第19話 戦争とエルフ

 転移で魔物の街に戻り、次の街へと進んだ。


「うっわ、大きな貝殻の家とかすごっ」

「ニーナさん、そろそろ帰って来れませんか?」

「嫌よ、ジュースに死なれたら私、本当に何するか分からないわよ? 無理心中とかしちゃうかも……」

「はぁ……下手に動いたりしないでよ? 魔物の街なんだから人間が食料として並んでたり、ペットとして飼われたりしてても不思議じゃないんだから、その場の感情で動かれると、このあたり一帯を吹き飛ばさなくちゃいけない事態にもなりかねないんだから」

「あーあー、今日も良い天気ね」


 聞く耳持ちませんってか……本当ニーナ姉さんは……。


 無理矢理転移に割り込んで来たニーナを仕方無く魔物に変装させ、旅に連れて行く事になってしまっていた。

 娘のナージュは母さん達に面倒を見させている。

 ダメ親で本当に済まない。


 依頼酒場に入ると早速チャラい魔物に絡まれた。


「ヒュー、そこのサキュバスちゃん。オイラと一晩ぐへっ!?」

「私はこの子以外とする気は無いわよ」

「ぐぅ、何しやがっ!? 痛いです! やめへ! ごめんなさい! 許しうべぇっ!?」


 殴る蹴るの暴行、ニーナに3の経験値が入った。


「さ、行きましょ?」

「うん……」


 酒場に居た全員がドン引きして、見なかった事にしようと俺達を無視して雑談に戻った。


「い、いらっしゃいませ。ご用件は……」

「依頼見せて」

「ひゃい!」


 ニーナの鋭い眼光、受付嬢さんに50の精神ダメージ。


「どれが良いかしらねぇ……。ジュースは気になる依頼ある?」

「えーっと、ドデカクジラの捕獲、ミャー子の捜索、エルフの里で薬草採取、あぁ、エルフの里が良いね」

「……また増やすの?」

「良い子が居ればね。痛った! 足の小指は流石に痛いよ!」

「本当に節操無し! 私じゃ満足出来ない訳?」

「いや、俺の事好きになってくれる子は全員俺の手で幸せにしてあげたいんだ。もちろんニーナが一番好きだよ」

「あっそ。他の子に目移り出来ない様に後で全部搾り取ってやるから」

「う、うん」


 やべぇな、 目が本気だ。

 ここ最近ニーナとは全然してなかったし、覚悟してやらないと本当に干からびるまでやられる。


 エルフの里の薬草採取の依頼を受けて、エルフの里に行く前に宿屋に泊まり、ニーナと朝までコースで全身の体液を搾りに搾り取られてしまうのでした。


「しにゅ……お姉ちゃん、もう、しんじゃうよ……」

「まだ出せる♡ 頑張れ♡ 頑張れ♡」

「あ、あ、ああああああああ!」

「うわぁ、噴水みたい……」


 あぁ、あの時見た光が見える。


「んもう! ニーナちゃんとばかりして! 見守ってる僕の身にもなってよね!」

「俺、死んだ?」

「死に掛け! いっそ死んでくれれば僕も出来るのに!」

「あのロキさん」

「ロキちゃんって呼んで!」

「ロキちゃん様」

「様要らない!」

「ロキちゃん、俺が死んだ後の世界ってどうなりますか?」


 相変わらず性別のはっきりしない子供の様なロキ神は少し考えるそぶりを見せた。


「そのまま何事も無く進んで行くよ。どの世界もそうだけど最後は超巨大ブラックホールに宇宙が飲まれてビッグバンが起こり、また新たな宇宙が誕生するのさ」


「壮大ですね」


「その時のエネルギーの一部が僕の存在を存続させてくれてるから余計な事、止めようとしたり回避しようとすると、ガチめに世界の終焉って奴だから本当にやめてね? そういう力も君にはあるんだから、使いこなせればの話だけどさ。今使ってる力なんてカチカチウンチを出す為に踏ん張る程度しか使えてないんだから、もっと下痢便するぐらいビチャビチャ吐き出さないと、この先簡単に死ぬよ? 魔王とか結構強いんだぜ? パーティー組むのとか良いんじゃない? せっかくハーレム作ってるんだしパーティープレイしようよ! 仲間がピンチになれば自ずと力も発揮出来るっしょ?」


