第25話 恋する少女は会場に向かう

 歓迎会の開催が決まった翌日からは大忙しだった。

 フォルやメイさん達にも協力してもらって、言葉やマナーについて勉強した。

 最初はフォルとずっと一緒にいられるという嬉しさと緊張でドキドキしていたけど、始まった瞬間にそんなことを忘れてしまうくらいメイさん達の指導が厳しかった。

 フォルが手伝ってくれなかったら、余りの厳しさに音を上げていたかもしれない。

 そんな毎日を続け、気がつけば歓迎会が開かれる日になっていた。


「そろそろ城に着くぞ」


 私の向かいに座るフォルが、窓の外を見てそう言った。

 私達は今、馬車の中で二人きりだ。


「……もう他の人達は来てるんだよね?」

「ああ。『主役は遅れてやってくるものだからね!』とかクリスが言ったから、俺達だけ遅くに会場入りすることになったからな」


 フォルが深いため息をつく。

 その姿にすら、ドキドキしてしまう自分がいる。

 今の彼の姿に大分慣れてきたと思っていたのにな。

 ドキドキしてしまうのはきっと、彼が今、勇者の正装を身につけているからだろう。

 彼が今着ているのは、元の世界で軍服と呼ばれていた服装に近い。

 黒地に金のボタン、金の肩章が付いており、胸元には勲章をいくつも着けていた。

 キッチリした格好なのに、彼の身体のラインが強調されていて、どこか艶めかしく見えてしまう。

 こんなこと言えるわけないから、最初見た時も「かっこいい」としか言えなかった。

 フォルは私のドレス姿をこっちが恥ずかしくなるくらい褒めてくれたのに……。


「だが、その分パーティの時間も短めにセッティングしたらしいから、ハナの負担も減るだろう」

「どんな人が来るんだろう?」

「俺と親しい奴らだけを呼んだと言っていたけどな。多分、一緒に旅した奴らは来るだろう」

「そっか」


 フォルと旅をした人達がどんな人達なのか、私はまだ聞けていない。

 そんな暇がなかったのもあるけど、本当はそれを知るのが怖かったのかもしれない。

 もし綺麗な女の人だったら、フォルがその人と話しているだけで劣等感から嫉妬してしまいそうだから。


「ま、皆良い奴らだから安心してくれ。多少変わってる奴もいるけどな」

「それはそれで不安だなぁ……」

「あいつらに何かされそうになったら、俺が守ってやるよ」


 フォルが歯を見せて笑う。

 どこか子供っぽいその笑顔を見ると、不安や緊張が和らいでいくのを感じた。


「ありがとう、フォル」

「……お、おう」


 私がお礼を言うと、フォルは顔を真っ赤にして視線を泳がせた。

 あんなに恥ずかしい褒め言葉をポンポン言えるくせに、私がお礼を言うと照れるのは何でなの?

 そんなことを思っていると、馬車の動きが止まった。


「……ああ、着いたみたいだな」


 馬車の扉が外から開かれる。

 フォルは先に降りると、私に向かって手を伸ばした。


「お手をどうぞ、お姫様?」


 ……だから、なんで恥ずかしげも無くそんなクサイセリフが言えるのよ!

 彼はからかうような感じでもなく、真剣な目で私を見つめている。

 その姿はとても様になっていて、まるで物語に出てくる騎士みたいだ。


「……あ、ありがとうございます」


 思わず敬語になりながら、彼の手を取る。

 その大きく暖かな手に引かれながら、私は会場に入ったのだった。

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転生勇者と転移少女 真兎颯也 @souya_mato

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