丁重に扱うっていう法がある。」



 フォーマとガルダンが口々に言う。

 そしてオルガも目を細めて頷いた。



「波瑠。人というのは世間一般で言う善人であっても、あらゆる角度からみて善でもあり悪にでもなり得ます。あなたが得た情報を、あなたが精査して判断してください。」



 波瑠は少しだけ唸って考える。

 今の今まで怒涛の日々だった。

 ようやく実感してきた異世界召喚だが、シーズル国では違和感を感じていた。

 どこか壁があるような。何かを隠しているような。

 でも、この3人は確かに血が通った、同じ人間だと言う気がする。

 何かを強要されるでもなく、必ずこちらの意見を尊重してくれる。

 波瑠は唸るのをやめて3人を交互に見た。

 ふわりとテントの隙間から風が入ってくる。

 日本でも、シーズル国でも感じた事のない"自然"を感じられる風。

 生きているを実感できる風。




「お願いします。リセッタ国へ連れて行ってください。ちゃんと魔力の鑑定をして貰って、この世界で生きて行くきっかけを作りたいです」


 ベットの中で出来うる深々したお辞儀をする。

 三人は三様の仕草でそれを是としてくれた。




「よし!そうと決まれば出発しようぜ!」

「そうだな。早馬で走れば夕方には着くだろう」

「シーズル国が何かを察知してこちらの国にけしかけてくるとは限りませんしね。」



 そう言って、3人は急いで片付けを済ませるとリセッタ国王都へ向かった。

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