「うちの嫁達に危険な目に遭って欲しくないです」


「過保護! もっと信用してあげなよ! ニーナってあの世界じゃ割とチート級ステータスだし、アマテも鍛えてあげればかなり強くなるんだよ? 他の子もそれぞれ強くなれる素質を持ってるんだからさ? パーティープレイしようや?」


「さーせん」


「ぶーぶー! じゃあ、もっと冒険して! ハーレムもどんどん増やして! にゃにゃえもんの機密道具みたいなのとかバンバン使って良いからさ! もっともっと好き勝手に生きなよ!」


 もう十分好き勝手やらせて貰ってますし、これ以上やるとツケが回って来て痛い目見そうなんだよね……。

 ていうか二回程痛い目にあったばかりですし。

 ハーレムは増やしたいけど、それにも限界があるし、今以上に出来る事って冒険ぐらいしか無いよなぁ……?


「あぁ、そろそろ時間みたい。いいかい? 君には好きに生きられる力を与えたんだ。だから好きに生きて良いんだ! 他人の目なんて気にすんな! たとえ身内でも家族でも関係無いんだ! 好きに生きてくれ! あと、お別れのキ」


 ロキ神の唇が迫って来た寸前で戻って来れたようだ。

 ファーストキスのせいでロキ神のキスはちょっとトラウマ入ってる。

 気持ち良かったけど、恐怖が勝ってる。


「ジュース! ジュース! ああ! 良かったぁ……。一瞬息止まって本当に死んじゃったかと思ったわよ!」

「ニーナ。やっぱり帰って」

「え」


 有無を言わせず、ドロドロになった体のまま自宅に戻ると、丁度母ジェシーと父ジミーにばったり遭遇してしまい、気不味い空気が流れてクリーンで清掃、裸のままだったので着替えを取りに行ってからジェシーとジミーのお説教タイムが始まるのだった。


「そろそろ妹か弟が欲しかったんだ! 媚薬魔法ラブラブ!」

「ひゃん!」

「うおっ!?」


 両親のながーい説教にも飽きて来たのでここいらでお暇する事にした。


「こ、こらジュース! とめ、止めて!」

「うぅ、ジェシー! ジェシー! うがあああ!」

「あぁん! 子供達の前で! んっ! 好き! 好きよ! あなた!」


「よし」

「じゃ無いわよ! 弟妹が出来るのは嬉しいけど、これはさすがにあんまりよ……」

「じゃ、俺はこの辺でドロン!」

「あ、 まっ!」


 エルフの里に向けてレッツゴー!



 という事でやって参りましたエルフの里!

 里に入るや否や、魔法無効化されて変装が速攻でバレて現在投獄中の身であります!


「人間がここに来るのはいつぶりだろうか……? 長く生きていると物忘れが酷くて仕方ねぇな」

「独り言でかいっすね」

「お前に話しかけてるんだ!」

「そうだったのか! 俺ジュースって言いますよろしく!」

「お前、馬鹿って良く言われるだろ?」

「最近言われましたね」

「こんな見るからに馬鹿な人間捕まえても意味ねぇってのに仕来りだからしょうがねぇ。沙汰があるまで俺の話し相手になってな」

「エルフの美人さんとチェンジで」

「美人? いねぇいねぇ、ここの里には美人なエルフなんて一人もいねぇよ。美人なエルフはみーんな出て行っちまいやがったからな。俺も出て行きてぇよ。でも母ちゃんが怖ぇからなぁ……結婚なんてするんじゃ無かったぜ……」


