第18話 魔物の街
次の村は村では無く、街ぐらいの大きさがあった。
が、魔物に蹂躙されてめちゃくちゃに破壊尽くされた後だった。
索敵魔法で生き残りの人間を探したが、一人も居なかったので逃げた後か、殺されてしまったのだろう。
マップで確認すると俺が行った村とは別に大きな街があったのでそちらに逃げたのだと思いたい。
破壊された街に残っている魔物は食料や金品をかき集めている様で、やっている事が人間とほぼ変わらず、これが戦争なのだと実感させられた。
俺ならここに居る魔物を殲滅する事が出来るのだが魔物側と人間側、どちらが悪いのか把握していないので手を出すのはまだ早いだろう。
この街は素通りする事にして、マップで確認した魔物達の街へと向かう。
魔物の街の手前に転移して魔物ファッションに変装。
耳を尖らせ、肌を少し青くさせた。
これならバレようが無いだろう。
魔物の街へ入ると活気に満ち溢れていた。
「戦勝祝いだ! 安いよ安いよ!寄っといで!」
「奥さん! 戦勝祝いに一本どう?」
「戦勝祝いにはやはりこれ! これさえあれば楽しく祝える!」
蜘蛛人間や蛇人間、猫や犬や狐などの特徴を持った人型がたくさん居る。
触手の塊やスライムなどお馴染みのモンスターも居るので一見すると遊園地に見えなくも無い。
とりあえず人間との戦争に勝ってお祭り状態なのはよく分かった。
「兄さん兄さん! 戦勝祝いに一杯どうかね? うちの酒は世界一美味いぜ!」
「酒はダメなんで、リンゴジュースください」
「あぁ、うちじゃ取り扱って無いんだよね……。あっちの店にはあるからこの串焼きだけでも買って行ってよ!」
何かの肉の串焼きを出されて、鑑定するとボロンゴという岩で出来たモンスターの肉らしかった。人間は食えるのかな?
「じゃあ一本ください」
「まいど!」
食べてみると肉の味がする岩だった。
それ程硬くは無いがじゃりじゃりして正直、食感が悪すぎる。
案内された店でリンゴジュースを買って口をゆすぎながら飲み込み、腹を壊さないように胃の中の岩肉を魔法で粉砕しておく。痔が怖い。ヒールで治せっけども。
マップで冒険者ギルドは無いか探すと依頼酒場という場所があったのでそちらへと向かった。ギルドとやってる事は大して変わらないようだ。
「しゃっ! 来いやっ!」
「負けぬ!」
酒場に入ると客同士で腕相撲大会が開催されていた。
タコとイカの腕相撲。ちょっと気になる。
「ん? 新入りか! お前腕相撲は強いのか?」
「あぁ、いや、俺は依頼を見に来ただけで……」
「なんだ、依頼ならあのお嬢ちゃんの所で受け付けてくれるぜ」
「分かりました。ありがとうございます」
「頑張れよ!」
言われた通り、受付嬢さんの所へ向かい依頼を見に行く。
「依頼を見たいのですが」
「はい、組合カードはお持ちですか?」
「初めてです」
「そうでしたか。ではこちらのステータス測定器に手を入れてください」
受付嬢さんが取り出したのは拷問器具の様な、手を入れたら絶対に無数の針で刺されると分かる金属で出来た骨型の手袋だった。
「え、痛そうなので嫌です」
「見た目ほど痛みはありません。安心して入れてください」
「それって痛いって事ですよね?」
「……この程度の痛みを恐れるのなら、依頼を受けさせる事は出来ませんね」
えぇ、マジか……みんなこれやってるの?
ステータス見せるだけで拷問されるとか魔物文化やば過ぎだろ。
けど、しょうがないし、やるか……。
防御系魔法は切らないと壊しそうだし、オートヒールだけは掛けとこっと。
「分かりました。入れます」
ゆっくり入れると怖いので一気に手を突っ込んだ。
「あだっ!」
案の定、無数の針が刺さって血が垂れる。
すると立体映像のように俺の偽装したステータス画面が現れた。
「平均的な数値ですね。これなら5等級からの依頼を受けられます。もう手を出して結構ですよ」
おぉ、痛え。
オートヒールで傷口は直ぐに治ったけど、針で刺された感触が未だに残ってて嫌な感じだ。
「こちら、組合カードをお受け取りください。このカードを見せればどの依頼場でも5等級の依頼までは受注出来ますので、昇級を目指して頑張ってみてください」
「分かりました。どんな依頼があるか見せてもらえますか?」
「こちらからお好きなものをお選びください」
本の様に整えられた依頼書の紙束を受付嬢さんに渡されたので、適当にめくって確認していく。
「人の子供を三匹捕獲してください……ふむ。他には、人のメスを二匹……なるほどね。えーっと、これは、人の糞を……」
まぁ、立場も変われば依頼内容も変わるか……。
もうちょい、俺にも出来そうな依頼はっと。
「む、人の文化について詳しい者求むか、これにしよう」
受付嬢さんにこの依頼を受けると言うと、依頼主の住所を教えられたのでそこに行ってみる事にした。
報酬についてはどうでもいいが依頼主が満足する情報を提供出来たら直接貰えるようだ。
祭りで賑わう街並みを見ながら、依頼主の住んでいる場所まで向かうと、徐々に街の喧騒から遠ざかっていき、ぽつんと一軒だけ建っている小さな家に辿り着いた。
「ここだな。インターホンとか無いよね? 無いね」
期待はしていなかったので素直にドアをノックした。
しばらくするとドアが開けられ、中から白髪の美少女出て来た。
「どなたかな?」
可愛い声だが、その声や見た目とは似つかわしくない、どこか老婆を彷彿とさせる話し方に違和感を覚えた。
「えっと、依頼を受けたジュースという者です」
「ジュースが名前かい? 美味しそうな名前だねぇ」
おぉ、初めて名前をイジられたよ。意外と悪くない。
「お前さん人間について詳しいのかい?」
「ええ、まあ」
「そうかい。なら少しテストをしてみるか。人がする三つの事を教えな」
なぞなぞか?
人がする三つの事ねぇ……? 何だろうか?
「うーん、三大欲求ぐらいしか思いつかないな」
「ふむ、まぁ、正解じゃ」
「あ、それで良いんだ」
割と簡単だったな。
そりゃ依頼で募集しているのに引っ掛け問題出しても意味は無いか。
「人の文化について知りたいみたいな依頼でしたけど、俺は何について話せば良いんですか?」
「違う違う。人の文化が知りたいのでは無く、人の文化に詳しい者が必要だっただけじゃ。お前さんは合格みたいじゃから中に入っとくれ」
「はぁ……?」
何がしたいのかさっぱり分からないのでおとなしく案内された部屋の中へ入ると人間の赤ん坊がベッドに寝かされていた。
「誘拐ですか?」
「拾ったんじゃ! こいつの両親と思われる死体に隠れる様にして布に包まって居たのを偶然見つけたんじゃ」
「それで、拾ったはいいものの、どう育てれば良いか分からなかったと」
「そうじゃ。お前さんなら人の子の育て方ぐらい知っておるんじゃろ?」
「知ってますけど、あなた、えっと、お名前は?」
「ヒトセじゃ」
「ヒトセさんは母乳って出ますか?」
無言のグーパンチ。俺は顔面で受ける! 痛い!
「お前何言ってるんだ!? 僕から母乳が出る訳無いだろ!?」
「落ち着いて下さい。人間の赤ちゃんには母乳が必要なんです。魔物だって母乳で育てる種族も居るでしょ?」
「……そうか、そうなのか。悪い、人が母乳で育つなんて知らなかったからな」
「いえ、で、母乳を分けてくれる知り合いとか居ますか?」
「……居ないし、この子が見つかれば簡単に食われちまうよ……。やっぱり拾って来るんじゃ無かった……はぁ……」
すげえ落ち込んでるな……。
しょうがない、うちの孤児院で面倒見るか。
「何か問題が無ければ俺が引き取りますよ。大事に育てるんで安心してください」
「お前さんが? そう言って食うつもりじゃろ? この子は渡さないよ」
「食わない食わない」
