第23話 魔王とショタ

 魔界の街でミスミさん、じゃなくてハニーと楽しく修行する中、事件は起こった。


「おぉ! 魔王様が御忍びで参られたぞ!」

「急げ急げ! 書き入れ時だ! 魔王様! どうかこちらへ!」

「ええい! 押すな! ここからでは魔王様は見えぬわ!」

「魔王様おっきいい! カッコイイ!」

「え、俺には可愛く見えるぞ?」

「儂には孫に見えるのぉ」

「爺さん、それは本当に孫だ」


 ザワザワと街中の魔族や悪魔達が騒ぎ出して一気にお祭り騒ぎへと発展して行った。


「魔王様ですって、見に行きましょうよ?」

「そうだ、忘れてた。魔王を倒しに行く旅をしてたんだった!」


 修行と嫁達とイチャラブする生活で、すっかり目的を忘れていた。

 今では重力負荷も10tを超える勢いだ。

 そう言えば最近体がムキムキマンな気がしてたけど、通りで……。

 時の流れとは速いものだ。


「は? 何それ? ってそう言えばダーリンって人間だったわね……見た目は魔族だからすっかり忘れてたわ……。つまり敵って事ね。ダーリン覚悟!」


 オーダーメイドで作らせた見た目のクセが凄すぎるクナイを構えて、突然襲い掛かって来たハニーの背後をショートジャンプの転移で取り、嫁達の中で一番見た目と形が美しいブリリアントおっぱいを揉みしだく。


「甘いぞハニー! こんなに胸を大きくして! 最近、弛んでいるんじゃないか? モミモミ」

「ダーリンが事あるごとに揉むからでしょ! あんっ! 外ではやめてよね!」

「すまんすまん。帰ったらすぐに、ね?」

「もう、しょうがないダーリンなんだから!」


「けっ、甘過ぎて胸焼けがしてくらぁ……さて、魔王様魔王様っと」


 通行人、魔族に見られていた。

 もう、一々脳内変換するのめんどくさいので人で統一しよう。そうしよう。


「そうよ、魔王様! 早く見に行きましょうよ!」

「そうだな、戦える相手か見極めないと」

「まだ言ってる……。ダーリンでも魔王様には勝てないと思うわよ?」

「そうなのか。それは大変そうだ」

「ダメね。もう戦うって決めてる目だわ……」


 騒ぎの中心はすぐに見つかった。

 飛んで見つけたので早かったわ。


「空を飛べる魔法があるならすぐに教えなさいよ! これで狩りもしやすくなるわね」

「俺が料理出せるのに今更、狩りする必要ある?」

「……無いわね。でも気持ちいいからいいの!」


 さいですか。


 魔王を眼下に捕捉したので鑑定眼でステータスオープン。


「わお! 何も見せてくれないや!」

「何が見えないって?」

「魔王のステータス」

「見れるの?」

「いや、全然。試しにハニーのステータスオープン」


 ミスミ、エルフ、120歳、既婚者、最近胸が大きくなって来てすごく嬉しい。

 旦那のジュースが愛おしくて堪らない。

 お尻を弄った時の旦那の喘ぎ声が堪らなく好き。


「どんな感じ?」

「お尻弄り禁止」

「な、何を見たの!?」


 変態エルフは無視して魔王の側に降り立つ。


「ヘイ、そこ行く魔王さん。俺とちょっとバトらねぇかい?」

「何ですかいきなり? 失礼な方ですね。ん、お前人間か?」


 おっと、早速バレてしまった。

 魔王の目は誤魔化せないか。


「そうyouあなたは魔王さん?」

「チャラい人間だなぁ……何なんだよお前は」

「俺の名はジュース! ハーレム王になる男だ! 覚えておけ!」

「ハーレム王さんね。それで私に何か用でも?」

「いや、だからですね。俺とちょっと戦って欲しくてですね。一応勇者召喚に答えた身としては一度ぐらい魔王さんと戦わないといけないかなって、そう思いまして。あぁ、全然殺し合いとかそういうシリアスなのは勘弁してもらいたいんですけど、どうでしょうか?」

「ふーん、お前勇者なのか、にしては称号に勇者の文字が見当たらないが? あ、自称ハーレム王ならあるぞ。良かったな」


 やっぱり勇者の称号は付いてないよな。

 って自称ってなんだよ! これからなるんだよ!


「ちょっとダーリン! 魔王様に失礼でしょ! すみません魔王様。うちの旦那がご迷惑を」

「あぁ、この人の奥さん? ちゃんと手綱を握らないと、ろくな事になりませんよ? しっかり躾けて家内安全を目指してくださいね?」

「はい! あ、握手して貰っても……」

「良いですよ」

「ありがとうございます! やった! ダーリン! 魔王様と握手しちゃった! もう一生この手は洗わないわ」

「クリーン」


 手を洗わなくても綺麗に出来る魔法って本当に便利だわ。


「ねぇ、ダーリン。して良い事と悪い事があるの知ってる?」

「知ってるから、あえて破るのが気持ちいいんじゃないか?」

「あ、それ分かります。人間にしては話が合いますね」

「お、魔王さんもイケる口かい? どうでえ、俺とバトル、しちゃくれねぇかい?」

「うーん、そこまで言うなら、ほいっと」


 一瞬にして風景が変わり、だだっ広い草原へと飛ばされていた。


「ここなら暴れても良いだろ? 来いよ、使徒。ぶっ殺してやるからよ」


 魔王が臨戦態勢を取って、手をクイクイと曲げて俺を挑発する。


「使徒ってなんだ? それに殺し合いは勘弁してくれよ。俺はハーレム王になる男なんだ。魔王を倒して勇者や英雄になりたい訳じゃ無いぞ」

「はっ! 何も知らずに使徒に成り下がっていたのか馬鹿者め。貴様は神に利用された、ただの操り人形よ」


 問答は終わりと魔王が指を下に曲げると地面にクレーターを作る程の重力負荷が俺を襲い、骨や内臓がグチャグチャに押し潰されてしまった。


「ゴハッ!?」


 防御魔法マシマシでこの威力はマズイだろ!?

 オートヒールで即死は間逃れたが未だに体は押し潰され続けている。


「へぇ、これで死なないなんて、結構やるじゃない。これならどうかな?」


 魔王が指をクイっと上に曲げると、重力から解放されると同時に地面から無数の槍が出現して俺の体をズタズタに貫いて行く。


「あぎゃっ、ぶへっ、おごっ、ぶしっ」


 痛覚は遮断してあるのに勝手に口から悲鳴が上がる。

 俺のオートヒールは異物も排除するので串刺しっぱなしになる事は無いのだが、次から次へと槍で貫かれるのでたまったものじゃない。


「うへぇ、グロ過ぎ……さっさと死んでよ」


 槍が終わったと思ったら燃やされた。

 黒い炎は俺の細胞を一つ残らず消し炭にする勢いで轟々と燃え盛り、オートヒールの回復量を上回って焼き尽くされそうになったので覚えている限りの回復魔法をありったけ発動して耐え続ける。


「……なんで死なないんだ?」


 そんなの決まっている。まだこの世界で生きていたいからだ。


「がっ、ぐっ、よく、分からないが、神様関係の話が、ある、とすれば、俺が、死んだら、ぎっ、ぐぁっ、ロキ神と、夫婦になって、無限に子作りさせられる予定って事だけだ!」



 速報、魔王盛大にズッコケる。


「ロキ神かよー、緊張して損したー。そうならそうと早く言ってよね、もう!」


 黒炎が消えて体の自由が戻って来た。

 可愛くぷりぷり怒っちゃって見た目の厳つさとギャップがあり過ぎるぞ。


「なぁ、魔王さん。色々知ってるみたいだし無知な俺に神様の事とか、その他諸々を教えてくれないか?」

「良いけど、ちょっと待ってね、ほいほいっと」


 また突然風景が変わり真っ白な四角い部屋へと移動させられた。


「ここなら神々にも見通せないから大丈夫、改めまして悠波いちるです。ジュースさんの元の世界のお名前を聞いても良いでしょうか?」

「あぁ、転生者さんだったのか、俺の名前は……いや、転生した時に捨てたのでジュースが本名で良いです。あ、一応日本人で猫を助けようとしてトラックに轢かれて死にました」

「そうですか、私も高校の帰り道で転けた拍子にトラックに轢かれてしまって、この世界に来た時は本当にトラック転生ってあるんだなぁとしみじみ思いましたね。アニメとかはそれなりに見ていたので最初は嬉しかったんですけど、チート魔法とか全然無くて地道に頑張っていたらいつの間にか魔王にされてましたね」


 苦労して来たんだな……。

 俺がチート魔法使いたい放題とか言ったらぶっ殺されそうなので黙っておこう。


「全部丸聞こえですよ。もう、ずるいなぁ……あのロキ神でしょ? 何でもありじゃないですか。私なんて魔王にされてから神々の使徒と殺し合ってばかりで神の恩恵なんてこれっぽっちも貰えませんでしたよ! ロキ神もたまに加勢して使徒達を邪魔してくれますけど、結局最後は自力で何とかしなくちゃいけないし、もう、本当最低です! ジュースさんチート魔法で何とかしてくださいよ!」


 何とか? 何とかねぇ……?


「元の女子高生になれー、何つって?」


 と言った瞬間、見た目厳つい魔王は清楚系女子高生に姿を変えてしまった。


「嘘……私、元に戻ってる!? 鏡、鏡、やだ、本当に戻ってる! すごい! すごいよ! やっぱりチート魔法最高! ロキ神様ありがとうございます!」


 ひとしきりロキ神に感謝し終わると、次はこちらにも感謝し始めてペコペコ頭を下げられてしまった。


「俺はただロキ神の言う通り好き勝手自由に生きているだけなんで感謝されるような事は何も無いですよ。このチート魔法だってロキ神に与えられただけですし、感謝するのはロキ神だけで良いと思います」

「いえいえ、ジュースさんが会いに来てくれたおかげもありますし、やはり感謝しかないです。ありがとうございます!」

「いえいえ、そんなそんな」

「いえいえ、そんなに謙遜しなくても」

「いえいえ、俺なんて全然大した事してませんよ」

「いえいえ、全然全然」

「いえいえ、いえいえ」


 あぁ、なんか久し振りに日本人らしい会話をして懐かしいな。


「プフッ! 何ですかそれ? まぁ、確かに謙遜するのが日本人らしいと言えばらしいですけどね」

「ははは、いや、まったくその通り」

「なんか今のおじさんっぽいですね」

「え、まだ17歳ですよ?」


 こっちの世界に生まれてからだけど。


「私だって心は17歳ですよ」


 と言う事はこっちに来てからはもう、だいぶ長く経っていると……なるほどな。


「勝手に推理しないで下さい。そうだ、聞きたい事があったんですよね。知ってる事なら教えてあげますよ。その代わりチート魔法で何か色々して下さいね」

「オーケー、さて何から聞こうかな?」

「ロキ神はこの世界の創造神とか知ってます?」

「知ってる。ランダム生成したみたいな事を言ってた気がする」

「ランダムなんだ……」

「ランダム生成した世界にランダム転生させられた代わりにチート魔法を手に入れられたんだ。可能性としてはフジツボに生まれ変わっていたかもしれない」


 チート魔法使いのフジツボ。何をしろってのよ?

 と言うか思考出来ないっぽいから結局フジツボとして生きるしか無くない?