 と、そこに、コツコツコツと足音が聞こえて来ると、先程まで流暢に喋り倒していたエルフのお兄さんは顔面を蒼白にさせてガタガタと震え出し、黙ってしまった。


「誰が怖いって? え? 結婚したく無かった? どの口が言うんだい? え? アンタ?」

「すまねぇ母ちゃん! 調子に乗り過ぎました! 一生愛してます!」

「そうだろう! そうだろよ! 何せあんなに熱くプロポーズしてくれたんだ! 別れたいなんて微塵も思っちゃいないはずだよ? な? そうだろうアンタ?」

「は、はい! 母ちゃんは美人な俺の素敵なお嫁様でございます!」

「よろしい」


「尻に敷かれたかかあ天下ってこれの事か、勉強になります!」

「うるせえやい!」

「アンタは黙ってな!」

「はい!」


 エルフ母ちゃんはこちらを値踏みする様に見回すとペロッと舌舐めずりして無言で立ち去って行った。


「あぁ、お前終わったわ……」

「お前の嫁さん美人じゃん? あぁ、同族から見るとブサイクなのか?」

「人間からするとあれでも美人なのか……俺にはもう分からん」


 しばらくすると見た目からして偉そうな美人エルフとその付き人達がやって来て、ただ一言「出ろ」とだけ言うと立ち去ってしまった。


「お前との会話楽しかったぜ……ぐっ、お前とはもっと違う出会い方をしたかったな……」


 何か唐突に泣き出してるけど、俺、処刑されるとかじゃ無いよね?


「ほら、行くぞ」

「俺、死ぬのか?」

「いや、死なない事もあると思う。たぶん」


 ぼかそうとするあまり、かえって確定的になってるじゃないか。

 死ぬのか? 本当に死ぬのか?

 今、魔法無効化されてるからガチで死ぬぞ?

 ロキ神に助け求めても世界リセットぐらいしか手は無いだろ?

 えぇ、マジか……エルフの里バッドエンドか……。

 ニーナは連れて来なくて良かったな……。

 最後にニーナと死ぬほど出来て良かったよ……。

 弟か妹の顔を見たかったな……。

 ナージュは元気に育ってくれるだろうか?

 アマテやみんなも俺が居なくなって大丈夫だろうか?

 あぁ、死にたくねーーー!


 森林の中、木漏れ日が綺麗なエルフの里の中心に位置する広場に連れて来られ、ござの様な物に座らされると縛られていた腕の紐が解かれた。

 絶望して俯いていた俺に声が掛かる。


「面を上げよ」


 透き通る綺麗な声に反応して顔を上げると美人なエルフのお姫様らしき人物が木の上に建てられた座敷の上からこちらを見下ろしているのが見えた。


 辺りを見回すと美人なエルフさん達が大勢居てこちらをクスクスと笑いながら談笑し合っているのが見て取れた。


「お主に問う。何用でこの里に参った?」

「依頼で薬草を取りに来ました」

「人間のお主が? 嘘を吐くで無い。人間にはただの雑草だと妾は知っておる」

「人間の依頼では無く、魔物の街の依頼です。俺は魔物に変装して魔物の文化がどういうものなのか調べているのです」

「ふむ、それでお主に何の利益がある?」

「俺の村では人と魔族と魔物、他にも色々な種族の者同士が手を取り合って暮らしています。それを世界へと広げて行き、誰もが平和に暮らせて行ける世界を作りたいと思い、その過程で魔物の文化について調べていたのです」

「なるほど、お主の口が達者なのはよう分かった。真実を話せ。二度は聞かんぞ」


 クソ、割と本当なんだけどな……。

 しゃーない、どうせ最後だし本音をぶち撒けるとしますかな。


「先程の話は8割方真実であります。が、本音はエルフは美人だから見に来たかっただけです! そしてあわよくば俺の事を好きになってくれるエルフさんに出会えたら、お嫁さんにしようと思っていました! 死にたく無いです! 助けてください!」


 そう言った瞬間広場はドッと笑い声に包まれた。


「皆、静まれ。お主、何か勘違いしておるな。お主を殺したりなどせぬ。無闇な殺生は仕来りで禁じられておるでな。ふふ、にしてもお主の本音は本当に面白いのう。どうじゃ? 妾達は美人かの?」


 開いた口が塞がらない。

 さぞ間抜け面を晒していた事だろうよ。

 ……あの尻敷きエルフぜってぇ許さねぇ!


「全員俺の嫁に来て欲しいぐらい美人だらけですね。あ、そう言えば一人、俺の嫁にエルフが居ました。エルフの森から家出中って言ってましたけどここに知り合いとか居ますかね? エスって子なんですけど」


 なんだ? 周りがざわつき始めたな?


「お主、エルフを娶っておったのか?」

「そうですけど、何か不味いですか?」

「……そやつの服を脱がせ」


 え? え? 何? 何なの? 私どうなっちゃうの? いやーん!

 美人なエルフさん達に身ぐるみを剥がされると生まれたままの姿にされてしまいました。


「印はございません! まだのようです!」

「そうであったか……」

「何なの? 俺をどうしたいの? エッチな事がしたいならお互いをもっと知ってから始めましょう?」

「お主、本当にエルフを娶っておるのか? 体の交わりはまだしておらぬのか?」

「エッチな事はしてますけど、まだ交わっては居ませんけど、それが何か?」

「ほ、ほほほ、良いぞ良いぞ。床の準備よせよ!」


 エルフさん達に体を持ち上げられ、川に落とされるとゴシゴシとたわしのような植物で俺の体を洗い始めた。


「痛い! 力強すぎ! もっと優しくして! あん! そこは自分で! くっ、うっ、何でそこだけ手で洗うんです? あっ! あっ!」


 全身を洗い終わると薄いスケスケの羽織を着せられ、大きな建物の中へと連れらて行く。


「どこまで行くんですか? そろそろ下ろしてくださいよー」


 長い廊下を進み、大きな襖の前で止まり、降ろされると一言「入れ」とだけ告げてどこかへと去って行ってしまった。

 これ、逃げたらやばいよね?


 覚悟を決めて襖を開けると蚊帳の様な布が高い天井から下がっていて、中央に大きな布団が敷かれているのが見えた。

 大体察しはついた。


「お待ちしておりました」


 奥から俺が着ているのと同じようなスケスケのピンク色の羽織を着たお姫様が布団へと腰を下ろしてこちらを誘うように手招きする。


「ここまでされればさすがに分かりますけど、どうして俺なんでしょう? エルフの男性ではダメなのでしょうか?」

「血が濃くなり過ぎるのです。我々の回復魔法や薬草では限界があります。子が死んで行くのをただ見守るのは辛いのです」


 そういう事ですか……。

 確かに近親者で続けていけば回復のしようが無い子もいずれ生まれ出てきてしまうんだろうけど、俺の回復魔法なら、たとえ肉塊だったとしても治せる。

 けどここのエルフにはそれ程の回復魔法を使える者が居らず、別の種族の血を取り入れるしかないと。


「ところで印ってなんです?」

「エルフと交わると体の何処かに印が現れ、その者とは交わる事が出来なくなるのです」

「それは魔法的な呪いで?」

「大昔の魔法です。詳細は分かりませんが最初に交わったエルフとしか子を成せなくなります。あなた様には悪いと思いますがこれも里を守るため、何卒お許しくださいませ」


 魔法的なあれなら解呪余裕だな。

 エスより先にお姫様と交わるのはちょっと悪いと思うけど俺はハーレム王になりたいので後でちゃんと謝ろう。


「俺的には問題ありませんけど、お姫様の気持ちは大丈夫でしょうか? 好きな方とかいらっしゃいませんか?」

「居りませぬ。殿方を見たのは父上以外ではあなた様ただお一人。あなた様を生涯の夫して子を成したいと思います」


 うーむ、すごく閉鎖的な環境で育てられてしまったようだ。

 これは俺が何とかしてあげるしかないのでは?


