第27話 ゆるいキャンプ

 しばらく魔法の授業とたまにエッチな授業も交えながら日々は過ぎていき、ある日メリア第五王女様にお見合い話が舞い込んで来たのである。


「道中お気を付けて」

「では行って参ります」


 お見合い相手の居る国へと馬車で向かう為、護衛として俺と、付き人として口の悪いメイドさんと、初めて見る執事さんで二ヶ月ほど旅に出る事になった。


 見送りに数人のメイドと執事、それと王妃様がお見えになられたのだが、王様は多忙で来れず、兄弟姉妹もなんだかんだ理由をつけて見送りには来なかった。

 俺が何か言える立場でも無いが少し寂しい。

 王族の内情などさっぱり分からんが、メリアはあまり家族に可愛がられていないのかもしれない。


「ウエェ……やっぱ揺れるなぁ……」

「今からそれでは先が思いやられますな……ジュース殿」

「フライ、静音、ジャイロ、空間拡張、召喚、キャンピングセット」

「何してるの先生!?」

「あわわわ!?」

「ほっほっほ、やはり噂通りのお人でしたな。ジュース殿は」


 車体を浮かせ、雑音を少なくし、馬に引かれる揺れも無くして、狭い車内の空間を大きく広げて、鍋やランタン、寝袋やテントなどキャンプに必要な物を召喚。

 これから行くメルラハン国まで馬車で片道一ヶ月前後掛かり、途中野宿する事もざららしいのでせっかくだからこの旅を楽しもうと思う。

 転移しても良いけどそれだとつまらないでしょ。

 家族にはちゃんと言ってあるが、全員羨ましがっていたので家族全員を連れて旅行に行く計画を立てている。


「先生、この道具は何に使うのでしょうか?」


 メリアは寝袋を持ち上げて手触りを確かめていた。


「寝袋ですよ。ちょっと入ってみますか」

「ねぶくろとは何でしょう?」

「寝るための袋です。安心感に包まれて良い寝心地なんですよ」

「なるほど、この穴に入るのかしら?」


 見本に自分が寝袋に入って寝てみると「おぉー」という歓声が聞こえた。


「全員分あるのでメイドさんと執事さんもどうぞ」

「じゃあ試してみようかしら」

「ふむ、見た事も無い生地ですな。手触りも良いですし、家にも一つ欲しいところ」

「全員に差し上げますので大事に使ってください」

「先生! 最高です! このまま寝ちゃえそ……zzZ」


 寝るの早っ。

 まぁ、昨日も遅くまで起きていたみたいだしな。

 そろそろ一人遊びを注意してあげた方が良いのだろうか?


「あぁ、いい、疲れが吹っ飛び……zzZ」

「流石に私は遠慮しておきましょう。休憩時間に寝させて頂きます」

「寝心地抜群みたいですからね」


 メイドさんはメイドさんで日頃の疲れが溜まっているのだろうな。

 お疲れ様です。



 馬車は王都を抜け、街を抜け、街道をひたすら前進して行き、日が落ちる頃には村へと辿り着いた。

 うちの村とは反対方向へ進んでいるので知り合いとかは居なさそうだ。


「キャンプしたいです!」


 メリアの提案で村の空き地でキャンプする事にした。

 魔法でちょちょいのちょいだが、風情が無いので説明書片手にテントを張る。


「そこ引っ張ってください。そうです」

「これを指すのよね? あら、上手く行きませんね?」

「これは中々、腰に来ますね」

「こんな事をするの初めてだから今、すごく楽しいです!」

「あっしだけ休んでて良いんでしょうか?」

「御者さんは馬の世話で十分頑張りましたからね。追加でビール」

「おっとと、不思議な魔法を使うもんだ。ジョッキから酒が湧いて出てくらぁ」


 みんなでテントを張り終えたので次は夕飯の支度、バーベキューだ。


「召喚、バーベキューセット」


 串に刺さった肉や野菜を網に乗せて焼いて行く。


「良い匂い……じゅるり」

「メリア様、はしたないですよ。じゅるじゅる」

「お前もだ」ぐーぎゅるるるるううう!

「すまん私もだったな」


 笑いに包まれながらバーベキューを楽しみ、その日はテントの中、寝袋に入って就寝。


 翌朝、全員寝坊した。


「寝心地が良過ぎますね」

「けど今までこんなにグッスリと眠れた事なんて、子供の時以来だわ」

「もうちょっと寝かせてよ……」

「馬が機嫌を損なう前にメシの支度しねーと!」


 俺はというと、まだ寝袋で寝ています。

 二度寝最高なんじゃよ。


 メリアに踏んづけられて起こされてしまいました。


「今日は野宿になると思いますけど、旦那のテントがありゃ、何も心配ありあせんね!」

「ですね!」

「メイドとしては活躍出来る場が無くなってしまったわね。楽が出来て良いけど」

「メリア様の身支度も、そのジャージという服で手間要らずになってしまいましたからな」


 楽が出来て楽しい事が出来る。なんと素晴らしい事か。

 旅っていうのはこうであるべきよな。少しの苦労と快適さが大事。

 今日は川で釣りでもして焚き火だな。


 昼前に村を出て、夕方頃には街道の脇に馬車を止めてテントを張り、夕食の準備を始めた。


「召喚、釣竿とルアー」


 全員分の釣竿を出して川で釣りを開始した。


「伸び出る釣竿など始めてみました!」

「このルアーと言うもので本当に釣れるのでしょうか?」

「皆様お静かに、魚が逃げてしまいますぞ」

「釣りなんて何年振りだろうか? 馬の世話ばっかで久し振りに腕がなるねぇ」


 釣果はまずまずと言った感じだ。

 とりあえず全員分以上は釣れた。

 一人だけ一匹も釣れていなかったが、まぁ明日もあるさ。


「ジュース殿、ルアーの扱いについて少し御教授願おうか」

「明日ね、明日」

「ぐぬぬぬぬ」


 執事さんめっちゃ悔しがってる。

 明日も荒れそうだなぁ。



 翌朝は流石に寝坊する事も無く、朝食を軽く取り出発した。


「暇ね……」

「魔法の勉強でもしますか」

「え、こ、ここで?」

「普通の魔法の勉強ですよ?」

「あ、そう……ね」


 メイドと執事がキョトンとしている。

 まぁメリアにとっての魔法の勉強と言ったらそういう事なので勘違いするのも頷ける。

 俺のせいなんだけどさ。


「今日は索敵の魔法を教えましょう」

「はぁ……」

「覚えておくと、ナニ、かと便利ですよ?」

「は、はい! 頑張ります!」


 察しが良くて助かる。

 メイドと執事はまるで分かっていない様子だ。

 まぁ、バレようがない。


 索敵魔法もエロが絡むとすんなり覚えてしまったメリア様は実は魔法の才能に秀でているんじゃないかと思う。


「あ、敵? っぽいです。先生」

「ふむ、流石にこの辺りまで来ると出て来ますか」

「敵? モンスターかしら?」

「うーん、人っぽいかな?」

「盗賊か……お前はメリア様のお側に、私は御者に知らせる。ジュース殿は、ジュース殿はどこへ行かれた?」


 転移で盗賊の側へ行き麻痺させる。いつもの事だ。


「ぐぅ、お前、どこから現れた!?」


 一人か……。

 目視で確認してもどこにも見当たらないので本当に一人で襲うつもりだったようだな……。

 何というか、馬鹿だろこいつ。


「お前、あの馬車襲う気だったろ?」

「あ? そんな事するわけないだろ?」

「えい」


 髪の毛を掴んで一気に引っこ抜いてみた。


「ぎゃあああああ!!」

「嘘付くともっと痛くするぞ?」

「分かった! 本当の事を言う! だからやめてくれ!」

「一人で襲う気だったのか? 無謀だぞ?」

「護衛が居ないと思ったんだ! 俺一人でも出来るって思ったのにこのザマさ」

「馬鹿だろお前」

「うるせえ。金がいるんだよ! じゃなきゃ俺が殺されちまう!」

「お前の事情は知らん」


 魔紐で縛り、転移で街に戻って衛兵に突き出した。

 前科も無く未遂だったので厳重注意で終わりそうだ。

 こいつも街まで来れれば誰に殺される事も無いだろ。


 転移で馬車に戻り片付けた事を知らせる。


「わっ! 先生!?」

「どうなってるの?」

「これが転移ですか……老体には少し辛いですな」


 執事さんが胸の辺りを摩っているのでビックリし過ぎたのだろう。

 回復魔法で古傷や病気を治しておくか、ついでにみんなも。


「あれ、腕の傷が治ってる?」

「あら、肩が急に軽くなりましたわ」

「むむ、全盛期のような体の軽さ! 一体これは!?」


 全員の視線が一斉にこちらを向いたので俺はアイマスクを召喚して昼寝する事にした。


「何ですかその可愛い仮面は! 私にも貸して下さい!」

「え、目がギョロッとしていて気味が悪いですよ」

「ふっ! ほっ! はっ! おぉ、戻っておる! 戻っておるぞ!」


 まったく、賑やかな旅だな。



 村に着いたが今日もテント暮らしだ。

 物珍しさに遠巻きに村人達が集まって来ているが王族だと分かっているので近寄れないみたいだな。

 さすがにこの状況でバーベキューは無いので馬車に戻ってチーズフォンデュする事にした。


「んー! 美味しい! チーズにこんな食べ方があったなんて!」

「アツアツ、ちょっと食べづらいですけど美味しいです!」

「いくらでも食べられますぞ!」

「うめぇ、こんな贅沢な食い方してバチでも当たらにゃいいが、とにかくうめぇ!」


 好評だった。


 食べ終えた後、少しレクリエーションする事にした。


「何でしょうかこれは?」

「人生はゲームというボードゲームで、一番お金持ちになった人が勝つゲームです」


 ちょちょいと魔法で異世界版に作り直しているのでフリーターやらサラリーマンなんかは冒険者とか衛兵に置き換えてある。

 お金は王都の実物でいいだろ。腐る程持っているし。

 ゲームで稼いだ分、本当にあげるのも良いかも。


「まずは俺からルーレット回しますね。1か……冒険者になるっと」

「次は私ね。えいっ、6です。えっと、お姫様になる……。ゲームでも姫なんて……」

「次は私ですね。やっ! 3、冒険者ギルドの受付ですか、なるほど」

「では私も、8ですか、魔王……ふふふ、我は魔王ぞ! どうです? 怖いですかね?」

「では最後はあっしが、9! 勇者ですか! そいじゃあっしが執事魔王さんを倒さないとですね」


 それぞれの職が決まったのでミニチュア人形をそれぞれの舞台に上げる。


「ここからが勝負です。転職マスは一回だけなのでよく考えて転職してくださいね。ではルーレット、また1か……盗賊に襲われた馬車を助ける。10金貨と」

「えいっ、5。誘拐される……身代金100金貨支払う……え、これって」

「借金ですね。ご愁傷様です」

「どうせ……私なんて……」

「姫様ファイトです! よっ、8。いちにいさん、イケメン冒険者に食事に誘われる5金貨。やった!」

「魔王の出番ですな。4。魔王は勇者を待つ。一回休み……」

「次はあっしです。3。ゴブリンの群れを倒す。20金貨。流石勇者! 良くやった!」


 こうしてそれぞれの人生を歩んで行き、最初にゴールしたのは勇者の御者さん、二位は姫として人生を歩み続けたメリア、三位はギルド長にまで上り詰めたメイドさん、四位は俺、可もなく不可もない人生だった。

 最下位は魔王の執事さん。勇者が来るまで待ち過ぎたな。


「最初にゴールした人にプラス100金貨で勇者様の勝利です! 二位はなんと最下位の魔王様、王国を蹂躙出来たのはでかかったですね。三位はギルド長、四位は俺、最下位は姫様。罰ゲーム決定!」

「罰ゲームなんて聞いてませんよ!?」

「大した事はしませんよ。ただ顔にラクガキするだけです」

「そ、そう。それぐらいなら別に良いわよ」


 許可も出たのでみんなに筆ペンを持たせてメリアの顔に猫のヒゲや太眉などを書いていった。


「ブフッ! 可愛い可愛い」

「姫様すみません……んぷっ!」

「これが王様にでもバレたら私達は極刑ですな! はっはっはっ!」

「え!? あっしも書いてしまいましたよ! 大丈夫ですかい?」

「いいわよいいわよ! 罰ゲームだもの! これちゃんと消せるのよね?」


 こっそり間抜け面を撮影してからクリーンで綺麗さっぱり消してあげた。


「それじゃ今日はこの辺で寝ましょうかね」

「あ、お金返すわね」

「貰っといていいぞ」

「え、でも、これ本物よね? おもちゃじゃないのよね?」

「本物だぞ。楽しんでくれたみたいだしあげるあげる」


 そう言った俺を見て、全員唖然とした。


「貰えませんよ! こんな大金!」

「そうですジュース殿! このような大金は受け取れません!」

「どうしやしょう!? どうしやしょう!? 本当に貰えるんで?」

「俺に二言はあるが、やると言ったらやる男だ。受け取っとけ」


 現金で持っていると危ないので簡易インベントリを付与してそこにお金を入れさせた。


「使うも使わないも君達の自由だけど、使った方が人生は楽しいと思うからどんどん使ってけ」

「先生ってやっぱり頭おかしい……」

「こんな大金を持ってるなんて思ったら夜、眠れませんよ!」

「執事を辞めたらジュース殿に仕えさせて貰いましょう。もちろん給料は要りませんよ」

「あっしは、母ちゃんに大きな一軒家を建ててやりてぇな。旦那、本当に貰いやすぜ?」

「おうおう、使え使え。俺も使わないといけないんだが使い所が中々無くてね。これじゃ国が回らなくなって終いにはただの金属の塊よ」

「どれだけ持ってるのよ……」

「んん、王都が3回買えるかも?」

「それは流石に、流石に無いわよね?」

「見てみる?」

「いや、よして、気が狂いそう」

「ジュース殿は本当に噂以上のお方のようだ」

「あっしは何があっても全て受け入れやす!」


 その夜はスリープで全員安眠させてあげた。

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