 フジツボに生まれ変わらなくて本当に良かった。


「ロキ神様ってそういうところありますよね……遊びが好きと言うか遊びが過ぎると言うか」

「ロキ神以外にも神って居るの?」

「居ますよ沢山。八百万の神って言いますけど、本当に無限に存在しますね。ちょっかい掛けてくる神々は少数ですけどね」

「ふーん、じゃあ、迷惑な神って何て神様?」

「異世界神と転生神と一神教系の神々と邪神達ですかね。ざっとですけど。他にも迷惑な神々は居ますから数え切れませんね」

「その辺の神が接触して来たら気を付けとこ」

「あと使徒は面倒です! 神の名の下に自分の正義を押し付けて本当に憎たらしい! 全員地獄に落ちろ! ゴミクズ共め!」


 魔王の覇気が出て来ちゃってるよ! 怖い怖い。

 クリエイトフードでタピオカジュースを差し入れてあげて機嫌を取った。


「食べ物を魔法で出せるなんて本当にチートですね。この世界では絶対に出来ない魔法ですよ。ロキ神も言ってましたもん。出来ないよキラッ! って」

「あぁ、言いそう言いそう! へぇ、本当に出来ないようになってたんだ。ガチチートじゃん」


 絶対に出来ない事を出来る様にしてくれてるって事は本当に俺の事が好きなんだな。


「愛されていると言うより溺愛ですね。何をしたらそんなに愛されるのか私も知りたいです」

「何って……猫を助けたぐらいしか……。あの猫、もしかしてロキ神と何か関わりが?」

「あり得ますね。ロキ神と猫、どちらも気まぐれで悪戯好き、似てます」

「ふーむ、ロキ神は猫だったという事か、見た目も性別がどっちか分かりにくいし、あながち間違いとも言い切れないな。今度会ったら聞いてみるか」



 その後も色々と話し合い、最後の方は日本の話などを談笑してお開きにした。


「今日はすごく楽しかったです! またいつでも遊びに来て下さい!」

「ああ、俺もすごく楽しかったぜ! そうだ、もし良かったら俺のハーレムに入ってみない?」

「お断りします!」


 あっさり断られてしまった、良い笑顔だ!


「残念、俺の嫁さん達と仲良くなれると思ったんだけどな」

「あ、奥さん達と仲良くなるのは全然良いですよ。魔王のせいで友達少ないですし」

「じゃあ仮ハーレムとして、体験入学してみる?」

「だからハーレムには入りませんって。はぁ……やっぱりロキ神の選んだ人だけはあるわ……」

「好きに生きろと言われてるんでね。それに前世で死んだ時にも来世は好き勝手生きてやるって自分に誓ったからさ」

「そうですか、私も元の姿に戻れたし、好きに生きてみようかな?」

「それが良いよ。何か困った事があったら助けに行くし、何でも相談してよ」

「はい、そうしますね。あ、でも戦争、どうしよう……?」

「世界の半分じゃ無いけど、大陸の半分あげちゃえば?」

「そんなゲームじゃあるまいし……」


 大陸の半分をあげると言われても納得するはずもないか。

 あ、でも物理的に半分にしちゃえば戦争のしようも無くなるか?


「なぁ、この大陸を物理的に半分にするのはありか?」

「……なるほど、ありね。でもそんな事出来るの? チート魔法って言っても限度があるでしょ?」

「無いんだなぁ、これが」


 以前自分のステータスを確認した時に見た魔力量の数値は空白だったので数値設定すらされていないっぽい。

 つまり魔法をいくら使っても問題無いという事だ。たぶん。


「チートどころかバグね。あなたと一緒に居たら私までバグりそう……」

「契約、悠波いちるの行使する魔法を俺の魔法力で発動するものとする」


 契約魔法発動で俺といちるさんを囲う様に地面に魔法陣が展開。

 契約が成立した。


「はい?」

「これでいちるさんもバグキャラですね!」

「……む、無茶苦茶よ! こんな事って! こんな、こんな事して、もし私が世界を滅ぼそうとしたらどうする気よ!?」

「全力で止めて強制ハーレム入りかな?」

「何よそれ……」

「いちるさん可愛いし、話しててすごく楽しいし、本当にお嫁さんに来て欲しいって思います」

「何度誘われても断るわ。言っておくけど私、処女なの。初めては好きな人の童貞で奪われたいの、それとショタコンだからジュースさんはもう、無理なんです。ごめんなさい」


 何かすごい告白をされてしまったが、ショタコンじゃ今の俺にはどうしようもない……とも限らないか?