「絶対に食う奴の言い方じゃろそれ!」
「仕方ない、変身解除。ほらこれで分かったろ? 俺は人間だから絶対に食わないと約束出来る」
口をポカーンと開け、俺に向けて指を差して凄く驚いている。
「おっ!? お前人間!? 人間が何で!? 殺さなきゃ! 殺す! 殺す!」
「麻痺」
急に殺気立つから麻痺させちゃったじゃないか……。
「うぅ、殺される……だれかー……たすけて……」
「殺さないし、殺されたくも無いよ。ちょっと落ち着こうね」
倒れたヒトセさんの体を呼吸がしやすい様に仰向けに寝かせる。
「軽い。というかスカスカだな。ちゃんとご飯食べてる?」
「不死族を、知らんのか、人間め」
「へぇ、不死族か、じゃあ殺しても死なないじゃん」
「死ぬ痛みは感じるんだよ……馬鹿人間……」
人に偏見持ってるのはしょうがないけどさぁ、口悪いなぁ。
ちょっとイタズラしたろ。
「えい」
無い乳にパイタッチ。
「にゃ!? な、な、ななにする! 痴漢! 強姦魔! 誰かー! 助けてー!」
「ゲヘヘ、裸にひん剥いてやろう!」
「嫌だー! 死ね! 人間死ね! クソ、動け、動けよ!」
少し調子に乗ってローブを剥ぎ取ると、下着を身に着けていなかった。
「魔物って下着着けない系文化? というかすごい傷だらけじゃん。リジェネレーションキュア」
熊にでも引き裂かれた様な爪痕や無数の切り傷刺し傷がみるみるうちに綺麗な肌へと生まれ変わっていく。
ついでに病気類も治しておこう。
「あれ、急に楽になったぞ? この変態人間! 絶対殺す!」
「やべ、麻痺」
うっかり麻痺も治してたわ。危ない危ない。
「ぐぅ……また……」
「とりあえず落ち着けって、ほら鏡見てみ」
そう言って魔法で手鏡を取り出しヒトセに自身の体を見せる。
「あ? 治ってる? 何で? 何したの? 僕おかしくなった?」
「俺が治したんだよ。これで敵意は無いって分かってくれると助かるんだけどなぁ」
「うぅ、うるさい! 人間は信用出来ない! 治してくれなんて頼んで無いぞ! でも感謝はしてやる……」
「じゃ、もう襲って来ない?」
「しないから……苦しいから早く治しておくれよ」
「ヒール」
治した瞬間飛び掛かって来て首を絞められた。
「ぐ、おいおい、嘘かよ」
「裸を見られたんだ! 人間がどうとか関係無く死ね!」
防御魔法貼り直すの忘れてたな……。
オートヒールは掛かっているけど、窒息はどうにもならんか。
「ぐぅ、俺が、死んだら、その子は、どうなる?」
「脅しかい? 無駄だね。あんたが居なくても他の誰かに頼るさ」
ダメか、あーやべ、ここで死ぬのか……。
苦しい、考えがまとまらない、やべぇ、やべぇ、こんなところで終わりかよ……。
「ごめんなさい……謝るから……助けて、ください……ぐっ」
「人間なんて大っ嫌い! 何度謝ってもまた同じ事を繰り返して! 死ね! 死ねばいいんだ! お前もあいつらも! みんな死ねえええええ!!!」
意識が、あー、なんか光が見えて来た。
「やぁ、久し振りだね。アナタの永遠のお嫁さん。ロキちゃんだよ?」
「あなたと会うにはまだ早い」
「良いじゃん、ここで死んで僕とイチャラブしよ? ね?」
「あなたが作った世界は思っていた以上に楽しいのでもう少し楽しみたいです」
「えー、そんな事言われちゃうと困っちゃうなー。うーん、よし、世界をリセットしよう」
「それはやり過ぎです。首締めから脱出出来れば良いのです」
「それだけ? じゃあ……こしょこしょ」
ロキ神に耳打ちされると同時に意識が戻り、息苦しさが戻って来た。
「ぐぅ……悪い子は、お尻、ぺんぺんだぞ!」
「ひぃっ!?」
首を絞めていた手から力が一気に抜けた。助かった……。
「ごっほっ! げっほっ! あー、死ぬかと思った! こんちくしょうめっ!」
ブルブルと頭を抱えて震えているヒトセに目をやると、床が大洪水になっていた。
「リラックス、クリーン、ついでにフル防御、シールドマシマシ」
ヒトセと俺の精神を落ち着かせ、糞尿まみれになっていた俺とヒトセを綺麗にし、俺の防御をマックス固めた。
もう二度と防御魔法は解除しない。
「……疲れたわ。ちょっと休憩」
「お前、何なんだよ? なんであの言葉知ってるんだ?」
「神の御告げって奴さ。はぁ……マジで死ぬかと思ったぞ」
「お前、僕のお婆ちゃん知ってるのか?」
「知らないよ。ちょっと台所借りるぞ」