「分かりました。俺もお姫様を幸せにしてあげたいと思います。なので少し我が儘を聞いては頂けないでしょうか?」

「なんなりと」

「魔法の無効化を解除して欲しいのです。もちろん暴れたりなど致しません。約束を破ったら死ぬ呪いなどを掛けて頂いても構いません」

「……では、カースオブギアス。約束を破ればあなた様は死にます。魔法無効化解除。これで使えるようになったはずです。何をなさりたいのか妾には分かりませぬがこれでよろしいでしょうか?」

「ええ、助かりました。少しお手を拝借」

「まぁ、大胆な……暖かい手」

「少し驚かせてしまうので心の準備を」

「何をして頂けるのでしょうか?」

「転移」


 エスの居る王都の自宅へお姫様と転移するのだった。


「あ、ジュース。何その格好? え、その子エルフよね? ナニしようとしてたのかしら!?」

「今からこのお姫様と子作りするので許可してください! お願いします!」

「はぁぁぁぁ!? 死にたいの? ねぇ、死にたいの? アマテだってまだ子作り出来て無いのに、ポッと出のエルフに先越されてたまるものですか!」

「そこをなんとか! 何かエルフと子作りすると印が出て、そのエルフとしか子供が出来なくなる呪いが掛かるみたいだけど俺には余裕で解呪出来ると思うんだよね。だけどお姫様の心配があるからお姫様と先に子作りして安心させてあげたいと思ってさ。ダメかな?」

「ダメ! 殺す! ジュースを殺して私も死ぬわ! 覚悟しなさい!」


 そりゃダメですよねー!

 どう考えてもクズ野郎の考えだもの!

 でも俺はハーレム王! になる男。

 こんな事では諦めない!


「転移!」


「あ、ジュース! もうあの後、大変だったんだから! お父さん腰抜けちゃってベッドで倒れてるわよって、何その格好? あらエスちゃん、と初めましてかな?」

「ニーナさん聞いてくださいよ! ジュースがこの子と子作りするって聞かないの!」

「あぁ、この目はダメよ。もう覚悟決めた目よ。どうしようも出来ないから後でたっぷり返して貰いなさい」

「そんなぁ……」

「ごめん。俺はハーレム王になる為ならどんな事でもする男だ」

「クズね」

「クズ!」

「妾、選択間違えた?」

「大丈夫です! ハーレム王の子供ですから元気の良い子供を必ず授かりますよ!」


 一応話は通したのでエルフの里へと戻る。


「見届けるぐらいはいいでしょ? 何かあったら大変だもの! 同じエルフのよしみだし、困った事があったら何でも言ってね!」


 転移に乱入して一緒について来てしまったエスは今から始める子作りを見る気まんまんと言った様子である。


「すみません。見せてあげても良いですか?」

「ダメなどとはとても言えませぬ……」


 エスの興奮した顔を見れば出て行けなどとてもじゃないが言えないか。

 俺は言うけど。


「やっぱり出てけ」

「べぇーっだ。絶対見るもん。私の旦那が浮気する所、全部記憶に焼き付けてやるんだから!」


 後が怖いな……。


 俺はハーレム王! 俺はハーレム王! 俺はハーレム王!

 よし、覚悟決まった!


「えっと今から始めますが先にお互いについて、少し話しませんか?」

「そ、そうですね。その方がよろしいかと」


 エスが居るからめっちゃ緊張してるじゃん。

 リラックス掛けとくか。


「リラックス、ついでにエスも」


「ほぉ……」

「あぁぁ、落ち着くわ……」


 エス……おっさんみたいな声をあげるな。


「俺の名前はジュースって言います。平和な田舎村で育った将来ハーレム王になる男です」

「ジュース様。妾はスイレ。この里で育ちこの里で朽ちる者でございます」

「私はエス、エルフの森から家出したエルフよ。そしてそこのジュースの嫁でもあるわ」

「サイレント、バインド」


 エスを拘束、喋れなくする。


「むー! むー!」

「あの、そこまでしなくても……」

「絶対邪魔されますよ? エスには悪いけど、そこでおとなしくしててね」


 エスが血涙でも流しそうな勢いでこちらを睨み付けてくる。

 逆の立場だったらと考えると凄く辛いが俺はハーレム王になる男。

 これからも何人もの女性を泣かし続けて行くのだろう。

 だけど泣かせた女の涙の数以上に嫁達を幸せにする覚悟が俺にはある!


「続けましょう。俺の趣味は魔法遊び。得意な事は魔法。好きな食べ物はフィッシュバーガーです」

「魔法がお好きなんですね。ふぃっしゅばあがあとは何か分かりませぬがいつか食べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「この後にでも、すぐに用意出来ますので」

「まあ、それは楽しみです」


 にこやかな笑顔にノックダウンしそうになる。

 スイレさん美人だし可愛いしお淑やかだし、本物のお姫様って感じだ。

 家にもなんちゃって姫が居るが、あれは物を知らないだけの箱入りニートだ。


「スイレさんのご趣味などは?」

「いえ、これと言った趣味などは無く。花壇の手入れなどは致しますが、楽しいという訳でも無く……。得意な事も、何もありません……。自分について改めて考える機会などありませんでしたが、そうですね……。妾には何も無かったのですね」


