第21話 筋トレと美人エルフ

「わぁ、本当に転移出来るんですね!」

「ごめんね。自己紹介もまだなのに」

「いえいえ、お話は聞いておりますので大丈夫です! 私はミスミと申します。里の者にはよく老け顔と言われますが、こう見えてもまだ120歳なので、どうぞよろしくお願いしますね!」


 ミスミさんはどう見ても20歳ぐらいのインテリ美人さんにしか見えないが、これで老け顔ってエルフの女性の美は全く分からん。


「ジュースです。年は17歳。ハーレム王を目指していましたが少し挫折しました。よろしくお願いします」

「は、ハーレム? え? それは聞いて無かったな……。男好きに目覚めて苦労してるって話だったのに……困ったな……」

「あれ? 広場で俺には嫁が居るって言いませんでしたっけ?」

「聞いてたけどエルフのお嫁さんが一人じゃなかったの? ハーレムって事は他にも居るんでしょ?」

「ええ、まぁ。えーっと今は、実姉のニーナとクラスメイトのアマテと妖精のリリーとエルフのエスと学園の担任のビスト先生とクラスメイトで弟子のルミと不死族のヒトセ……はまだだったか、で最後にスイレさん」

「ちょっと待って……8人、じゃなくて7人も奥さんが居るの?」

「改めて聞くと多いですね。でも大丈夫です! 俺、ハーレム王になって全員を幸せにすると決めていますから!」

「そ、そう……」

「何かお嫁さん達の事を考えていたら挫折してたのが嘘のように無くなりました! 俺、必ずハーレム王になってみせます!」

「が、頑張ってね?」

「はい!」


 ミスミさんは考えるのをやめたのか上の空に。

 俺はハーレム王になる自信を取り戻せたので結果オーライだ。


 魔界に入る前に魔法で魔族に変装して街中に入る。

 相変わらず重力の負荷が掛かって重いが良い運動になるぜ。


「はっ! ちょっと意識が飛んでいたわ。っていつの間に魔族に!?」

「しーっ! 変装してるのバレちゃいますよ」

「あ、ごめんなさい……。じゃなくて! ハーレムの事よ! 姫様はハーレムの事知っているの? こんな事が里にバレたら幽閉どころか地下牢で魔法無効化して縛り上げて一生性奴隷として飼われるわよ!?」

「え、マジ? スイレさんは知ってるけど里にはまだバレていないはず。大丈夫大丈夫!」

「私にバラさないでよ! あぁもうどうしよう! 私が協力して隠してたのバレたら何されるか……。よし、聞かなかった事にしよう!」


 聞かなかった事にしても意味無いんじゃないかな?

 ハーレムがバレたら監視役のお前が何故気付かないって話になってやっぱり怒られると思うんだけど。

 あ、そうだ。


「記憶よ消えろー!」

「あれ? 私、いつの間に? あ、転移したんですね! すごい!」

「俺はジュース! 君はミスミ120歳老け顔オーケー?」

「え? 自己紹介しましたっけ?」


 これで大丈夫だな。

 記憶系と洗脳系はあまり使いたく無いけどミスミさんが怒られるよりはいいっしょ。


 街を観光しながら趣味の話などで盛り上がり、武具屋に行く事になった。


「しゃーせー! 好きに見ていってよ!」


 明るい店員さんだ。

 頭もツルツルで明るい。

 黒光りしたタコの悪魔だ。


 魔族や悪魔の街らしく、禍々しい武器や防具が揃っている。

 人の手には余る代物ばかりだ。


「槍とかどうですか? ほら、これなんか良さそう……高いわね……」

「金はあるんで好きなの選んでください。護衛もして貰うつもりなんで良いの選んじゃってくださいよ」

「えー、悪いわよ。でも護衛もするんだし遠慮無く選ぶわね!」


 ウッキウキじゃん。

 武器コレクションをしているだけの事はあるな。

 俺も好きな物を何でも買って良いって言われたらテンションめちゃ上げよ。


「うーん、弓ねぇ……投げナイフと、どっちにしようかしら……。あぁ! ドラゴンソード! 実用性は全く無いのにこの魅力的なデザインは最高ね……。杖も良いわ……この蠢くような触手の塊のようなデザイン、センスあるわ……」


