第11話 奴隷解放その1

「そうだ、奴隷を買おう」

「はっ? 何言ってんの? ぶっ飛ばすわよ?」


 実家で家族と団欒中、唐突に思いついてしまい、つい口に出してしまった。


「ドロンッ!」


 転移で逃走、王都の家へ。

 と、いっても王都には奴隷制度が無いので奴隷制度のある周辺国をサーチ。


「ビンゴ! さすが帝国、鬼畜やな」


 異世界で帝国と言えば悪である。

 それは言い過ぎか。とにかく奴隷制度があるので行ってみる事にする。


 転移で帝国へ飛ぶと、そこは機械文明が進んだ様な近未来的な巨大な都市でした。


「やべー。文明力が王都と段違いじゃんよ……」


 もし戦争なんて事になったら王都なんて一瞬で消し炭だろうね。

 だって飛行船とか飛びまくってるし。

 核兵器みたいな物もあるかもな……

 と、気になって索敵魔法で調べてみたら似通った物を開発中のご様子。


「帝国ぱねえわ。潰しとくか……?」


 まだ宣戦布告された訳でもないし問答無用で撃たれた時も前世の知識で覚えたマイクロブラックホール魔法で無力化出来ると思うので今は静観しておくか……。

 一応発射された時用に核ミサイルにピンを打っておこう。

 これで発射されたらアラームが鳴る。


「とりあえず今は奴隷を見に行こっと」


 地図魔法をちょちょいと弄って帝国マップを作り、奴隷市場を検索。

 結構な数があるので一番大きい所へ行ってみる事にした。


「いらっしゃいませお客様。本日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」


「おぉ」


 スーツを着た美人さんが出迎えてくれるなんて想像もしてなかったぜ。

 やるな、帝国!


「えっと、色々見てみたいので案内してもらえます?」


 美人スタッフがニコリと笑って「こちらへどうぞ」と案内人窓口へと連れて行ってくれた。


「雇用奴隷、借金奴隷、犯罪奴隷、終身奴隷。どちらからご案内致しましょうか?」


 清潔感はあるおっさんに引き継がれてしまった。テンションダダ下がりだ。


「おすすめから回ってください」


 雇用奴隷から巡る事になった。


 何というか人間のペットショップって感じで狭い部屋に入れられていた。

 ガラスを叩かないでくださいと注意書きまである。


 ざっと見た感じ、若い兄ちゃんが多い。見た目は頭悪そうなヤンキー。

 雇いたく無いので次の借金奴隷へ。


 借金奴隷は老若男女問わず色々な人達がいた。

 家族単位だったり、兄弟姉妹だったり、赤ん坊まで居た。

 倫理とかは置いといて救済処置としてなら奴隷制度もありかも?

 雇いたい奴隷は居なかったので犯罪奴隷へ。


 犯罪奴隷は牢屋に入れられていた。

 奴隷側からはこちらが見えない仕様らしい。

 なんか奇声を上げてるやつとか居て怖いわ。


 終身奴隷は重度の身体、精神障害者で詳しくは言えないが実験材料としての価値しか無いと案内人に耳打ちされた。

 弱者切り捨てなんて正しく帝国らしい倫理観だ。

 まぁ、命なんて簡単に失われる世界なので自分の力で生き残れない者は淘汰されるのが自然って事かな……。

 ただモンスターの餌になるよりは実験材料にでもして明日に繋げるだけまだマシって所か。


「ここに居る終身奴隷全員ください」


「へ?」


 という事でカジノで稼いだ金を半分近く失ってしまった。

 総勢32名の終身奴隷を買いましたとさ。


 子供から大人まで幅広い世代の男女を転移で人気の無い場所へと連れて行き、壊れてしまっている体と精神を魔法で回復。

 魔法って本当便利だ。ロキ神に感謝しておこう。


 ロキ神が作った世界なのでマッチポンプ臭いが、まぁいいか。


「嘘……」

「信じられん……」

「夢か……幻か……」

「どうなってるの?」

「治ってる! 僕の体、治ってる!」


 地獄のどん底からの唐突な救済。

 みんな狂喜乱舞して喜び合っている。

 うむ、実に良き気分だ。


 皆が落ち着きだした頃、一人がひれ伏したのを合図に全員がひれ伏し始めた。


「我が生涯を貴方様に捧げます」

「いや、要らんわ」


 ぽかーんと間抜けな顔を晒した老人が悲しそうな表情に変わった。

 だってこんなに奴隷が居てもしょうがないし、村で適当に暮らしてもらおう。


「故郷に帰りたいとか家族に会いたいって人は……あー、居ないみたいね……君達の人生ハードモードすぎ! とりあえずうちの村で人並みの幸せを掴んでくれれば良いかな」


 この人達の来歴を鑑定魔法でざっと調べてみたら故郷が魔物に蹂躙されていたり、家族に拷問されていたり、愛した者に裏切られていたりと踏んだり蹴ったり過ぎてこっちまで辛い。


「ですが私達はご主人様の奴隷です。救ってくださったご恩を我が身を持ってお返しせねば」

「そういうのは望んで無い。奴隷契約も、もう破棄したから」


 指をパチンと鳴らせばあら不思議、奴隷達の首輪が勝手に外れてしまったではありませんか。


「首輪がっ!? た、たとえ奴隷で無くなったとしても貴方様には返しても返し切れないご恩が」

「うるせえ! 自分の幸せを考えろ!」


 元奴隷達を連れて村長の家へ転移。


「なんじゃ!? なんじゃ!? またジュースか! 今度は何を仕出かした!」

「新しい村民としてこいつらの生活と仕事の面倒見てやって、じゃ、よろしく!」

「面倒ごとをわし一人に押し付けるで無いわ! 待たんか! これっ!」


 村長には後でネクタルでも飲ませてやろう。

 長生きして貰って、俺の好き勝手に付き合ってもらわねばな。

 村に近付くモンスターを狩っては即没収されていた御礼はせねばなるまいて。

 くっくっくっ。


 転移で帝国に戻りカジノを荒らして出禁を食らったがかなり荒稼ぎ出来たので他の奴隷市場を巡った。


「では1金貨から、3金貨、7金貨、15金貨、16金貨、17金貨、他に居ないか? 19金貨、他は? 他は居ないか? 居ない様なので19金貨で……20金貨! 他は居ないか? 21金貨、30金貨! 他に居ない様なので30金貨で落札です!」


 オークション型の奴隷市場でエルフの美少女をゲットした。


 その後もドワーフの美少女、猫耳獣人の美少女、妖精の美少女、鬼の美少女、魔族の美少女、某国の美少女姫などを落札して行った。


 出品された美少女は全部俺一人で落札したので各所に目を付けられたが、ちょっかいを出して来た者はサクッと撃退しておいた。

 ちなみに美少女しか出品されておりません。


「こちらが落札された商品達でございます。これからもご贔屓に」


 あっさりとした挨拶だ。さっさと帰って欲しい感をひしひしと感じる。

 金払いは良いが危険なお客様って所か。


 美少女奴隷達を連れて帝国を散歩。

 釣り餌が多いので魚も大量に掛かった。

 索敵マップが赤色に点滅しているので犯罪歴のある者は捕まえて賞金に。

 救いに来たって奴も居たけど、どうせ下らない政治利用とかだろうと来歴を調べてみると案の定なので一部の記憶を消去して国に送り返してやった。


「ご主人様は一体何者なのですか?」

「俺か? 俺は君達のご主人様さ! グヘヘ!」

「くふふ、可笑しな人間も居たものよ」

「わ、私、食べても、美味しくないよ……」

「逃げないからさー、籠から出してくれない? 狭い所嫌いー」

「にーちゃんにーちゃん、魚食べたい!」

「何でも良いから早く鍛冶がしてーよ」

「ふん、私はまだあなたの奴隷になったつもりはありませんから」


「ところでお前達、家族に会いたいとか故郷に戻りたいとかそういう事思ってたりする?」


 うわぁ、美少女達の表情が途端に暗くなってしまった。


「無くなったよ。帰るべき故郷も家族も友人も……」

「戦争なんて無ければ良かったのに……」

「みんな死んじゃったよ……」


「「「…………」」」


「そっか、ならうちの村で暮らしなよ。平和だけが取り柄みたいな場所だからきっと気にいると思うんだ」


 美少女達を連れて村長の家へ。


「また来ちゃった。てへぺろ」

「ニーナにぶっ殺されてもわしは知らん」


 という事で美少女達の生活と仕事を村長に丸投げした。


「おい、ご主人、奴隷を買っておいてこんな爺様に丸投げとは無責任が過ぎるのではないか?」

「ん、あ、首輪よ外れろー」


 奴隷契約解除し忘れてた。


「は?」

「ど、どういうことよ!?」

「首輪、外れちゃった?」


「君達は今日から自由だー! バンザーイ! イエイ!」


 理解が追い付かないようで口をパクパクさせているがいちいち説明するのもめんどくさいので後は村長に任せておく。


「自由なんだよね? ならあんたにくっ付いてた方が面白そうだからそうするね!」


 妖精が俺の肩にちょこんと座って頬擦りしてくる。


「いや、この後も色々しないといけないからしばらく村で、痛でででで、爪を立てるな!」

「付いてくから!」

「分かったよ! だから爪を引っ込めてくれ!」


 おぉ、痛え……妖精の爪鋭過ぎ!

 オートヒールで傷は一瞬で治るけど痛いものは痛いのだ。

 シールドでガードすると相手が傷付いてしまうので家族や親しい人には基本的に切っている。

 ちなみにニーナの拳はシールドを貫通してくるのでヤバイ。死に掛ける。


「わ、私も、魔族だから……」

「この村に魔族だからってだけで差別する奴は居ないと思うぞ?」

「そ、そう……でも、あなたの家に、置いてもらえると、安心、出来ると思う……」

「ふむ、まぁ、大丈夫だろ」

「あ、ありがとう」


 あ、了承したと思っちゃったか。

 父さんは置いといて母さんは大丈夫だろう。

 だがニーナはどうだろうか?

 こんな美少女を家に置いてくれなんて言ったら勘違いしてぶっ殺されそうだな……。

 良し、家に預けたら即ドロンだ。


「ワシは女と酒があれば良いぞ!」

「奴隷契約!」

「何じゃとっ!?」


 鬼娘に再度奴隷契約してやった。

 またも首輪をはめられ目を白黒させて驚いている。


「ふぅ、これで安心だ」

「何が安心じゃ! せっかく自由になれたというのに何でこんな酷い事をするんじゃ!?」

「いや、他の子に迷惑掛けそうだから」

「そのような事は、しないぞ!」


 少し言い淀んだので読心魔法。


(ただ、ちょっと、酒のつまみにするだけじゃ!)


「セクハラする気満々じゃねーか!」

「セクハラとは何じゃ!」

「無理矢理エッチな事をする奴の事だ。つまりお前の事だ」

「そ、そのような事は、しないぞ? 本当だぞ? 疑いの目を向けるで無い!」

「命令、真面目に村のために適度に働け。酒は一日ジョッキ一杯まで、女と性的行為をするなら本人の同意を得てから優しくしてやれ。それとおっぱい揉ませて」

「は? ぐぎぎ、強制力ががが、どうぞ胸を揉んでください! ぐが! 酒は樽一杯にして欲しいのじゃあああああ!」


 モミモミ、おぉ、凄く揉み心地が良い。

 鬼嫁も良いかも……。

 ただ女好きみたいだから無理に誘ったりはしない。


「さてと、じゃあ、俺はこの辺で……ん? どうした?」


 お姫様に服を掴まれた。

 何か言いたそうだが掴んだ服をくねくね引っ張るだけで何も言ってこない。

 しょうがないので読心魔法。


(生き方が分からない……メイド達が全部やってくれてたから一人で生活も出来ない……この方の奴隷になれば……いえ、せっかく解放させて下さいましたのに自分からまた奴隷にしてなど言えるはずもなく……あの鬼の子が羨ましい……いっそのこと婚約を迫る? 寝込みを襲って子供を成せばなんとかなるかしら?)


 世間知らずなお姫様だった。

 というかニート嫁まっしぐらじゃん。

 家事も育児も仕事もしないで毎日ダラダラする気だろ。

 それはそれで構わないがこの姫様の為にはならん。


「えーっと、とりあえず、面倒はうちの母さんが見てくれると思うから村の学校に通って一般常識覚えて?」

「え、はい……そうします……あの、私を娶る気は?」

「怠け者は嫌です」

「そう、ですか……」


 ぐりゅりゅりゅぅ〜とお腹の音が響き渡る。


「魚食べたい! 鶏肉でも良いぞ!」

「クリエイトフード、フィッシュバーガー、ほれ」

「いただきますなのだ! はぐはぐはぐ」


 猫獣人は一心不乱にガブ付いている。


「あ、あなた、今何をしたの!? 魔法で食べ物を生み出すなんてありえないわよ!?」

「今見てたろ?」

「そういう事じゃないわ! 魔法で食料は生み出せないはずなのよ! それをあなたは……」

「キノコバーガー食べる?」

「ああ! もう! 頂くわ! もぐもぐ……美味しいじゃない……うぅ、頭がおかしくなりそう!」


 エルフちゃんはカルシウム足りてなさそうだな。

 牛乳、じゃなくてこっちではヤギュウだったな。それもあげておこう。

 というか、学園長が魔法で料理を出してた気がするがあれはクリエイトフードじゃないのかな?

 出来ないってのが常識なら透明化魔法、あるいは食べ物を転移させてたって事か?


「この村に鍛冶場はあるかい?」

「小さいのはあるがのう、お嬢ちゃんはドワーフだろ? ドワーフの技術力にはまるで釣り合わんから見てもガッカリするだけじゃのぉ……」

「そうかい……」


「鍛冶場ぐらいすぐ作れるよ。村長、適当に場所用意してくれ」

「うちの庭が空いとるが火事や防音はしっかり対策してくれ、と注意するまでも無かったかの」

「オッケー、良し、出来た。内装は自分でやってね。足りない道具とかあったら言ってくれ」


 ズンという音が庭から聴こえて、見に行くと立派な鍛冶場が出来ていた。


「嘘だろ……夢なのか? まだ寝てるのか?」


 ドワーフちゃんが口からよだれをジュルジュル出している。

 本当に鍛冶が好きなんだな。

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