第8話 運命の相手は俺じゃなくて良かった

 学園へ登校すると、まぁ冷やかされること冷やかされること、ムカついたので冷やかして来た奴全員男も女も平等に頭をチリチリにしてやったらみんな黙ったよね。


「ジュース君やり過ぎだよぉ」

「「人の幸せを嘲笑うものに天罰を」だよ」


 誰の言葉だったかな?


「まさか学生婚をする者が現れるなんて思ってもみなかったな。ジュース君、アマテ君を幸せにしてあげるんだぞ?」

「誰目線やねん。そういうリンドは浮いた話の一つや二つ無いのか?」

「お見合い話はいくつもあるが僕はやはり、運命の出会いというものに憧れているんだ!」


 ほほー、では、その運命の相手を探してみますかね。


「運命の赤い糸で結ばれた小指」


 それっぽい詠唱、無詠唱だと何かしっくり来ないので適当に作ってみた。


「急に何を言い出すだ?」

「自分の小指見てみ、左手ね」

「いつの間に紐が……で、これはなんだい?」

「運命の相手と繋がっております」


 そう言った途端、リンドは目を輝かせて気持ち悪い笑顔を見せて、午後の授業を一身上の都合と律儀にビスト先生に伝え、俺も一緒に街へと連れ出されてしまった。


 連れ出される前にアマテに行ってきますのキスをすると頭から煙を上げ、机に突っ伏して悶えさせてしまった。可愛い。

 この子俺の嫁ですよ。



「この赤い糸を辿っていけば会えるんだよね!? 嘘じゃ無いよね!? 嘘付いたら槍千本刺すぞ!?」


 目が血走ってて怖いわー。


「落ち着け、嘘じゃ無いし、会える。初めて使った魔法だけどな」


 赤い糸に導かれるまま移動すると冒険者ギルドの前へとやって来た。


「ここに居るのか……ゴクリッ」

「居るんじゃないかー、ゴツいおっさんとか」


 中に入ると運命の相手がすぐに見つかった。


「君が、僕の運命の相手……?」


 チッ、おっさんじゃなかったか。


「あなたがこの紐を付けたんですか?」

「すまない。驚かせてしまったかな。その紐は運命の赤い糸と言って、運命の相手と繋ぐ魔法の糸なんだ」

「はぁ……? 運命ですか?」

「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はリンド・テール・マクマシステイ。16歳。魔法学園Aクラスの二年生。得意な魔法は風と光で趣味はお菓子作り。将来の夢は幸せな家庭を築く事さ」

「そうですか……あ、私はカザって言います。28歳。D級冒険者やってます。魔法は生活魔法を使えます。趣味は読書で将来の夢はA級冒険者になる事です」


 28歳には見えない、と言うか年下だと思ってたわ。ちょっと鑑定。

 ハーフドワーフ……なるほどね。

 そういえばあの果物ナイフもドワーフだったな。ちょっと聞いてみるか。


「横からすまないがこのナイフに見覚えってありますか?」


 インベントリからドワーフナイフを取り出して見せると、目を見開き、食い入るようにナイフの隅々まで見回し、突然泣き出してしまった。


「おじいちゃんの作品です……これをどこで?」

「隣街の武器屋で偶然見つけたんです。切れ味良さそうだなと思って」

「そうですか、あの、言い値で買います! 譲って下さいませんか!」


「ふむ、リンド君」


 突然の事でボケっとしているリンドにナイフを渡す。


「ん? どういうことだ? 何故僕に渡す?」


「このナイフは彼に譲りました。後の交渉は彼としてください。ちなみに彼は貴族のボンボンで、魔法の才能もあり、性格も良く、結婚する相手としては大変優良だとドワーフナイフを見つけ出した俺の鑑定眼で保証致します」


「……えっと? ……あ、そういう事ですか。うふふ。分かりました。ではそのようにしますね」


 あれだけ言えば誰でも察してくれるだろうよ。

 リンド君は全然気付いていないようだが、まぁ、後々気付いてお礼の一つや二つぐらいは何かくれるはず。

 後の事は二人に任せて、せっかく冒険者ギルドに来たんだし登録してみるか。



「こちらがギルドカードになります。無くしたらダメですよ?」


 登録する間、終始子供扱いされた。

 こちとら一児のパパやぞ!

 嫁も二人居るんじゃい!

 言ってもしょうがないので言わないが、後で何か仕返ししよう、そうしよう。


 登録したては受けられる依頼も少ないので、適当に高ランクのモンスター討伐依頼を勝手に受けて狩って来れば良いだろ。って事でサイクロプス討伐に決めた。


 索敵マップで近場のサイクロプスの住処を見つけて転移。


「グロロロロロロッ!」


 突然現れた俺にビックリしたのかサイクロプスが肩をビクッとしているのがすごく面白かった。


「その者の流れる血を吸血せよ」


 オリジナルの詠唱でサイクロプスの全身から血を抜き取りインベントリに仕舞う。

 血を抜き取られたサイクロプスもインベントリに入れて冒険者ギルドへ転移で戻った。



 ちぇ、子供扱いしたギルドのお姉さんは書類整理中で俺が転移したところ見てなかったか。まあいいや。


「買取お願いします」

「あら、さっきの子じゃない。何を持って来たのかな?」

「サイクロプスです」


 そう言ってインベントリからサイクロプスをドンッ! と床に置くとお姉さんが驚愕して面白い顔になっていたので映像に残しておいた。忘れた頃に見せたら面白そうだよね。


 ここでは買取出来ないと言われ、解体場まで移動し、査定をしている最中にデブったギルドマスターが来て「どこから盗んで来たんだ?」と頭ごなしに疑われたので自分で狩って来たと反論すると「嘘を付くな!」と怒鳴られてしまった。

 話にならないのでサイクロプスをインベントリに仕舞いギルドから出て行こうとすると屈強そうな男たちに肩を抑えられ、衛兵が来るまで大人しくしていろと完璧犯人扱いされ、カチンッと頭に来たのでこっそり脱毛魔法を食らわせてやった。


「ん? なんだこの髪は……?」


 ギルドマスターは床にごっそりと抜け落ちた髪を見た後、自分のツルツルになった頭に手を当てると全身の血の気が一気に引いて顔が真っ青になってしまった。


「そんなバカな……なぜ、こんな……ああ、あああああ!」


 ギルドマスターと取り巻き達は阿鼻叫喚となり、悲鳴を上げながら髪が無くなった事を嘆き続けている。


「なんか大変そうなんで、俺はこの辺で」


 俺の事など最早眼中にも無いようなので冒険者ギルドを後にした。


 余ってしまったサイクロプスと血液は商人ギルドに持って行くと高値で買い取ってくれたので、ついでに商人ギルドにも登録しておいた。

 こっちは対応も素晴らしく、スピーディーに事が運んだので今後ともよろしくしたいね。


 リンドはあの後、カザさんとパーティーを組んだようだ。一歩前進。

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