第17話 私、メリーさん。

 壊れたギルドや家屋を直して、倒れた木々も元に戻して、次の村へと向かう。


 ギルドマスターには見た目だけ更生させた事を伝えると依頼料の半分を渡してくれた。


「見た目だけでも変われば中身も変わる奴もおるだろ」


 との事。



「おう、兄ちゃん。もう行くのか?」


 厳つい声に呼び止められ、振り返ってみると礼服を着た鬼マッチョだった。


「おう、旅の途中だからな」

「そうかい。……まぁ、なんだ。これ、受け取ってくれや」


 手渡されたのはミサンガの様なブレスレットだった。


「俺にそういう趣味は無いぞ?」

「どういう趣味だ? これは安全祈願のお守りだ。お前さん、力は持っている様だが全然使いこなせていない、どころか振り回されている様に見受けられたのでな。まぁ、精々気を付けて旅をする事だ。この先に行けば魔物の進行も近くなってくからな」


 親切心という奴か。ヤンキーのくせに殊勝だな。もうヤンキーには見えんが。

 どっちかっていうと夜のボディーガード感がある。


「そうか、なら有り難く貰っておくよ」


 せっかくくれたんだし装備しておくかな。

 その前に鑑定。


 安全祈願されたお守り。

 幸運が1上がる。


 うーん、この……。

 ま、邪魔になるような物でも無いし装備しておこう。


 鬼マッチョと別れを済ませて、歩みを進めると、今度は狼人間がやって来た。今は平凡なモブ顔だが。もちろん礼服を着ている。


「おう、お前、もう行くのか」

「さっき鬼マッチョと同じ事話したぞ」

「お、おう、そうか……あぁ、じゃあ、これだけ受け取っとけ」


 手渡されたのは毛糸で編まれたブレスレットだ。


「安全祈願のお守りも鬼マッチョから貰ったぜ?」

「これは災い除けだ。アイツ安全祈願なんてあげてんのかよ。後でおちょくってやるか、キシシ」


 どっちもどっちだろ……。

 アイテムを鑑定すると幸運が2上がると表示された。

 うーん、この……。


「じゃあ、有り難く貰っておくよ。それじゃな!」

「おう、気を付けて行けよ?」


 災い除けもあって困る様な物でも無いので装備しておいた。


 有り難いんだけどな、効果が微妙過ぎる……。



 山道を歩きながら周辺に生息しているモンスターなど、村や街に甚大な被害をもたらしそうな物は居ないか調べながら次の村へと行く道中、山賊に襲われていた馬車を見つけたので助けに入った。


「ひひひ、女子供は犯せ! 金品食いモンは全部、俺様達の物だ!」

「オラオラッ! さっさとしろやっ!」

「ヒーハー!」


「はいはい、麻痺麻痺」


 索敵魔法で周辺に伏兵などが居ない事を確認したので魔紐で縛ってさっさと捕まえる。


「大丈夫ですか? おっと失礼」


 ちょっと来るのが遅かったのか家族と思われる母親と姉妹の服がボロボロにされていた。

 犯された形跡は無いが一応、回復魔法で怪我や病気を治しておく。ついでにリストアで服も直した。


「ありがとうございます。助かりました」

「女だけか? 護衛も付けずに物騒だな」

「その人達が護衛だったんです、けど……」


 あー、なるほど。騙されちゃったのね……。ならしょうがないか。


「あー、じゃあ、目的地まで俺が護衛しますよ」

「えっと、助かりますけど、お金はあまり持っていなくて」

「体で払って貰えれば!」

「え……その、それは、ちょっと……いえ、大丈夫です! 私ので良ければ!」

「冗談ですよ。お金も要りません。ただちょっと馬車を改造させて貰えれば良いです」

「はぁ……? それで良いのならどうぞ?」


 許可が取れたのでちゃっちゃか改造魔法、リモデリングで馬車を改造。


「これぞ最新鋭の馬車じゃ!」


 空を駆ける揺れ防止馬車。迷彩仕様。自動運転で目的地までひとっ飛び。

 馬は驚くといけないので亜空間に待機してて貰う。


「あなた様は、もしや神の使いですか?」

「ハーレム王です」

「ハーレム王……ですか……そう……」


 母親の憐れむような視線が痛い。

 まぁ、初対面でハーレム王なんて名乗る奴が居たら、頭が残念な人なんだなって思うわな。

 だが、あえて宣言する事で俺の夢を明確にしていく狙いがある。

 有言実行。

 俺は必ずハーレム王になってみせるぜ!



「すごい! 空飛んでる! お話に出て来るお姫様みたい!」

「うぅ、怖いよお姉ちゃん……」


 山賊に襲われた事など記憶に無いってぐらいにはしゃいでいる姉の方は問題無さそうだが、妹の方はガタガタ震えて全然ダメそうだ。


「絶対に落ちないから大丈夫だよ」

「……うん」


 辛そうだし、リラックス魔法でも掛けとくか。


「リラックス、ついでに飴ちゃん」


 りんご飴を四つ出して、母親にも渡す。うまうま。


「美味しい! こんなの食べた事ない!」

「ほんと、美味しいわ! ありがとうございます!こんなにして頂いて」

「……美味しい」

「いえいえ、笑顔になって頂けると、こちらも嬉しいですから」


 空を飛んで進んだので次の村まで行くのにそれほど時間は掛からなかった。


「この度は本当にありがとうございました! あの、本当にあの馬車を頂いても良いのでしょうか?」

「オーケーオーケー! あの馬車を盗もうとしたり、あなた達に危害を加えようとしたりすると自動で迎撃する魔法を掛けておいたので安心して貰ってください!」

「本当にありがとうございます! 良かったらこの後、家に……」

「それでは俺はこの辺で!」

「あっ……」


 馬車小屋に、亜空間で待機して貰っていた馬を繋ぎ、村を一通り見て周り、冒険者ギルドなどが無い事が分かったので次の村へと進む。


「お兄ちゃん待って!」


 美少女ボイスに反応して振り返ると妹ちゃんが走り寄って来ていた。


「はぁ……はぁ……あのね、これ、お兄ちゃんにあげたくて……」


 妹ちゃんが手に持っていた綺麗な花の指輪を渡して来たので喜んで受け取ると満面の笑みを見せてくれた。


「ありがとう! 大事にするね!」

「私、メリーって言います! いつかまた会えますか?」

「俺はジュースって言います。メリーさんならいつでも会いに来れると思いますよ?」


 頭にクエスチョンマークを浮かべてる様な表情をして首を傾げている。

 この世界に私メリーさんネタは通じないか。

 うーん、お返しに俺の側に転移出来る指輪をあげとくか。


「この指輪に願えばいつでも会いに来れるから、寂しくなったら使ってみてね」


 創造魔法、クリエイトアイテムで任意の効果を持たせた指輪を作り出してメリーさんに渡した。

 見た目は木で出来ているので盗まれる事も無いだろ。


「こんなに綺麗な指輪貰っていいの?」


 見た目は木で出来ているとはいえ、あまりにもみすぼらしいのもあれなので、艶出しはしておいた。


「お返しのお返しだよ。メリーさん専用だから他の人にあげたり、売ったりしたらダメだからね? 会いに来る時はお母さんにちゃんと言ってから来るんだよ?」

「うん! 大事にするね!」


 そう言うと左手の薬指にはめて凄く嬉しそうに指輪を撫でるメリーさん。

 もしかしてこっちには結婚指輪の文化とかある系ですか?

 聞きたい気もするが、メリーさんと結婚するには幼すぎるのでもう少し大人になってから聞こうと思う。


「それじゃ、俺は行くよ。あ、いつでも会いに来て良いって言ったけど俺が忙しい時とかは来れないから、その時は諦めて次の日とかに願ってね。それじゃあ、またね」

「うん。またね!」


 メリーさんに手を振りながら村を出る。

 メリーさんも俺が見えなくなるまで手を振り続けていた。

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