第29話 異世界の花畑のようにカラフルでミステリアス

 今度は四角い皿が運ばれてきた。

 百合に似た黄色い花が添えられている。最初の疑問は、この花も食べるべきかいなか。まあ、この件は後回しでも構わない。


 お皿の上は、異世界の花畑のようにカラフルでミステリアス。葉野菜に彩りを添える角切りのトマトだけが馴染みの食材というありさま。


 両端で出番を待っていたナイフとフォークをゆっくり手に取って時間を稼ぐ。ミンラが薄緑の俵型のものをフォークで口に運んだ。マネしよう。

 どことなくロールキャベツっぽいけど、油断してはならない。用心して小さめに切りわける。ひき肉の断面が現れることを願いながら。


 銀のナイフが沈んだ先から白いソースが溢れだし、私の期待は裏切られた。切り口からとろりと流れだしたのは、たぶん米粒だ。

 落ち着け。気を引き締めていないと笑いだしてしまいそうだった。


 料理が運ばれる度に説明があるようだけど、英語なので私には通じていない。隣にいるママは、自分とタカシのことで頭が一杯だから助けてくれない。頼みの綱の川端さんは、キスマークの件が解決できたから英語で問題なし、と誤解しているのだろう。


 わかってる。全然わかってないのに、わかってるふりを続ける私が悪い。

 ママか川端さんに日本語で質問すれば問題は解決する。そのことも、わかっている。


 そうしないのは、出かける前にママと約束したからだ。

 何があっても文句を言わず、愛想よくする。大人の話がわからなくても質問しない。どんなことがあっても。


 騙し討ちのようにタカシと婚約されたから、愛想よくするのは不可能になった。この点は、謝るつもりも改めるつもりもない。


 ただ、どんなことがあったにせよ、約束を破って平気でいるとは思われたくなかった。タカシのこと以外では、今でも信頼に値する娘だと思われたい。黙って耐える姿をみれば、ママは私の気持ちを理解して許してくれるかもしれない。


 そんなこと、あるわけないのに。


 タカシと一緒のママを見ていてよくわかった。私の忍耐も努力も見当外れだった。それがわかったのに、まだ無意味な辛抱にしがみついている。

 このままではダメだ。でも、どう変わればいいかがわからないので、どうしようもなかった。


 正体がわからないままの料理を口に入れ、おそるおそる味わう。

 なんだか、よく知っているような味がする。生まれて初めて食べたわりには、不思議と私好みの美味しさだった。


 目ざといミンラがまたしても「気に入った?」と質問してきた。

 今度こそ何か言わなくてはと焦り、なんとか「グッド」の一言を絞りだした。

 彼女は大げさに胸をなでおろす仕草をして「良かった。気に入ってもらえて嬉しい」と晴れやかに笑うと、大人同士の会話に戻って私を開放してくれた。


 英語で話しかけられるだけでも緊張するのに、隣でママが聞いてるから凄いプレッシャーだった。それでも、ミンラが私を気遣ってくれるのは嬉しい。それに、彼女の味覚は信用してもよさそうだ。


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