第9話 カジノで大食い
実家と学園を行き来する日々を過ごす中、ふと思い立ってしまった。
そうだ、カジノへ行こう。
「ようこそオアシスカジノへ! ごゆっくりお楽しみください!」
豪華絢爛、煌びやかに輝く、夢と希望と絶望が紡がれるカジノへとやって来た。
もちろん誰にも内緒だよ。バレたら怒られちゃうもの。
という事で有り金全部カジノコインに替えてスロットやらルーレットやらを片っ端からやっていく。もちろん金運アップの指輪を付けてね。
「777! っしゃ!」
スロットで100万ほど稼げた。
ボタンをポチポチ押すだけの単調な作業なので直ぐに飽きてしまったが。
「7! イエーイ!」
ちょっとだけスリルを体験してみたく、持っているカジノコイン全てをルーレットの7に一点賭けすると見事に的中、一瞬にして億万長者になってしまった。
カジノ側に目を付けられる前にさっさと換金し、帰ろうとすると後ろからスキンヘッドのおっさん連中が後をつけて来たので転移で逃げてやった。
面倒ごとはごめんだぜ。
後日、あの全財産を溶かすかもしれないというスリルが忘れられなくて、別のカジノへ行き、全財産をコインに換金して再びルーレットの7に一点賭けすると、またも的中させてしまった。
今回も素早く現金に換金し、誰かにつけられる前に転移で自宅に帰った。
「金運アップの指輪……チート過ぎるな……」
ベッドに寝転び、指輪を眺める。
この指輪がどういう経緯で作られたのか鑑定魔法でよーく調べてみるとロキ神の悪戯だと判明した。
この指輪を見つけた者に無限の富を与えて、自制の効かなくなった人間の破滅する姿を見て楽しむ、そんな悪趣味な思惑で作られた指輪だった。
「ま、俺は自制心の塊のような存在だから問題無いな」
自分で言っててあれだが、魔法で何でも出来てしまう俺には豚に真珠状態だ。
デザインも気に入っているので無理に壊す事も無いかとインベントリにしまっておく。
「ねぇジュース君、最近ジュース君がカジノに出入りしている所を見たって人が居るんだけど、もしかして行ったの?」
「あ、アマテさん? もしかしなくても物凄く怒っていらっしゃる?」
いつもの優しくて、朗らかで、全ての癒しを凝縮したような雰囲気から一転、今はドス黒いオーラが迸っている。
表情だけならいつも通りなのに。
「何で行ったのかな? ねぇ何で?」
鬼気迫る勢いで顔を近付けて来て、めっちゃ怖い……。
ちょっとちびっちまったぜ、へへへ……。
「いや、あの、何となく行ってみたくなったから……それで……。それに、自分の稼いだお金で遊んだだけだし、大勝ちして億万長者になったし、怒られるような事は何もしていない、事も無いかもしれないけど、アマテが嫌ならもう行かないよ……」
「違うよ! 全然違う! 何でジュース君一人で行ったの!? 私も一緒に行きたかったのに! ジュース君一人だけカジノに行っちゃうなんてずるいずるいずるいっ!」
ぽかぽかと頭を叩かれ、駄々をこねるアマテさん。
カジノ一緒に行きたかったのね。
「分かった! 分かったから落ち着け!」
「ズルイズルイズルイズルイズルイ!」
「イテテ、もう、分かったから! それじゃ、今から一緒に行こう! それで良いだろ?」
「やった!」
今日の薬学の授業はサボタージュして、王都のカジノ……はアマテが見つかると不味いので、マップを開き、王都から離れた街のカジノへと転移で飛んだ。
「うわー! すごーい! これがカジノなんだ!」
「あんまり羽目を外し過ぎるなよ? 一瞬の油断が命取りになるからな」
「えー、私、そんなに賭けたりしないよ?」
「熱くなった時が辞め時だから、それだけは気に留めておいてね」
「うん! よーし、やるぞー!」
お詫びも兼ねて今回は俺のポケットマネーからカジノコインに交換して遊ぶ事にした。
「どれから始めようかな? あ、ボーンドッグレースだって! あれにしよう!」
「走るな、走るな」
ボーンドッグレース。
骨だけの犬達が一直線のコースをゴール目掛けて走って行き、最後は壁に衝突してバラバラになる人気のカジノゲームみたいだ。
ボーンドッグ達はそれぞれ色分けされており、ホラーっぽさよりファンシーさが目立つ。
「どの子に賭けようかな……? ジュース君はどの子に賭ける?」
「赤いのだな。通常の3倍は速いはず」
「そう? じゃ、私も赤い子にするね」
アマテは初めてという事もあり、控えめにカジノコインを10枚賭けて、俺は交換したカジノコインの半分を賭けてみた。
ちなみに今日は金運アップの指輪はしてないのでガチ勝負だ。
「始まるみたい!」
鼻息の荒いボーンドッグ達が位置に着き、バニーガールのお姉さんがフラッグを振るのと同時にゲートが開き一斉に走り出した。
「赤行けー! 頑張れー!」
大はしゃぎのアマテ。すげぇ可愛い。大好き。
ボーンドッグレースはあっと言う間に決着が付き、一着が青色、二着が黄色、三着は緑色で、赤色は五着だった。
壁に衝突してバラバラになったボーンドッグは自分の色の骨を自ら集めて、別の色が混ざっている犬と喧嘩をし始めたりしていた。
「あーあ、負けちゃった……」
「まぁ、こんなもんだろ。次行こうぜ」
「うん!」
次のカジノゲームはハンマークラッシュ。
バカでかいハンマーで的を叩いてエクストルージョンと呼ばれる丸い金属が跳ね上がり、上がった位置で配当が決まるゲームだ。
頭頂部のベルに当たると賭けたカジノコインの倍額が手に入る、パワーイズマネーシステム。
「いくら賭ける?」
「どれ程上がるか試したいし、5枚にしておこうかな」
バニーガールのお姉さんにカジノコイン5枚を渡して、バカでかハンマーを渡されたアマテはハンマーを振り上げて、的に向かって思いっきり振り下ろした。
「やー!」
エクストルージョンは赤いマスで止まり、賭けたカジノコインは全額没収となってしまった。
「おしかったな。もう少し上がっていれば1.5倍マスだったのにな」
「次はジュース君やってみてよ」
「おう」
バニーのお姉さんにカジノコイン10枚を渡してハンマーを受け取り、的に叩きつける。
「うりゃ!」
ポン、と軽い音が鳴り、エクストルージョンは殆ど上がらず赤いマスで止まり賭けたカジノコインは没収されてしまった。
「……どんまい!」
「……おう」
魔力はあっても筋力は無いんや!
