第12話 転生勇者は少女に会う
「やっぱり、ハナなんだな!」
まさか、異世界に転生してもハナに会えるなんて!
俺は彼女に近づこうとして牢屋の鉄格子に手をかけた。
そして、鍵がかかっていることに気づいた。
よく考えれば鍵がかかっているのは当然なのだが、ハナに会えたことが嬉しすぎて忘れてしまっていたようだ。
「ちょっと待ってろ、今出してやるから」
俺は後ろにいた兵士に声をかけた。
「おい。早く牢を開けろ」
「は? あ、いや、しかし……」
「彼女は俺の客人だ。いいから早く牢の鍵と手錠の鍵を渡せ」
「は、はい!」
「それと、彼女の部屋を準備するよう使用人に頼んできてくれ。一先ずは客室で構わないから、と」
「かか、かしこまりましたぁ!」
何故か動揺している兵士達にそう命じ、俺は牢屋の鍵を開けてもらう。
そして、手錠の鍵を受け取ると、すぐに中に入ってハナの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
彼女の顔は、記憶の中のものと全く変わっていなかった。
驚いたように見開かれる焦げ茶の瞳も、フワフワとした栗毛色の髪も、全て記憶の中のままだ。
「手錠を外してやりたいんだが……身体、動かせられるか?」
「あ、うん」
ハナは手錠をはめられた手を見せようとして、腰を浮かせた。
「うっ!」
その時、ハナが痛みに呻いた。
どうしたのかと思い、彼女の手を見る。
彼女の掌全体に、血が滲むほどの擦り傷ができていた。
「お前、この手どうした!?」
「え?」
キョトンとした顔をするあたり、ハナ自身は気づいていないらしい。
「今手錠外すから、自分で見てみろ」
手錠を外してやると、ハナは自由になった自分の手を見て顔をしかめた。
「うわっ、こんなことになってたの?」
やはり気づいていなかったようだ。
ずっと座り込んでいて感覚が麻痺してきていたのだろうか。
「誰かにやられたのか?」
「ううん。多分、ここに押し込まれた時に手をついたから、その時にできた傷だと思う」
「押し込まれた?」
俺は牢屋の外にいる兵士達を睨んだ。
彼らは揃って、肩をビクッと震わせる。
「全く、まだ疑いがあるっていうだけの相手は丁重に扱えと言っていたんだがな……」
「別に、あの人達は職務を全うしただけだよ。私の怪我だって大したことないし」
「血が出ているような怪我を、大したことないだって?」
俺はハナが痛がらないよう、そっと両手を掴んだ。
そして、治癒の魔術を唱える。
大きな怪我ではないとはいえ、化膿したら大変だからな。
みるみるうちに塞がった傷を見て、彼女は再び目を丸くした。
「す、すごい……これって、魔法?」
「この世界では魔法じゃなくて魔術っていうんだ。俺、結構色んな魔術使えるんだぜ?」
俺は安心させるため、ハナに向かって笑った。
すると突然、彼女の目から涙が零れた。
「お、おい? なんでいきなり泣き出してんだよ?」
「だ、だって……勇輝にまた会えるなんて、思ってなかったから……」
ハナは両手で涙を拭っている。
一瞬、その姿が先日見た夢の中の彼女と重なる。
だが、夢の中では悲しそうに泣いていたのに、今はどちらかと言うと嬉し泣きしているように見える。
俺に会えた嬉しさから泣いているのだとしたら嬉しいが、それでも今は泣き止んでもらわないとな。
「まいったな。ハナが泣き出すとなかなか泣き止まないから」
「ちょっと、それって私が泣き虫みたいじゃない」
「実際そうじゃねーか」
悪態をつくハナだったが、まだ涙は止まらないようだった。
こんな所にいつまでもハナをおいておくわけにはいかない。
なら、しょうがないか。
「……きゃ!」
俺は、ハナを抱きかかえた。
22年ぶりに触れる彼女の身体は温かく、ちゃんと重みを感じられた。
これは夢ではなく、紛れもない現実なのだと、俺は改めて実感した。
「お、おろしてよ!」
「ハナが泣き止むの待ってたら日が暮れるっつーの。それに、お前ずっとこんな硬い地面に座ってて尻痛いだろ?」
「女の子に向かって尻とか言わないでよ……まあ、確かに痛いけど」
「じゃあ、大人しく腕の中に収まっとけ」
「そんなこと言われたって……」
ハナが不安そうに顔を歪める。
「あ、もしかして落とされそうで怖いのか? 心配すんなよ。俺結構鍛えてるから、お前の一人や二人、簡単に持ち上げられるぜ」
「私が二人もいたら怖いでしょうが……て、そんな話をしているわけじゃないの。恥ずかしいからおろして」
「何だ、恥ずかしいだけか。いいから大人しく抱かれてろって」
ずっと硬い石の上に座りっぱなしだったハナを歩かせるのは酷だろう。
多少恥ずかしくても、彼女には我慢してもらわないと。
最終的には彼女も諦めたのか、腕の中で大人しくなった。
俺は彼女を休ませるため、その状態で屋敷の中へと向かった。
その周りで、兵士達がひそひそと俺達の関係を邪推しているのも知らずに。
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