魔法で自分の好きな料理をテーブルに広げてがむしゃらに食べる。
「あーうめぇ! 生きてるって最高! ヒトセもなんか食うか?」
「もう、訳分かんないよ……お饅頭、こしあんの」
「ほれ」
こしあん饅頭を出してヒトセに渡すとモソモソと食べだした。
「お前、本当に何なんだよ?」
「ハーレム王」
「ふざけてんのか?」
「お前も俺のハーレム入り決定だから。俺を殺しかけた責任取れよ」
「は? 誰がお前なんかと」
「仕返し」
「ぐいいいいいい!? 死ぬうううううう!!!」
「お前がやった事をそのまま返す魔法だ。どうだ? 苦しいだろ? 解除」
「げっほっ、ごっほっ、はぁ……はぁ……、お前はやっぱり敵だ」
「敵で結構。お前の意思とは関係無くお前を幸せにしてやるし、楽しませてやる。そう決めたから」
「お前、狂ってるのか?」
お前のヒステリーで死に掛けたんだ。狂いもするさ。馬鹿やろう……。
「人が憎いのも分かる。あの傷を見れば何をされて来たかも想像出来る。それでも人の赤ん坊を助けようとする優しさは素晴らしい事だ」
「けっ、知った風な事言いやがって……」
「知らなくていいし、知らせるな。過去は過去だ、どうしようもない。なら未来の話をしようじゃないか」
「それがハーレムに入れって話かい? 気色悪い……」
「奴隷契約、他人に危害を加えるな。悪人に容赦するな。健康的な生活をしろ」
ヒトセの首に奴隷の首輪が現れる。
ヒトセは驚いた表情をして、何とか首輪を外そうと手を掛けるがどうにもならずに諦めた。
「言ってる事とやってる事が違うじゃないか! お前何がしたいんだよ!」
ヒトセを無視してベッドで寝ている赤子を抱き、ヒトセの肩を抱く。
「何してるんだ! 子供に触れるな! やめろ! 触んな!」
「転移」
「あ! ジュース! やっと帰って来たわね! って誰よその子? 赤ちゃん……? あんたまさか、また増やしたのね!」
「増やしたは増やしたけど俺の子供じゃないぞ。こいつはヒトセ、不死族の魔物で俺のハーレムに入れたから今後ともヨロシク!」
「ジュ ー ス ?ちょっとこっち来なさい」
素直について行くとニーナに股間を思いっきり蹴られた。
防御魔法が無かったら確実に息子は死んでいたね。
「ちょっと、いつもより痛いじゃない! 防御魔法切らなかったわね!」
「いや、あっちで死に掛けたから防御系は切らない事にしたんだ。ニーナが強くならない限りはもう殴っても痛くも痒くも無いよ」
「死に掛けたって……もしかして魔王を!」
「それはまだ。さっき連れて来た子に殺され掛けたけど、色々事情があるんだよ」
「あんたのメンタルおかしいわよ? ま、大体分かったわ。ティリダの所に行くんでしょ?」
「そういう事」
察しの良い姉兼嫁が居て凄く助かります。
魔物の子供達と暮らしているティリダに事情を説明してヒトセをしばらく預かってもらう事にした。
「分かった。私に任せて!」
すっかり頼もしくなった魔族のティリダは胸にドンッと手を当てて自信満々にそう答えてくれた。
「訳分かんない事だらけだけど、僕はこの子と絶対離れないぞ!」
赤ちゃんを頑なに渡そうとしないヒトセは、まさに人の親だった。
ま、穏便に赤子だけ転移させて奪ったけどな。
「鬼畜! 外道! お前なんて死んじゃえ!」
「生活スタイルが全然違うだろうが! この子とはいつでも会いに行って良いから落ち着け!」
人を知らない魔物が人の子を育てるなんて無理ゲー過ぎるだろ。
死んじゃいました。じゃ済まされないんだからな!
「この道真っ直ぐ行った所の孤児院で育てるから、というか一緒に来い。育ててくれる人に挨拶しとけ」
「人なんかに育てられたくない!」
「この子は人だ! 俺とお前の子供ならいざ知らず、他人様の子を危険にさらす事なんて出来ないからな!?」
「うぅ、バカ……アホ……変態……」
その後、孤児院でも一悶着あったが、無事、赤子は引き取られ、ヒトセはティリダの所で再教育される事になった。
「お姉ちゃんが何でも教えてあげるからね! イヒヒヒヒ……」
「この子怖い……」
ニーナに教育されておかしくなってしまったティリダだった。
ちなみにヒトセの年齢は750歳前後らしい。
にしては精神性がまるで育っていなかったが……まぁ、いいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます