第4話
ふわふわと意識が揺れ動く。
遠くで誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
いやいやそんなはずはない。
だってここは病室....いや、森だ。森の中でちょっと休んでいただけだ。
「失礼」
「.....!!」
強い勢いで体を揺らされて波瑠はハッと目を開ける。
目の前にキラキラと黄金色の瞳がこちらの様子を伺っていた。
「大丈夫ですか?」
「は、....はい!」
心配の色を宿した瞳で聞かれて波瑠は思わず頷いた。勢いよく体を起こすとボサボサになった髪を直す。
改めて目の前の男を見ると、見惚れるほどの美丈夫な事に気づく。
金色の瞳も綺麗だがそれ以上に銀色に輝く長い髪が月明かりに照らされてなんとも神秘的だ。
ククリ皇子のような中世貴族のような出で立ちで、外套にまで綺麗な刺繍が施されている。
男は警戒するように周りを見渡した後、懐から小瓶を取り出した。
「とりあえず、今はこれくらいしか手持ちが無いのですがどうぞ」
「わっ...金平糖だ」
それは日本でも好きだった甘いお菓子。こちらの世界で食べた食事は、前の世界と似たり寄ったりなものだったが甘いものが極端に少なかった。
「ありがとうございます」と受け取って口に一粒放り込むと、口いっぱいな砂糖の甘さが広がって幸せな気持ちになった。
そういえば朝から何も食べていなかったなと今更ながらに気がついた。
「金平糖...?」
「え?」
「....いえ、それより貴方どうしてこのような場所にいるのですか?」
もっともな質問だ。
波瑠は今までの事を思い出して困り顔で笑った。
「実は、この森に捨てられたんです。男の人に殺されそうになって逃げてたんですけど、疲れて寝てしまって」
「....は?」
掻い摘んで伝えてみたがうまく伝えられない。むしろ困惑の色が濃くなった。
青年は顎に手を添えると考え込むような仕草をする。
「貴方はリセッタ国の生まれですか?」
「リセッタ?」
「流暢なリセッタ語を話されていますので」
男の言う事に今度は波瑠の方が困惑で眉を潜めた。
「リセッタ語はわかりません。私は日本語を話していますよ」
「ニホン....ゴ」
お互い話しが噛み合わず微妙な空気が流れる。
でも波瑠はどこまで正直に話していいのかわからないのだ。
なにせ「実は異世界から来ました。」なんて軽々しく言って信じてもらえる保証も自信もないのだから。
そんな事を考えていると、青年はおもむろに波瑠の髪を一房持ち上げた。
イケメン耐性どころかお父さん以外に触れた事ない波瑠はびっくりして目を瞬かせる。
「黒髪....貴方、まさか。」
「くしゅん!!」
さぁッと風が吹いた事で今まで森の中にいた事を思い出す。
この世界に四季があるかはわからないがとりあえず夜は寒い。ぶるりと身震いした波瑠に青年は着ていた外套を脱いで肩に掛けてくれた。
「気づかず申し訳ありません。とりあえず、すぐそばに仲間のキャンプがありますのでそちらへご案内します」
「....わ!!」
肩をぐいっと抱かれたと思うと、波瑠の足はふわりと地面から浮く。
青年に抱き抱えられたと気づいたのは金色の瞳が間近に見えたからだ。
「少し走ります。首に腕を回してしっかりお掴まりなさい」
波瑠は戸惑いの中でも声が出せず、そのかわりコクコクと頷く。それを見届けた青年は一度頷くと森をかけ始めた。
風を切るように走る姿は人の動きとは少し違う。こちらに振動が伝わらないように注意を払ってくれているようにも感じた。
これも魔法なのかな...
漠然とした思考をそのまま残して波瑠は再び気を失うように瞼を閉じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます