第22話 流されエルフ

「すみません……背負って貰っちゃって……」

「いえいえ、ミスミさんの胸が背中に当たって最高ですよ。苦しい! 首を締めないで!」


 首を締められトラウマが蘇る。

 ヒトセめ……完全にPTSDだよ。


 体力と魔力が切れて動けなくなってしまったミスミさんを背負って宿屋へと帰還した。


「あらま! 部屋はご一緒にした方が良いかしら?」

「それが良いですね! と言いたい所ですけど……?」

「良いわよ、もう……お金の無駄だしね」

「うふふ、ではご一緒のお部屋でお取りしますね」


 俺の荷物はインベントリに全て入れてあるのでミスミさんの部屋の荷物を店員さんに運んで貰い、二人部屋へと移動した。


「それではごゆっくり」


 二人部屋は広い作りで伸び伸びと過ごせそうだ。

 ちなみに今は30kg負荷にしてある。

 パッシブ魔法を切らずに歩いたら床がミシミシ言ってやばかった。

 ちゃんとリストアしたから大丈夫だと思うけど。


「もう降ろして大丈夫よ。ありがとう」

「こちらこそありがとうございます!」

「本当に破廉恥ね。あなた」

「何せハーレ、じゃなかった、ハートが強いので!」

「でしょうね!」


 危なかった。また記憶を消さなくてはいけなくなる所だった。

 うっかり発言には気をつけないとな。


 夜は自分で作ってみたいと言われたので材料を出してあげて、レシピ本を日本語からエルフ語に翻訳魔法で書き換えてあげた。


「痛っ! むー、何でこんなに不器用なのかしら……」

「ヒール。腕ごと切り落としても治せるんで焦らず作ってくださいね」

「ジュースが居ると本当に便利ね」

「惚れました?」

「全然?」


 いつの間にか呼び捨てになっていたので脈はありそうかな?

 まぁ、無理してミスミさんと今すぐ結婚する必要も無いので気長にお付き合いしていこう。


 血だらけの海鮮パスタが出来上がったので美味しく食べました。


「ミスミさんを感じられて最高のお味でした!」

「……変態、でも食べてくれてありがと」



 夜中。


 くっ付いたベッドを引き離してそれぞれ眠りについたがミスミさんがトイレに起き出しベッドに戻って来ると俺が寝ているベッドに潜り込んで来たのである。

 こんなベタベタな展開が存在するなんて! この世界に生まれて来て本当に良かった! 感動した!


 寝ぼけているミスミさんにどんなイタズラをしてやろうか考えていると俺の体にミスミさんの細長い腕と脚が絡み付いて来て、身動きが取れなくなってしまった。


「あへぇ……最高や……でもちょっと苦しい……胸が……胸が……」


 我が息子も暴れ出したいのか血流が上がる。

 だが腕をガッチリ固定されて動かせず、腰を少しだけ動かせる程度で生殺し状態だった。


 そんな状態が朝まで続き、一睡も出来ず、俺の股間は漏らしたようにシミに。

 クリーンを使えば綺麗には出来るが、この落とし前をきっちりと付けさせて貰うべく、そのままにしておく。


「ん……朝……ふああ、むにゃにゃ……すぅ……すぅ……ん? 何か変……?」

「おはようございます。寝心地は良かったみたいですね」

「おはよう……? って、え! あれ!? あんた何してんのよ!?」

「ミスミさんに寝込みを襲われ、抱き着かれて一睡も出来ませんでした」

「はぁ? 私がそんな、そんな……事、しちゃったのね……ごめんなさい!」


 振り返り自分が寝ていたはずのベッドとは違う事を確認して素直に謝るミスミさんでした。


 ベッドから起き上がると改めて謝罪をするミスミさんにもういいです、と言いながら自分のびちょびちょになってしまった股間を見せ付けると顔を真っ赤にしてさらに謝罪し倒すのであった。


「一晩中生殺しです。魔法を使えばミスミさんに襲い掛かる事も出来ましたがミスミさんの事を想って耐えました。何かご褒美をください」

「ご褒美って……どうせエッチな事でしょ? ダメよそんなの……。姫様にも申し訳が立たないし、それに、そういう事はもっとお互いの仲を深め合ってからじゃないと……その……」

「俺はスイレと出会って直ぐに子作りさせられましたよ? スイレが良くてミスミさんがダメな理由ってありますか?」

「そ、それは掟で、仕来りで、ルールだから……それに、もう、ジュースさんと子作りしても子供は産めないし……だから……」

「産めますよ? 印は解呪しましたから」

「え、嘘だぁ…………本当に?」


 着ていた服を一瞬にしてインベントリに全て入れて全裸になる。


「確認してみてください。どこにも無いですよね?」

「きゃっ!? 前! 前、隠してください!」

「確認してください!」

「分かったから! 確認するから! 大きくしないで!」

「大きくしたのはミスミさんですよ!」

「そうだけど……寝ぼけてたから……うぅ、姫様ごめんなさい……」


 印が無い事を証明するためにミスミさんに全身隈なく確認させた。


「本当に無いんですね……ど、どうしよう、私、ジュースさんと子作りしないといけないのかな……」

「俺の事嫌いですか?」

「嫌いじゃないです! けど、まだ出会ったばかりだし、里のみんなを裏切るみたいで……それに、姫様の事を想うと……」

「じゃあ、スイレさんに会って話しましょう。大丈夫です。記憶を思い出してください」

「記憶? うっ……ハーレム王……」


 頭を抱えて思い出そうとしているようだ。


「思い出しました?」

「あー!? あなた8人も奥さんが居ながら私まで毒牙に掛けるつもりだったのね! 許さないんだから!」


 殴り掛かって来たミスミさんの両手を掴みベッドに押し倒す。


「まだ7人ですよ! 毒牙に掛けるなんて人聞きの悪い! そもそもミスミさんが夜這いを掛けて来るのが悪いんですよ! 俺は惚れっぽいんですから! 少しその気にさせられたら、とことんまで愛してしまうんです! ミスミさん好きです! 結婚してください!」

「な、なななな!? なんて事を!? 私が好き!? 結婚!? 冗談でしょ!?」

「俺は本気ですよ! ハーレム王は一度好きになった女性は決して諦めません! 必ず幸せにしてあげます! 子供も沢山作りましょう! 美味しい物も沢山食べさせてあげます! 楽しい事も沢山教えてあげます! 俺と結婚してください!」


 ミスミさんは顔を真っ赤にして顔を隠そうと目を瞑り首を横に向けて逃げようと必死にもがき続ける。


「姫様助けて!」


 その心からの叫びに自分が何をしでかしてしまったのか、俺はやっと理解して手を離すとミスミさんは嗚咽を上げて泣き出してしまうのだった。


 リラックスを使おうと思ったがミスミさんが落ち着くまで俺はただ待ち続けた。


「もう、大丈夫です。あなたのお気持ちはよく分かりました。少しだけ待って頂けないでしょうか? ジュースさんの事をもっとよく知ってからどうするか決めたいと思います。今すぐ結婚と言われても正直なところ想像もつきません。少しだけ、ほんの少しだけ時間をください。お願いします」


 真剣な表情で赤く腫らした目で真っ直ぐこちらを見つめるミスミさんはどこか神々しくもあり、惚れて良かったと心底から思うのだった。


「ごめんなさい! 待てません! 転移!」

「え?」


 ミスミさんの手を握りスイレの近くに転移した。


「あら、旦那様、とミスミ? どうしたのかしら? そんなに目を赤くして?」

「ミスミさんと結婚させてください!」

「あぁ、そういう事ですか、良いですよ。ジュースさんの思うままに」

「姫様!?」


 やったね! スイレの許可は取れた。次はニーナだな。


「転移」

「また!?」


 ニーナの居る実家に戻ると姉さんはエスとイチャラブしている最中だった。


「ぴっ!? これは違くて! ニーナさんが急に!」

「あら、エスちゃんの方から抱き付いて来たんじゃなかったかしら?」

「そ、それは、その、なんて言うか……ってジュース! あんたまた別のエルフを連れて来て! まさかハーレムに入れるなんて事、言うんでしょうね! 分かってるんだから! 勝手にすればいいわよ! もう!」


 理解が早くて助かる。

 エスもだんだん俺の事が分かって来てくれて嬉しく思う。


「姉さん、ここに居るミスミさんと結婚させてください!」

「良いわよ。もう、ジュースが選んだ子なら全員受け入れてあげる心づもりだったから、ただし一人でも不幸にしたらあんたを殺して私も死ぬからそのつもりでね。分かった?」

「ひゃい! 十二分に!」


 生まれて初めて一番怖いニーナの真剣な表情に魂から震えが襲って来た。


「ミスミさんって言ったかしら、馬鹿な弟だけどバカ正直な良い子だからよろしくしてあげてね?」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 やった! ミスミさんによろしくされたぜ!

 姉さんの許可も取れたのでアマテの所に転移して問題解決した事と結婚の報告に向かう。


「あ、ジュース君、今授業中だよ? 何かあった?」

「師匠? その方は?」


 辺りを見回すと確かに我が学び舎の教室だった。


「ジュース君、今日も欠席かと思いましたけど出席してくれて先生嬉しいです」

「あ、いえ、あぁ……ま、ここで言ってもいっか。アマテ、ルミ、ビスト先生、ここに居るミスミさんと結婚する事になりました! 三人ともよろしくね!」


「「「……」」」


 俺がそう言い終わると教室中が静寂に包まれた。


「「「はぁ!?」」」


 そして一気に爆発するクラスメイト達。


 何を言っているんだこいつとか、頭おかしいんじゃないかとか、罵詈雑言が飛び交う。


「何を騒ぐ事があると言うのかね君達、この俺を誰と心得ておる、世界一のハーレム王になる男ぞ。頭が高い、控えおろう」


 それを聞いたクラスメイト達は嫉妬に狂い襲い掛かって来て、俺を殴る蹴るの暴行をし始めた。

 その中にはアマテとルミと、本来なら止めなければならないビスト先生も混じっていた。

 アマテは笑っていたのでノリで参加したな。

 ルミは師匠をボコボコにするチャンスと見たか。

 ビスト先生は止める振りをしながらマジで蹴って来てる。痛い。


「ど、どうしましょう? どうしたらいいのかしら?」


 おろおろし出したミスミさんに近寄る一人の影。


「美しいレディ、落ち着いて、彼にとっては日常なので心配要らないよ」

「そうなんですね……」

「私はリンド・テール・マクマシステイ。彼とは不本意ながら親友という間柄さ。彼についてはそれなりに知っているので良ければ話をしようか」


 イケメン度に更に磨きが掛かったリンド君だ。


「リンドさん。私はミスミと言うエルフ族です。彼が何者なのか知りたいと思っていたので教えて頂けると助かります」

「では彼がこの学園に入学した所から話しましょう、あれは確か……」


 ほわんほわんほわんほわわーん。

 って回想話や総集編なんてさせないからな!


「転移!」


 ミスミさんのところにショートジャンプして更に転移でスイレの所に戻る。


「あら、旦那さん、ボロボロではないですか? その顔、上手く行ったみたいで何よりです。ミスミもこれからは姉妹として仲良くしてくださいね」

「えっと、はい! よろしくお願いします!」

「うむうむ、上手く行って良かった良かった」


 ミスミはその場のノリと勢いに流されてハーレム入りするのだった。


「じゃあ早速、子作りしましょうか。ミスミ、床の準備をしなさい」

「え!? あ、待って! まだ心の準備が!」

「待ちません。旦那さんもそれでよろしいですね?」

「あ、はい! 勿論です!」


 何かぶっとい手綱をスイレに握り締められた様な気がするがきっと気のせいだろう。


 スイレさんの見守る中、ミスミさんの初めてを丁重に貰い受けました。


「どうしてこうなった……?」

「痛かったですか?」

「いえ、凄く凄く良かったです! けど、これで良かったのかしら……うーん?」

「ふふ、ミスミはすぐに考え込んでしまう癖がありますからね。全て旦那さんの思う通りにしておれば皆幸せになれます。深く考えずとも良いのですよ」

「姫様が言うなら確かですね! ダーリン、これからも末永くよろしくお願いしますね!」


 ダーリン!? 可愛いじゃないか! ミスミさんの事はこれからハニーと呼ぶ事に今決めた!


「ハニー! こちらこそよろしくお願いします!」



 俺はこの時、知る由もなかった。

 スイレが里に居る未婚の女性全員を俺のハーレムに入れ、子作りさせる壮大な計画を練っていた事に。


「というのはどうでしょうか?」

「ほほほ、ジュースさん、流石にそれは妾でも怒りますよ?」

「ですよねぇ……本当にダメ?」

「もう、いけずな旦那さん。分かりました。御触れを出して様子を見ましょう。ですが本当によろしいのでしょうか? 10000歳を超える未婚の者もこの里には居ります。子は成せるでしょうが、見た目は完全におばばですよ?」

「見た目で判断してる部分は勿論ありますけど、中身が大事ですから問題ありません。俺と結婚したいという方ならどなたでも歓迎します!」


 この時の俺を殴り飛ばしてやりたい!

 後日、想像してたおばばよりも、より見た目が妖怪おばばな化け物共が殺到して来て地獄を見た。


「という事にもなりえますが本当によろしいでしょうか?」

「あぁ……ちょっと考えさせてて……うーん。やっぱりやめ、いや、俺はハーレム王、例え嫁達が年老いてしわくちゃな妖怪変化に成り下がろうとも最後まで愛し抜くという覚悟が俺にはある! オーケー! 計画を進めてくれ」

「ふふふ、本当にいけずな旦那様。後になって泣き付いても妾は何もしてやれませぬよ?」

「ハーレム王にも二言はある! 本当に困った時は助けてください! お願します!」

「はぁ……妾、完全に選択間違えましたね」


 後日、本当に御触れを出して俺の嫁募集を開始するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る