第11話 転生勇者は思い出す
『フォルティ様へ
お久しぶりです。お元気ですか?
私と旦那様は毎日元気に生活しております。
さて、挨拶もそこそこに、フォルティ様にお伝えしなければならないことがあります。
つい先日、神様から貴方宛てのお告げを賜りました。
神様曰く“フォルティはこちらの予想以上に素晴らしい功績をあげてくれた。よって、褒美を与える”とのことです。
しかしながら、フォルティ様はお忙しい身です。
私は褒美を受け取れない可能性を考えました。
それで、僭越ながらその褒美を渡す日にちを尋ねましたところ、大変申し上げにくいのですが、恐らく、この手紙が届く頃に褒美が届いているだろうとのことでした。
フォルティ様の都合も聞かず、勝手に褒美を送られた神様には当然鉄拳制裁を喰らわせましたのでご安心を。
今後はご都合を聞いてから渡すように天使長様と共にきつく言い聞かせました。
しかしながら、既に褒美は送ってしまった後で、戻すことも難しいそうです。
ですので、申し訳ございませんが、どこかのタイミングで届く褒美を受け取っていただきたく思います。
ちなみに届く日にちはわかっておりますが、時間まではわからないそうです。
全く無能ですね、あの神様は。
やはり、もう少し細かくミンチにしておくべきでした。
後でまた神様にお灸をすえておきますね。
それでは、取り急ぎこれで失礼致します。
マリアより』
……思ったより激しい内容だったな。
整った字をしているが、彼女の怒りがひしひしと伝わってくる。
「うわぁ、神様にこんなことできるの大聖女様だけだよ……よく神罰が下らないよね」
「そもそも、未だに神様にお会いできているのが不思議でならないがな」
彼女は神様に好かれているからお会いできているのだと思っていたが、違うのだろうか?
それとも、神様は彼女から酷い目に遭わされるのを好いているのだろうか……あまり想像したくないが。
「でもさぁ、褒美って何だろうな?」
「さあな。神様のお考えは俺達にわかるものじゃない。きっと、想像もできない品物だろうよ」
その時、部屋の外がわずかに騒がしくなった。
そして、乱暴に部屋の扉が叩かれた。
入るよう命じると、屋敷の警備に当たっていた若い兵士が部屋に転がり込むように入ってきた。
「フォルティ様、大変です!」
「どうした?」
「この屋敷に侵入者が!」
「何? どんな奴だ」
「見たことの無い服装の若い女です。ひとまず身柄を確保して牢に入れたのですが……」
「……見たことが無い服装?」
「おいおい、それってもしかして神様からの使者だったりしないか?」
俺の背後からひょっこりでてきたクリスに、その兵士は慌てて頭を下げた。
「こ、国王陛下……! まさか、陛下がお越しになっているとは思わず……!」
「ああ、気にしなくていいよ。君は君の職務を果たしたのだから」
「……おい、クリス。念の為お前はここを出るなよ」
恐らく、クリスが言ったように神様からの褒美を持ってきた使者である可能性が高い。
服装が見たことの無いものなのは、神様の使者だからだろう。
だが、万が一もある。
もしもの事があれば、分身体とはいえ大変なことになるのが目に見えていた。
「わかってるよ。この屋敷の中じゃ、ここが一番安全だからな。だけど、お前も気をつけろよ」
「もちろん、油断はしない」
今回は杞憂になるかもしれないが、警戒するに越したことはない。
俺は若い兵士に先導されながら、地下牢へと向かった。
地下牢は普段あまり使わない場所だ。
というか、この屋敷を建ててから一度も使ったことがない。
俺自身、屋敷が完成した時に一度だけ入ったきりで、それ以降は人の出入りがなかったように思う。
そのせいだろうか。外にある地下室の入口を開いた瞬間、カビ臭い匂いがした。
「……これは一度清掃した方が良さそうだな」
もしかすると、ここの地下は湿気が溜まりやすい構造をしているのかもしれない。
4年ほど前に建てたばかりなのに、もう既にカビ臭いのはそういうことだろう。
そこまでキツイ臭いではないが、その臭いを我慢しながら俺は他に待機していた兵士と共に地下へと続く階段を降りた。
「それで、その女というのはどうやってここに入った?」
「それが、我々にもよくわからないのです。気がついたら屋敷の庭の中にいたもので……」
「外部から侵入された形跡は?」
「今のところ見つかっておりません」
「そうか」
そうなってくると、ますます使者である可能性が高いな。
「お手数をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
「構わない。それで、侵入者はどこに?」
「はっ。侵入者はこちらの牢屋に閉じ込めております」
地下室は全体的に薄暗く、兵士が指さした牢の中はよく見えなかった。
「話がしたい。牢に近づいても大丈夫だろうか?」
「ええ、比較的大人しい娘ですので大丈夫かと。ですが、くれぐれもお気をつけて」
「ああ」
俺はその牢の前に近づいた。
後ろからついてきていた兵士が、ランプで牢の中を照らす。
そこには確かに、うずくまっている人がいた。
その人物は膝を抱えて俯いているため、顔は見えない。
だが、俺は、その人物が身につけている髪飾りに釘付けになった。
その人物――報告によれば女性であるらしい――は白い花の髪飾りをつけていた。
それは、夢の中の少女が身につけていた物とよく似ていた。
いや、似ているなんてものじゃない。
あれは紛れもなく、夢の中の少女が身につけていた物だ。
では、もしかすると、今俺の目の前にいるのはその少女なのか?
自らの名前と同じ名を持つ花を身につけていた、あの彼女なのか?
……自らと同じ名前の花?
どうしてそんなことがわかるんだ?
俺はあの花の名前を知らないし、そもそも夢の中で彼女は名乗っていない。
夢の中の俺は名前を呼んでいたかもしれないが、そんなのは聞こえなかった。
……でも。そう、そうだ。
俺は確か、彼女のことをこう呼んでいたはずだ。
「……ハナ?」
それは、随分と言い慣れた言葉のように聞こえた。
誰かをそう呼んだことはないはずなのに、何故だか懐かしく感じる。
それに対する返答を、俺は大きくなった心臓の音を聞きながら待った。
牢屋の中でうずくまっていた人物は、恐る恐るといった様子でゆっくりと顔を上げた。
「勇輝……?」
その顔を見た瞬間、俺の脳に花が咲くように記憶が甦る。
俺自身のことも、彼女のことも、俺は一瞬にして全てを思い出した。
そして――思わぬ再会に、俺は顔を綻ばせたのだった。
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