第5話
ピチチチチチ
今度は鳥の囀りが聞こえる。
ゆっくりと目を開けるとカーキ色の天井が見えた。
「......え?」
パチパチと数回瞬きをした後ゆっくりと起き上がる。
カーキ色の天井はどうやらテントだったようで外から人の声が微かに聞こえた。
そういえば昨日会ったイケメンさんが自分達のキャンプがあるって言ってたなと記憶を手繰る。
腕の中で寝てしまった事に申し訳無さを覚えつつ波瑠はベットから足を下ろした。
「うっ....」
立ち上がろうとした瞬間グラリと目眩がする。どことなく身体中に鈍痛を感じた。
これが世に言う"筋肉痛"という奴なのではと予想する。初めて感じる体の痛みに思わず笑みが零れた。
「あ!やっぱり起きてる!!」
「ガルダン。女性の部屋に断りもなく入るな。」
「....!!」
突然勢いよくテントの入り口と思われる部分が開く。目の前には2人の青年がこちらを覗き込んでいた。
1人は真っ赤な髪と瞳をもつ青年で波瑠と同じくらいの年齢に見える。短髪だけれど思わず目を引く赤髪は彼の性格を表しているようだ。
もう1人は赤髪の人より頭1つ分高い身長だった。赤とは言えない鳶色の髪をうなじ辺りで一括りにしている。気になるのは左目の刺青だ。細かい模様で下瞼から横長に掘られているそれはとても印象的だ。
「えっと....おはようございます」
「おれ!オルガさまよんでくる!」
赤髪の青年が再び外に出てバタバタと駆け出して行く。長身の青年は困ったような表情でそれを見送った後、「失礼する」と一言告げてから波瑠の方へ近づいてきた。
そして近くにあった椅子に腰掛けると手に持っていたコップからコポコポと音を立てて水が現れる。
「魔法だ」と思うより早くその水はコップ一杯になってピタリと止まった。
「初めて見るのか?」
波瑠の視線に気づいた青年はびっくりしたように瞳を瞬かせ言葉を発した。
「いえ、、、え。はい。こんなに身近で見たのは初めてです」
実際、教会の部屋で何度か魔法を見たが、こんなに近くで見れたことはなかった。
食事もどこからともなく運ばれてくるし波瑠自身魔法が使えなかったのだから仕方がない。
「そうか」
青年は1つ頷くとそっとコップを渡してくれた。
何も食べていない事で今更ながら喉の渇きを思い出し、お礼を言って受け取った。
「美味しいです」
「そうか」
波瑠の言葉に1つ頷いて口角を上げた彼はとても穏やかな印象を受ける。
彼の雰囲気なのか肩の力が抜けた気がした。
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