 種族は変われど女の買い物は長いようだ。

 インベントリから100枚ほど金貨を取り出してカフェで待っていると伝えると目を輝かせて「少しだけ待ってて」と言って店員を取っ捕まえて何やら相談し始めた。

 まだまだ時間は掛かりそうだな。


 ちなみにこっちの大陸に来てから通貨がコロコロ変わるので自動両替機能をインベントリに追加してある。

 金目の物なら宝石でも貴金属でもなんでも両替出来る便利魔法だ。


 昨日行ったカフェとは違う店に入りおすすめを注文すると巨大蜘蛛のアイスクリームを出されたので、この街では二度とおすすめを頼まない事にした。

 隣の席に居た友達連れの子供悪魔に全部あげると言ったらすごく嬉しそうに平らげてくれた。

 良かった良かった。


 しばらく子供悪魔達と談笑しているとミスミさんが戻って来た。


「良いの買えた?」

「いえ、オーダーメイドという物にしました。後日受け取りに行きます」

「ふむ、まぁ良いんじゃないか? で、何を作って貰うの?」

「まだヒミツです」

「そう……」


 実用性の無いものを作られてもしょうがないけど、その辺は大丈夫だと信じたい。


「この後はどうしましょうか? 宿屋を決めても良いですし、もう少し街を見て周るのも良いですけど」

「お兄ちゃん達付き合ってるの? ならあそこが良いよ。占いママの秘密小屋」

「ボクは魔獣公園がデートには最適だと思うな」

「わたしは宝石店で指輪とかイヤリングを買って貰いたいわ」

「うわ、お前絶対モテないぞ。オレならギリギリモンスターハウスでカッコいいとこ見せたいね」


 子供達が勘違いして勝手に盛り上がり出した。

 ミスミさんとデートか、良いんじゃないか?


「ミスミさん、俺とデートしますか?」

「はい? ジュースさんには姫様という方がいらっしゃるのに何を考えているんでしょうかね? ぶっ飛ばしますよ?」

「ごめんなさい」


 記憶消したの忘れてた……。

 その後、宿屋を決めて別々の部屋を取ってそのまま就寝するのだった。


 翌日。


「今日も一日頑張るぞいってね」


 だんだん負荷にも慣れて来たので五つ目の常時魔法を掛ける。


「オートクリーン」


 これで汗を掻いてもすぐに綺麗に出来る。

 250kg近い負荷が全身を襲うがまだまだ歩けるので六つ目を掛けるのも早そうだ。


「おはようございますジュースさん」

「おはようミスミさん」


 朝食は宿屋のキッチンを借りて焼き鮭と味噌汁とたくあんと梅干しとご飯を作ってあげた。

 もちろん材料は魔法で用意したけど、調理は俺がやった。

 ミスミさんの胃袋を掴むぜ!


「美味しい……なんて料理でしょうか?」

「和食って言うんだけど、我ながら美味しく出来たな」

「本当に美味しい……。私も料理出来れば良いんですけど、苦手なんです」

「じゃあ、俺が作ってあげますよ。あ、そうだ。召喚、世界の料理レシピ大全」


 分厚いレシピ本を召喚してミスミさんに手渡す。


「え、これは?」

「好きな料理を選んでくれればそれを作ってあげます」

「すごい、こんな……絵なの? 本物を切り取ったみたい……。どれも、これも、美味しそう」

「売ったりしちゃダメですよ?」

「そんな勿体無い事しません!」


 部屋に戻ってからも食い入る様にレシピ本を読みながら、これは作れるか、これはどんな味か、など質問責めにあったので食事時以外は没収する事にした。


「もう! 返してくださいよ!」

「やだ」

「ケチケチケチケチ! そんなんじゃ姫様に嫌われますよ!」

「スイレには何でも好きな物を作ってあげるから問題ありませーん」

「ずるい! ずるい! 私にも作りなさいよー!」

「お婆ちゃんさっき食べたばかりでしょ!」

「ジュースさんから見たらお婆ちゃんですけど! ボケるには早過ぎますよ!」

「いや、俺から見たらミスミさんは20歳ぐらいですよ。さっきのはヒューマンジョークです」

「あ、あら、そうなの……20歳……私が20歳……ふへへ」


 気持ち悪い笑顔のミスミさんはほっといて、今日は筋トレを始める事にした。

 今は寝る時以外は魔法を五つ発動しているので今日は六つから始めてみる。


 宿を壊してはいけないので公園に出掛ける。


「防御力上昇。ぐあっ!?」


 350kgぐらいか、流石に重い。

 ブチブチ筋肉が切れる音が聞こえる気がするがオートヒールで回復するので問題無い。


「ゆっくり歩いてみるか」


 ドシンッ! ドシンッ! と歩く度に音が響く。

 ちょっと怪獣気分。

 小慣れて来たので試しにもう一つ魔法を掛けてみることにする。


「クッション。おほっ!?」


 地面を柔らかくする魔法を掛けて正解だった。

 これは500kg超えてますわ。

 地面が固いままだったら押し潰されて内臓が破裂しているところだったね。


 クッションの効果が切れると負荷も350kgに戻った。


「さっきよりも全然体が軽いや」


 と言っても重い事には変わらないのでゆっくりと腿上げ運動をする。


「あ、居た! もう、突然消えないでくださいよ!」

「今、体を鍛えているんです。ミスミさんも一緒にどうですか?」

「え? まぁ、良いですけど、今度は一声掛けてから出掛けてくださいね!」

「お母さん?」

「こんな大きな子供を産んだ覚えはありません」


 ミスミさんノリツッコミ出来るなんて流石だな!