「具体的に何歳ぐらいの子が好きですか?」

「え、10歳ぐらい?」

「召喚、10歳の時の俺」


 パアっと地面に魔法陣が展開して10歳の時の俺を召喚した。


「あれ? どこここ? 寝てたはずなのに、ロキ神に呼ばれた?」

「やぁ、ジュースくん、ゴブリン軍団のドロップ品を没収されて泣き崩れたあの日の俺にご褒美タイムだ」

「え、俺? マジ? イケメンに成長したじゃん! やったぜ!」


 イエーイ! と肘をぶつけ合いガッツポーズする俺ら。


「な、何してるのよ!? 過去の自分を呼び出す何て、時間神や時空神、時の神々が黙って無いわよ!?」

「ええ、だって童貞でショタコンって過去の俺に頼るしか無いじゃん」

「無いじゃんって、あんたねぇ……」

「よう、この美人で可愛い日本人っぽい子誰? まさか俺の未来の彼女!? よっしゃああああああ! 勝ち組来たあああああああ!」

「テンション高いわね、昔のあなた」

「ま、遊びたい盛りだしな。過去の俺よ、この人は俺と同じ転生者だ。童貞のショタで処女を奪われたいと御所望なので、優しくしてやってくれ」

「え、マジ? 10歳で卒業出来るなんて……俺は今、猛烈に感動している!」

「誰もやるなんて言って無いわよね?」

「え……お姉ちゃん、ボクとじゃイヤなの?」

「うっ……かわいい……あ、あんた卑怯よ! こんな、こんな可愛いなんて……! 良いのよね? この子とやっちゃって、良いのよね? 過去のあんたなんだから問題無いわよね?」


 鼻息荒くまくし立てるショタコンキラーいちる。

 ちょっと目が怖いな。


「好きにしてくれて良いぞ。あ、っと今の俺にはいちるさんとやった記憶が無いから、終わった後に過去の俺の記憶は消すぞ」

「未来の俺の記憶に無いって事はそういう事か……良いぜ、了解だ」

「という事でいちるさん、俺のハーレムに正式に加入って事でよろしいかな?」

「良いからさっさとやらせなさいよ! もう辛抱堪らないわ!」

「ハーレムって何だ!? 未来の俺はハーレムなのか!?」

「おう、15歳になったら姉さんにハーレム作りたいって言っとけよ。この記憶は残しておくから」

「よっしゃあああああああ! ありがとう未来の俺!」

「童貞ショタアアアアアアアアアッ!」


 いちるさんは我慢の限界が来たのか雄叫びをあげて過去の俺に飛び掛った。


「うわっ!? 何だよいきなり!? んむっ! あふっ、ちょっ、まっ、心の準備が、あ、アアアアアアアアアッ!」

「良い匂い! モチモチフワフワ! ペロペロペロペロ! 美味しいいいいい! きゃわわわわわわ!!」


 過去の俺が痴女に犯されてる……。トラウマ物だろこれ……。あ、だから記憶消したのか、なるほどなー。


 その後いちるさんの気が済むまで過去の俺はヒンヒンと泣きながら喘いで精を吐き出し続け、俺はそれをただ見守る事しか出来ないのであった。



「ふっくっ……えっぐっ……こんな初体験やだよ……」

「記憶消去、ハーレムは忘れない」

「ん、あれ、俺、どうしたんだ?」

「お疲れ様! もう戻って良いぞ。送還」


 ショワワーっと光となって消えて行く過去の俺を見送り、グチョグチョのまま満足そうに眠りこけている、いちるをクリーンで綺麗にして服装を整える。


 それにしても酷かったな……。

 嫁さんにするのちょっと考え直したくなるレベルだ。

 いや、でも、あの激しさは少し体験してみたい気もする……。


 いちるさんが起きるまで一人で悶々と悩む俺だった。



「あれ、私の天使くんはどこ?」

「もう返しましたよ。その天使くんが成長したのが俺です」

「……そう、だったわね……。恥ずかしい……。ちょっと、こっち見ないで……。あんなに乱れちゃうなんて、相当溜まってたのね、私……。そうよ、それもこれも全部使徒のせいよ! 一人でしようとすると必ず邪魔して来て、本当に許せない! 人のエッチを邪魔する者はみんな死ねば良いんだ!」


 同感だが、子供に八つ当たりするのはどうかと思う。


「うるさいわね! あなた本人が許可したんだがら私に非は無いわよ」

「そうですね」


 主観的に俺が被害を被った訳でも無いし、ま、いっか。


「それで、私もジュースのお嫁さんになったのよね?」

「え、うん、まぁ、そうだね」

「何か不満でも?」

「いや、全然」

「そう、なら、たまにで良いからショタのジュースくんとやらせなさいよね。それぐらい良いでしょ? 奥さんなんだから」


 こんな厄介な嫁をハーレムに入れて、果たして良かったのだろうか?


「処女奪ったんだから責任取ってよね、ア、ナ、タ?」


 あれを見た限り、童貞を奪われたの間違いでは?

 最後ガチ泣きしてたぞ、俺。



 その後、ニーナや嫁さん達に、また嫁が増えたと報告しに行ったらニーナといちるが殴り合いの喧嘩を始めてしまった。


「あんたが私の可愛いジュースを誑かしたのね!」

「何の話よ!? 痛っ! 殴ったわね! こっちだって!」

「クッ! 何よ! ジュースの童貞奪ったくせに!」

「な!? 何で知ってるのよ!?」

「やっぱりあなただったのね! もう許さない! この泥棒猫!」

「髪を引っ張るな! ジュースが良いって言ったから良いんだもん! 実の姉が弟に手を出す方がおかしいのよ!」

「どこの家でもやってるわよ! 常識も知らないなんて、どこの田舎育ちかしら!」

「はぁ!? あんたの家こそ田舎じゃない! 何どさくさに紛れて胸揉んでるのよ!」

「ずるいずるい! ジュースの童貞返して! ジュースの童貞返してよ!」


 醜い争いだ……。

 孤児院の様子でも見に行くかな……。


「どこに行こうとしているのかしら?」

「エス……いやぁ、ちょっと孤児院にでも」

「あんたのせいで喧嘩してるんだから、あんたが逃げ出してどうすんのよ!」

「ならエスはあれ、止められるか?」

「それは無理。でもジュースが原因なんだからなんとかしなさいよ?」


 なんとかと言われましても姉さんも怖いし、いちるも元魔王だから怖いし、俺が何か出来るとは思えない。


「よし、逃げよう! ドロンッ!」


 ハニーの居る魔界街に転移で逃げた。


「あ、ダーリン。お姉さんの許可は取れたの?」

「いや、喧嘩し始めちゃって……逃げて来た」

「……それはちょっと無責任ですよ? 私も一緒に行くので仲裁しに戻りましょう」

「元とは言え魔王に何か言える?」

「……あぁ、それはちょっと……私には荷が重いです」

「でしょ?」


 俺たちに出来るのは熱りが冷めるのを待つだけなのだ。



 さて、魔王を期せずして引退させる事に成功した俺は魔物と人間の争いを仲裁するべく大陸を真っ二つにする魔法を発動、の前に魔王領と人間領に居る人達それぞれを分けないとな、ベヌルンの壁状態は不味い。


「盤上の駒」


 大陸を盤上に見立て、人や魔物を駒のように移動させる魔法だ。

 これで人間領に居る魔物や魔族、悪魔を魔王領に、魔王領に居る人間を人間領に移動させていく。

 もちろん魔族と人間の夫婦だったり、家族や友人が居る者の意思を尊重してどちら側に住むか要望を聞く。

 どちらも選べない者はうちの村に来て貰う事にした。


 結果、要望を聞いた全員がうちの村に来る事になったので村の開発を進めないとな。


「ん? 神の振りをした悪魔だと? 何を言っているのかね?」


 盤上の駒は吹き出しが出て何か要望や意見がある者のセリフが表示されるようになっている。


「お、軍隊を揃え出したな? これだから人間は……って魔王軍も揃え出しやがったか! こりゃ、さっさと真っ二つにするしかないね。おりゃ!」


 盤を真っ二つに切断すると、グラグラと巨大地震が発生して大陸が割れた事が窺い知れた。


「あわわわ! 地震ですよ! ダーリン! 頭隠さないと!」

「大丈夫、大丈夫、人が死んだり物が壊れたりはしないから」


 予めこの大陸中に安全第一魔法を掛けたので建物が壊れたり、人や魔物が死んだりなんて事にはならないのである。

 ちなみに土砂崩れや地盤沈下といった自然災害も無いよ。

 ただ大陸が割れた事が分かりやすいようにグラグラさせてるだけです。


 転移で大陸の中心に飛ぶと見事に真っ二つに割れて海が出来ていた。


「人間領から魔物領まで船で行くとざっと三ヶ月ってところか、これで戦争しても利益は出ないだろ」


 結局戦争に介入しちゃったけど、いちるの為だし、ま、ええやろ。

 それからしばらく混乱は続いたが、人と魔物の戦争は終結した。

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