 物悲しそうな、それでいて笑顔は崩さないスイレさん。

 不憫だ。

 この里では自由に生きる事も、ましてや自分の意思で決める事なんて無かったのだろう。

 エルフの里のお姫様という役を押し付けられて自分を殺すどころか自己を形成する前から決められていた人生。

 エルフ族を護る為に守られて来た古からの仕来り。

 それが悪い事とは言えないが、俺は嫌だね。


「これが終わったら世界を巡りましょう。趣味も得意な事もこれから一緒に見つけに行けば良いのです」

「ふふ、それはさぞ楽しい事だと思います。……そろそろ始めましょうか」


 一瞬だけ表情が消えかけたのを俺は見逃さない。


「本当に俺で良いんですね? これが最後です。よく考えてお答えください」

「ジュース様が来て下さって本当に良かったです。ハーレム王になるお方ならきっと妾も幸せになれると信じております。どうぞ、妾をお好きに抱いてくださいませ」

「……分かりました。必ず幸せにすると誓います」

「まぁ、うれしい」


 お互いに服を脱がせあい、痛く無いように、気持ち良くなれるように、魔法を使って初めてを大事に大事に貰い受けた。

 スイレさんは笑顔のまま泣いていた。



「むー!」


 エスの事すっかり忘れてたわ。


「解除」

「あんたって人は! スイレさん大丈夫? 痛い所無い?」


 エスは拘束を解除されるやいなや、スイレに駆け寄って心配そうに体を摩る。


「ええ、どこも。その、凄く良かったです……ふふ。今後とも大事にしてくださいね、旦那様?」

「ぐはっ!? ジュースに渾身の一撃! 俺は尊死した」

「馬鹿やってないでさっさと綺麗にしてあげなさいよ」

「おっと、そうだった。クリーン」


 清掃魔法でお互いの体の表面を綺麗にする。


「そう言えば印ってのが体に現れてるはずだけど、どこだ?」

「お尻に変な模様が浮かんでるわね。本当に解呪出来るのよね? 私だって子供欲しいんだから」

「余裕余裕、解呪!」


 シュワーっと俺の尻から紫色の煙が上がり、慌ててお尻を摩った。


「どう? 消えた?」

「消えたわよ。さすが私の夫ね!」

「本当に消せてしまうのですね。少し残念な気もします」

「スイレさんには悪いけど、独り占めは許しませんよ?」

「ええ、エスさんとは姉妹になる関係ですから、独り占めなど致しません」

「これからよろしくねスイレさん!」

「こちらこそよろしくお願いしますね。エス様」


 二人は固い握手を結んでニコニコしている。

 にしては握る力が強すぎな気もするがほっとこう。


「この後はどうしますか?」

「懐妊するまではこの部屋からは出られませんけど、旦那様には関係の無い話。好きな場所へ行ってくださいな」

「エルフの集落ってどこも似たり寄ったりね……仕来りルール決まり事、ウンザリするわ」

「ええ、本当に」


 ん? スイレさん、何か変わったか?


「えっと、スイレさんはどこか行きたい所とかありますか?」

「ふぃっしゅなにがしを食べてみたいのですが、素敵な景色の見える場所が良いですね」

「素敵な景色か、雲の上とかどうでしょうか?」

「まあ、そんな所にまで行けるのですね。ではそこで食事に致しましょう」

「私は帰るわ。さすがに野暮過ぎるもの」

「妾と一緒では食事も不味くなると?」

「え!? そ、そんな事全然これっぽちも思ってないわよ!」

「ふふふ、冗談です」


 わたわた身振り手振りで弁明するエスがスイレの手の平で弄ばれている。

 力関係決まったな。


「スイレは気を使わなくてもいいと言ってるんだよ。エスと友達になりたいんじゃないか? 違いますかね?」

「……いけずな旦那さん」

「え、何々? どういう事? スイレさん私と友達になりたいの?」


 スイレの背中を押してあげる。


「一緒に食事したいんだとさ。そうですよね?」

「もう、恥ずかしい……」

「ええ、なになに? 私と食事したかったの? もう、スイレさん可愛いんだから!」


 人をおちょくるような口調でスイレを小突くエスはニマニマと悪い笑顔を見せている。

 すぐに調子に乗るのはエスの悪い癖だな。


「そんじゃ、転移するからつかまってね」


 予め飛行と環境適用の魔法を掛けて雲の上へと転移する。


「ひっ!」

「あら……」


 エスは呼吸が止まり、スイレは意識を失った。

 リラックスと鼓舞を掛けて高所における恐怖を和らげる。


「雲よ、ふかふか絨毯のように固まれ」


 眼下の景色が見えやすい様にテーブルと椅子が置ける広さの雲を選び固める。


「召喚、食卓テーブルと椅子。それと食器類」


 召喚したテーブルの上に三人分の食器を並べてクリエイトフードでフィッシュバーガーとポテトフライ、それとクリームメロンソーダをそれぞれの食器に盛り合わせる。


「ん、あれ、ここは天国?」

「まぁまぁ、空の上なんて、妾、死にました?」


 起きた二人が面白いボケをかましているので食事の準備が整ったと告げる。


「それではいただきます」

「「いただきます」」


 スイレがフィッシュバーガーをどう食べて良いか迷う姿に見惚れてしまう。

 可愛いオブ可愛い。


「こうやって食べるのよ、はぐっ! うーん! 美味しい!」


 豪快に大口を開けて齧り付くエスは本当にスイレと同じエルフなのかどうか疑わしくなってくる。

 いかんいかん、比較は良くない。

 エスにはエスの可愛さが、あるような? 無いような?

 ま、好きには変わりない。


「こうですか? はむ! 美味しい……」

「お口に合うようで良かったです」

「はむはむはむはむ、ごくん。あの、お代わりはありますでしょうか?」


 ハムスター並の速さで食べ終えると口を拭い、お代わりまで要求してくれた。

 あの里、と言うか、このお姫様にB級グルメとか出されるはずも無いから凄く新鮮で美味しく感じたのだろう。


「いくつでも。違う種類のバーガーも出しておきましょう」


 テーブルに各種バーガーを並べるとスイレは目の色を変えて近くにあるバーガーから手に取りはむはむと食べ始めた。


「にしても本当に景色良いわね。ちょっと怖いけど」

「ええ、本当に」


 景色を見る余裕が出て来たのか二人は食事の手を止めて眼下に広がる大自然を楽しんでいるようだ。


「む、火災か……望遠眼」


 遠くの物を間近に見えるようにする魔法を使い、黒い煙が上がっている場所を見てみると、人の街が魔物によって蹂躙されている様子が見えた。


「何? 火事?」

「いや、魔物と人の戦争みたいだな。魔物側が優勢だな」

「は? じゃあさっさと助けに行きなさいよ!」

「いや、俺はどちらにも加勢しないよ。それは俺の信条に反する。戦争ってどちらか一方が悪って訳じゃないし、それぞれの正義がぶつかり合った末の結果なんだよ。それを横から何の関係も無い者が介入するのは違うと思うんだ」

「何よそれ……。ニーナさんがここに居たら絶対止めに行くわよ?」

「そうだな。でも俺は姉さんの方を止めるよ」

「何でよ! いいから助けに行きなさいよ! あんたはそういう力持ってるんだから!」


 確かにロキ神から授かったチート能力で戦争なんて簡単に止められるけど、そういう事に使っちゃダメなんだと思うんだよなぁ。

 こういう事は本人同士で決着をつけないと遺恨を残す事になったりして、また新たな戦争の火種になったりするんだ。

 なら最後までやり合わすしか無いでしょ。


「この力は俺の好きな事の為に使うと決めてるから、この戦争には使わないよ」


 パシンッ! とエスに頬を叩かれてしまった。


「ジュースがこんな最低野郎だとは思わなかったわ……もういい、私が行くから」


 エスが飛行魔法で飛び立とうとするのを俺が止めようとする前にスイレが手を掴み引き止めた。


「ジュース様の言い分もエス様の言い分も分かりました。ならば妾の言い分も聞いてくださいませ。妾の住まうエルフの里は魔物側で、人との戦争にも里の者が何度か参戦しております。エス様が人側に付くと仰るならば妾はエス様と戦わねばならなくなります。もう一度よくお考えになられてくださいませ」


 それを聞いたエスが驚いた表情から暗い表情へと移り変わって行くのを俺はただ見守り、考えが纏まったのかトボトボと席に戻って項垂れた。


「私って自分が思っているより子供だったのね……。ごめんなさい、酷い事言って……」

「いや、エスは悪くないぞ。誰かを助けたいと思う気持ちは正しい」

「……うん」

「帰るか」

「…………うん」


 転移でエスを王都の自宅に送り届けるとニーナの所に行きたいと言われ、そちらに転移。

 エスはニーナを見つけると駆け寄って行き、思いの丈を泣きながら伝えると、それを聞いたニーナが俺を呼び出してボコボコにされてしまった。

 防御魔法も意味を成さない本気の拳は凄く痛かった。


「戦争に介入するのは私も反対。だけどエスちゃんを泣かせたのは有罪よ。あんたはもっと配慮するべきだったわね」

「ふぁい」


 顔が腫れてうまく喋れないや。


 スイレとの事も聞かれて更にボコられたのは言うまでも無いか。



 転移でスイレの居る雲の上に戻るとあれほど大量にあった食べ物が綺麗さっぱり消えていた。


「お代わりを……」

「食べ過ぎです」


 食卓を片ずけて固めた雲も元に戻し、転移で里に戻ると突然スイレに押し倒されてしまった。


「今度は妾が動きます。旦那様は動かないでくださいませ」

「お、おう」


 不慣れなスイレに手取り足取り教えていたら急に怒り出してしまったので、黙ってなすがままにさせてあげた。

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