帰ったら筋トレするか……。
「お姉さん、これって身体強化魔法使っても良いですか?」
「はい、問題ございません」
「だって! ジュース君なら余裕だよ!」
「お、おう!」
それはそれで良いんだが、何か負けた気分になるな……。
憂さ晴らしに持っているカジノコインを全額お姉さんに渡して、マッスルブースト1000倍を掛けて挑戦。
「ふんっ!」
爆発だ。
爆発が起きた。
1000倍はやり過ぎたみたいだ。
「きゃああああああ!?」
「うわわ!?」
二人が怪我をしないように咄嗟にシールドを張って事なきを得た。
これで出禁されては困るので壊れてしまったハンマークラッシュをリストアで素早く直して何も無かった体で素知らぬ顔をする。
「それじゃ、次行こうか」
「お、お客様、今爆発が」
「え? 気のせいじゃないですか?」
「え、でも……」
「何も無かった。それでいいじゃないですか?」
「は、はぁ……?」
騒ぎを聞きつけてカジノスタッフが集まり出してきたので、混乱したままのアマテの手を引いてカジノ内レストランへと移動。
「ふぅ、ヤバかったな」
「ジュース君は加減を覚えた方が良いと思うよ?」
「そうだな。何頼もっか?」
「もう……。じゃあ、このモリモリリンゴパイとハチミツジンジャーとマルチキンステーキとベータコンエッグとミートソーススパゲッティとブルハムサンド、それと薬草の盛り合わせサラダ、ポーションソース添えを一旦頼もうかな」
「…………じゃあ、俺はモンドコーンポタージュで」
たくさん食べる君が好き……好きだけど、食べすぎじゃないかな?
それに一旦って事はまだ頼むつもりなんだろうか?
お腹壊したら回復魔法で治してあげよう。
待つこと数十分、テーブルに所狭しと料理が運ばれて来て大渋滞だ。
しかも一つ一つ量が多い。これが異世界レストランか。
「味見していい?」
「あむ、もぐもぐ、うん、どうぞ」
名前が前の世界のと似通っているが果たして味はどうかな?
まず自分が頼んだコンポタを一口。うん、ちょい薄味でコクもそんなに無いが美味しい。
スパゲッティはケチャップ味では無く、肉! って感じの塩とコショウが効いてる味でまぁ、悪くはない。
他の料理も微妙に味が違うので脳が混乱しているのか、そこまで美味しく感じる物は無かった。
前の世界で無くても、今世の母親の料理と比べても味は微妙だったな。
ま、母さんの料理は基本野菜煮込みなのでレパートリーに欠けてたが。
包丁を使える年齢になった頃には自分で料理しだして、それをニーナが真似して自分以上に料理が上手くなってたっけか。
アマテは頼んだ料理を全て食べ終えると、更にニジニンジンのソテーと焼きヤイモのハチミツかけとワームサンドとパールオレンジジュースを頼んで、それも全て平らげてしまった。
アマテの胃袋は宇宙空間へと繋がっているのかもしれない。
「ふぅ、ごちそうさまでした!」
「えーっと、もう帰ろうか?」
「え、もう帰るの?」
「ほら、食後に興奮すると吐いちゃうかもしれないだろ?」
「えー、そんな事ないよー?」
「アマテは凄いな」
「うーん? そうかな? それを言うならジュース君こそ凄いよ。魔法は凄いし、優しいし、顔は可愛いし、落ち着く声だし、それになによりピュアな所が凄く好きだよ」
すげー褒められた。ニヤニヤが止まらんぜよ!
「やっぱ今すぐ帰ろう。帰ってイチャイチャしよう!」
「はうっ、そ、そういう事なら帰ろっか……うへへ」
余ったカジノコインはお菓子類と交換し、王都の自宅に帰って延々とイチャラブしましたとさ。
「ねぇ、ちょっとぐらいセック「おやすみスリープ」zzZ」
俺の自制心は鋼よりも硬いのだ。
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