 とりあえず一緒に運動する事になった。


「え! 魔法を掛けて運動してたんですか!? 大丈夫なんですか!?」

「ご覧の通り。ミスミさんも何かパッシブ系の魔法を掛けてみたらどうですか?」

「あぁ……私、魔法はそんなに得意じゃなくて、初級の攻撃魔法ぐらいしか使えないんですよ」

「そうでしたか、魔法教えましょうか?」

「勉強は苦手で……あはは」

「大丈夫です。俺に任せてください!」


 弟子のルミと同じようにミスミさんにブレインジャック。

 もちろんパッシブ魔法を一つ解除してから使ったので問題無い。


「ア……ア……」


 120年分の凝り固まった脳内をほぐして魔法を覚えやすいように弄る。


「よし、試しに筋力アップを使ってみましょう」

「今、何か、頭の中身をグチャグチャに掻き回された感じがしましたけど、大丈夫でしょうか?」

「全然大丈夫ですよ! さあ早く!」

「筋力アップ! くっ、重い! けど発動しました! すごいです!」


 ふっ、我ながら恐ろしい能力だ。

 使う人を見極めないと、悪人にでも利用されたら厄介だ。


「魔力量が上がった訳では無いので今日教えるのは一つだけ、魔法は使えば使っただけ魔力量も増えていくのでパッシブ魔法は常に発動しておきましょう」

「了解です!」


 新たな弟子が誕生した。


 その後も350kgの負荷になれる為に腿上げ運動、飽きたら縄跳びを召喚してジャンプ運動。

 縄跳びを知らないミスミさんに貸して貸してと懇願されたのでもう一つ召喚して貸してあげた。


「膝が痛いです! 拷問器具ですか!」

「ミスミさんが下手クソなだけです。こうやって縄が降りて来た瞬間にジャンプですよ。ミスミさんはタイミングが早すぎるんです」

「こうですね! あだっ! もう一度、ほっ! 痛い! 無理! 私にはもう無理です! お返しします!」


 根性無いなー。

 ま、無理にやる必要も無いし違うの出すか。


「召喚、バドミントンセット」


 テニスでも良かったけど周りの人、じゃなくて悪魔にボールを当てると悪いからバドミントンにした。


「羽根つきのボールですか? この網は何でしょう?」

「これはこう使って遊びながら運動するアイテムです」


 お手本として羽を高く打ち上げて一人バドミントンを始める。

 すると直ぐに私も! 私も! とミスミさんに催促されたのでラケットを貸して勝負する事にした。


「ミスミさんは初心者なのでハンデとして3点先取で勝ち、俺は10点先取で勝ちって事で良いですか?」

「良いですよ! 早く始めましょう!」


 350kg VS 30kgの負荷付きバドミントン勝負が始まった!



「ヒィ、ヒィ、もう、動けません……」

「やっと慣れて来た所なのに残念です」


 ミスミさんが打ち返しやすい様に高く上げて返していたので持久戦になり、体力が切れてしまったようだ。

 俺の方は350kgの負荷でも走れるようになったのでだいぶ成長出来たな。

 チート魔法様様である。ロキ神に感謝感謝だ。


 試しに今の状態で500kgの負荷を受けるとどうなるか気になったので汗だくのミスミさん(汗で服が透けてえっち)をクリーンで清潔にしてみると、膝から落ちた。


「流石にまだ早いか、イテテ」


 オートヒールで折れた膝は瞬時に治ったので問題無い。


「昼飯食べましょうか」

「作ってくれるんですか!?」

「いや、魔法で出します。召喚、ピクニックシート。クリエイトフード、サンドウィッチ、オレンジジュース」

「え?」


 召喚したシートを公園の木陰に広げてサンドウィッチを頬張りオレンジジュースをゴクゴクと飲む。

 最高だ!


「おかしい……おかしいです。魔法では食べ物を作れないはずなのに、なんで……」

「この世界が何故存在するのかを考えるのと同じだから気にしたってしょうがない。あるがままを受け入れましょう」

「いや、でも、だって……そんな、こんな事って……」

「あんまり深く考えてるとおっぱい揉むぞ?」

「……ありえるの? クリエイトフードなんて魔法が本当に……」


 ぶつくさ独り言を呟きながら思考の深海へと旅立ってしまったミスミさんのおっぱいを遠慮無く揉み揉みしてみた。


「うーむ。中々の揉み心地。良い仕事してますねぇ……?」

「……あの魔法力……でも……どうやって……」


 あ、ダメだこりゃ、しばらく戻って来れない奴や。


 考える人となってしまったミスミさんの体を好き勝手に揉みしだいてマッサージしてあげるとやっと戻って来たのか顔を真っ赤にしていた。


「何を! して! いるんですか!?」

「運動後のマッサージは体に良いんですよ? 知らないんですか?」

「マッサージは知っていますよ! 何故お尻を揉んでいるんですか! 殴りますよ!?」

「良い揉み心地でした。ありがとうございまプファッ!?」


 回し蹴りじゃないか! 殴るんじゃなかったとですか!?


 その後レシピ本を出して食べたいと指をさした料理をクリエイトフードで作って機嫌を直してもらいましたとさ。


「そう言えば武器ってどうなりましたか?」

「明日か明後日には出来ると言ってましたよ」

「そうですか」


 ふむ、じゃあ、午後も筋トレかな。

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