第16話 ヤンキーたちの更生
次の街は小さく、どっちかっていうと村だなこれ。
王都からも遠いので治安もそれほど良くなさそうだ。
とりあえず冒険者ギルドへ。
「よう兄ちゃん、ちょっとツラ貸せや」
ギルドに入るや否や、田舎ヤンキー風の金髪リーゼントに絡まれてしまった。
「この村にはさっき着いたばかりの俺に何か用があるのか?」
「新入りには俺っちの講習会に強制参加してもらう事になってるんでね」
「ふむ」
まぁ、付き合ってみるのも一興か。
金髪リーゼントにギルドの裏手にある広場まで連れて来られると数人のヤンキー達がたむろっていた。
「兄貴、新入りか?」
「おう、ちょっくら講習会開いてやるから他の奴らも呼んで来いや」
「りょ」
はてさて何をされるのやら?
待つ事数分。
ゾロゾロとどこから来たのかヤンキー達が俺と金髪リーゼントを囲むように広場に集まっていた。
「シャー! 始めるぜ!」
「「「ウェーーーイ!」」」
ヤンキー達が一斉に雄叫びを上げてうるさい。
「これから俺っちと戦ってもらっあぴゃ!?」
魔法で強化したデコピンで金髪リーゼントの兄貴が見事な弧を描いて吹っ飛んだ。
「なんだ、もう終わりか?」
「「「アニキイイイイイイイイイ!?」」」
「アニキの仇!」とか言って一斉に襲いかかって来たヤンキー達を麻痺で大人しくさせる。
「まぁ、落ち着けよ。俺はただ普通に冒険者やりたいだけなんだ。お前らも遊んでないで仕事しようぜ?」
そう言い残して俺は冒険者ギルドに戻ってクエストボードの見え難い位置に貼られていた、馬鹿者達を更生させてやってくれ。という依頼を手に取り受付へと渡した。
「こちらの依頼、本当に受けるおつもりですか?」
受付嬢さんが険しい表情で確認して来たので頷くと呆れた顔へと変わってしまった。
何か問題でもあるんかね?
「こちらへどうぞ」
受付嬢さんが窓口から出て来て2階へと案内され、他とは少し作りの違うドアの前へとやって来た。
数回ノックして部屋へ入ると、どう見てもギルドマスターの部屋って感じの内装と、私がギルドマスターですって感じの人が書類に目を通しながらため息を吐いた。
「なんだ? また問題か? こっちは忙しいってのによ」
「あの依頼を受けられた方が現れました」
書類から目を離し、俺の方を値踏みするように見ると、また書類に視線を落として一言。
「帰んな。お前さんには無理だ」
その一言だけで、もう用は済んだとばかりに受付嬢さんに部屋から退出するように促されてしまった。
何を以ってして俺には無理なのかさっぱり理解出来なかったし、ぞんざいな扱いでちょっとイラッとしたのでギルドマスターの少しハゲ出していた頭をツルツルにしてあげた。
「なんだこの毛は? どこから落ちて来たんだ?」
「ぎ、ギルマス!? あ、頭が!」
「頭?」
ギルドマスターは自分の頭に手をやると、見る見るうちに顔から血の気が引いて行き、真っ青へと変化して冷や汗をダラダラとかきはじめた。
「お、オレの髪が……オレの髪があああああ!?」
慌てふためくギルドマスターに受付嬢。
俺はその一部始終を映像記録。
「おい、おっさん。髪を戻して欲しかったら今後一切、人を見かけだけで判断するんじゃないぜ?」
「何を言っている! 戻せる訳無いだろ!? 一度ハゲちまったら回復魔法を使おうが何しようがもう二度と元には戻らないんだぞ!」
「それはどうかな? 増毛ロングヘア」
増毛魔法を唱えるとツルツルだったギルドマスターの頭からズゾゾゾと一気に髪の毛が伸びてサラサラのロングヘアへと変貌した。
「奇跡だわ……!」
「俺の髪が! ああ、俺の髪があああああああ!」
もみあげ部分を両手で掴み、引っ張って感触を確かめると感動で涙を流し始める始末。
「どうだ? 誓うか?」
「誓う! 誓う! お前さんの言う事なら何でも聞いてやる!」
「そうか、ではあの依頼について教えてくれ」
「あの依頼か、ありゃこの村に居る不良共の目を覚まさせて欲しいって依頼なんだが、お前さんじゃ若過ぎて聞く耳を持つことさえ出来ねぇだろうって判断で断ったんだ」
「む、そうだったのか……。まぁ、目を覚まさせるぐらいなら俺にも出来ると思うぞ」
「やるってんなら止めはしないが、怪我してもこっちは責任の取りようが無いぞ? いいか?」
「任せとけ」
さっそく索敵魔法でこの村周辺に居る不良達を選別して、テレパシーで雑魚とか間抜けとか煽りに煽ってから冒険者ギルドの裏手の広場で待つと挑戦状みたいな感じで呼び付けてみた。
広場に移動して、未だに麻痺で動けないヤンキー共が邪魔になるといけないので浮遊魔法で浮かせて隅っこの方へと追いやり、不良達が来るのを待った。
しばらくすると、ぞろぞろと釘棍棒や鎖などで武装した、いかにもな不良達が集まって来て、大声で罵詈雑言を喚き散らしてくる。
「オメェか!? オレらをおちょくってくれた腐れ野郎はよお?」
「ぶっ殺されてぇようだな!?アァッ!?」
「久しぶりにキレちまったよ……さっさと始めようや……?」
有象無象という言葉がぴったりな人達だ。
30人ぐらいかな?
こんな田舎で30人も不良になられちゃ、そら困りますわな。
ただこんなに不良が出て来てしまうこの村の環境も悪いんじゃ無いかなぁ?
親の顔が見てみたいね。
ま、今はこいつらを矯正しよう。
「一人ずつなんて面倒だからここにいる全員で掛かって来ていいぜ?」
ブチッという音が聞こえた気がした。
それを合図に一斉に襲い掛かって来る不良達はさながらゾンビ映画っぽくて少し怖い。
「オラアアッ! ぎぇええええ!?」
「しゃああああ! いでえええええ!?」
「ふっ! めげえええええええ!?」
シールドに阻まれ自滅していく不良達。
腕が逆方向に曲がったり、足がパックリ裂けたり、見ていて痛々しい。
「なんだこいつ!? 何もしてないのに俺らがやられてるじゃねーかよ!?」
「だらし無いね。男どもは引っ込んでな! アタイらでやるよ!」
「けひゃひゃひゃ! 顔は悪くねぇから服引っぺがして腰が立たなくなるまでヒンヒン喘ぎな!」
男女共にだがどうしてこう不良ってのは世紀末みたいなファッションになってしまうんだろうか?
ピエロみたいなメイクで元が美人かブサイクかも判別出来ない。
それでも女性を傷付けるのはちょっと忌避感を覚えるので生まれたままの姿にしてあげた。
もちろんメイクやタトゥー、抗争で負ったであろう傷なんかも綺麗さっぱりにして。ついでに病気類も治してあげた。
「いやあああああああ!?」
「きゃああああああああ!?」
「アタイの服が消えちまったよ!?」
女達が突然全裸になり、それを見た男共が色めき立つ。
「お前ら、そんな顔してたんだな……ゴクリッ」
「ヤベェ、初めて生で見れた……ちょ、ちょっと触っていいか?」
「ハッ、ハッ、ハッ、ヤル! ブチ犯す! オンナアアアアッ!」
発情した猿は麻痺させて大人しくさせる。
「おい、お前ら、まだやるか?」
「アン? ったりめーだ、アホが!」
「雑魚共は引っ込んどれ」
「兄さんらが出て来たらおめぇも終いだわな、ぎひひひ」
屈強そうな二人組が前に出て来た。
一人は鬼っぽい特徴を持った筋肉お化け。
もう一人は、突然雄叫びを上げて人狼へ変身しやがった。
「ちょっとはやれそうだな」
「オマエ調子にノリスギ」
「ワシらのシマを荒らしたケジメはつけんとあかんわな?」
静かな風が流れていく。
さながらカウボーイ映画の決闘シーンのような緊張感だ。
パキッという誰かが小枝を踏みつける音がしたと同時に二人が襲い掛かって来た。
「シャッ!」
「フンッ!」
二人の同時攻撃はジェット機にでもぶつけられた様な衝撃を放った。
「ぐぉっ!?」
甘く見ていた俺は後方へとぶっ飛び、冒険者ギルドを突き抜け、家屋を突き抜け、木々を薙ぎ倒しながらぶっ飛び続けた。
シールドで致命傷にはならなかったが肋骨が砕け、鼻血を吹き出し、腕があらぬ方向へと折れ曲がってしまった。
「めちゃくちゃ痛ぇ……。死んじゃうよ、これ……。ははは……」
脳内物質が大量に出ているのか、笑える状況では無いはずなのに笑いが込み上げて来る。
「メディカルヒール……」
傷を治して脳内物質量も正常値へと戻す。
「いくら神様のチートがあってもヤベェ奴ってのは居るもんだな」
大陸が違えば特殊能力者もごまんといる訳だ。気を付けねば。
転移で広場に戻ると全員が目を疑う表情をしていた。
「テメェ、あれ喰らってピンピンしてるとか、バケモンかよ?」
「お前さん、何者だ?」
「ハーレム王だ。覚えておけ」
一同ポカーンと間抜け面を晒している。
「隙あり」
二人の顔面に同時にパンチを食らわせる。
鬼と人狼にそれぞれ1のダメージ。まるで効いてない。
「あ?」
「……そりゃあ、ちーとばかし舐めすぎじゃろ?」
「体術は本当にクソだわ……」
魔法無効化とか出来る奴に出会ったら速攻で死ねるね。
「今度は確実にコロス!」
「終いじゃ!」
鳥肌が立つ様な殺気。俺でも漏らしてしまったよ……ふふふ。
「麻痺!」
「くっ!」
「なんのっ!」
ゲェェッ!? 殆ど効いてない!?
「激辛スプレー!」
二人の顔面に魔法で激辛成分マシマシに凝縮させた霧を散布。
「あぎゃ!?」
「ぐぅぅぅ!?」
「苦い青汁もう一杯!」
苦味成分を凝縮した青汁を強制的に二度飲ませる魔法。
相手は死ぬ。味覚が。
「オエエエエエエ! ニゲェエエエエエ!」
「ウップ、ワシはこの味好きじゃ」
鬼には効かなかったか……ならば!
「鬼殺し!」
「うまかあああああああ!? なんじゃこの酒は!? もっとくれ!」
喜ばせただけか! ならばこれでどうだ!
「鬼は外福は内!」
炒った大豆をぶつけてみた。
「なんじゃこの豆粒は! 酒のつまみにゃ淡白な味じゃの?」
「鬼には毒だぜ?」(嘘)
「ワシは鬼ではないわい!」
違ったかー! どう見ても鬼っぽかったのに。
「クソッ、ひでぇ味だぜ! 俺にも酒を寄越しやがれ!」
「犬は酒飲むと死ぬぞ!」
「俺は犬じゃねぇ! これはこういう見た目になる魔法なんだよっ!」
「ウイスキーボンボン」
チョコとお酒で致死量超えたな。なむなむ……。
「あまうまっ! なんだよコレ!?」
大丈夫そうだな……ちっ。
「で、お前さんは何をしたいんかの?」
「おお、そうだった、なんだよテメェはよぉ? 何がしてぇんだ?」
「……不良達の更生かな」
そう言った途端、二人の表情が曇る。
「……ギルドの依頼か。今更無理な話じゃな」
「ケッ、お前の方が犬じゃねぇかよ……」
「何か問題でも?」
「ギルドと言うよりも……いや、よそ者に話す事でも無いの」
「アイツらは一度オレらを裏切りやがったんだよ……だからこっちだって好きにさせて貰うさ」
詳しくは教えてくれそうにないな……。
うーん、あんまりここで長居すると面倒そうだし、見た目だけ更生させるか……。
「清潔になーれー」
不良達の見た目を清潔にし、礼服を着させて、どこに出しても恥ずかしくないようにキッチリカッチリ髪型も決めてやった。
ついでに怪我と病気も治しておく。
「なんじゃいこれ?」
「ぶはははっ! ひぃ、ひぃ、似合わねぇー!」
他の不良達も笑い転げて居るのでこれで一旦良しとしよう。
「んじゃ、俺はこれで」
「あ、どこ行く気だよ?」
「次の村に行こうと思ってね」
「お前さん、ギルドに依頼されてんだろ?」
「これで良いんじゃないか?」
周りを見渡し、すでに不良とは呼べなくなった、側から見たらどこかの貴族かと思われるような見た目になった面々を見て。
「「確かに」」
と二人同時にそう呟くのだった。
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