第5話 オアシスとラクガキ
魔法学園初日。
この学園は魔法の能力別にクラス分けされており、A~Fクラスまでが存在し、当然俺はAクラスに入った。主席だしね。
ニーナとイチャイチャしていたら家から出るのが少し遅れ、教室に入るとすでに着席していた、今日からクラスメイトになる面々に冷たい目線で睨まれました。オー怖。
登校初日で村八分にされてしまったな。
俺の失言のせいってのは分かっているので甘んじて受け入れよう。
このAクラス優等生ばかりなので当然平民の出は俺だけだ。周りはみんな貴族様。見た目も美男美女ばかり。
一応俺もイケメンのはず、前世の美的センス的にだからこの王都で通用するかは分からないが。
ともかく貧富の差は教養の差である事がよく分かった。
金が無けりゃ勉強も出来ない世界なんだろう。
「ほらほら席に付けー、えー、今日から一年間あなた達の担任になりますビストと言います。ビスト先生って気軽に呼んでね! よろしくお願いします!」
まばらな拍手、みんな緊張しているみたいだな。
とりあえず空いている席に座ろう。
「えーっと、じゃあ、自己紹介からしてもらおうかな、前の席から順番にお願いね」
「おほんっ、私は~」
貴族様の長ったらしい自己紹介という名の家自慢を延々と聞かされ、自分の番になるまで魔力で作った小さな棒人間を机の上に大量に作り、関ヶ原の戦いを自己解釈で再現して暇をつぶす。超暇である。
「ね、ねぇ、君。それ、どうやってやってるの? そんな魔法見たことないんだけど?」
こしょこしょと話しかけて来たのは銀髪おかっぱ頭の和風美人な女の子だった。制服は男女共用なのでそこは残念だ。せめて女子はスカートが良かったな……。
「うーん、テキトー。想像すれば大体出来るからどうやるとかよく分かんないや」
「そ、そうなんだ……あの、見てて良い?」
「ん、良いよ? あ、もうちょっと面白くするね」
騎馬戦にして魔法を撃ち合うように変更、ド派手な合戦が学習机の上で今、始まる。
「……すごい」
「次はジュース君、自己紹介お願いね!」
可愛い子に褒められた事により騎馬戦からドラゴンに跨った空中戦へと移行、更に魔法戦から魔法銃火器戦へと変更している最中に自分の番が周って来た。
「あ、はい。名前はジュース。15歳。趣味は魔法。全属性の魔法が使えます。よろしくお願いします!」
パチパチパチとビスト先生と隣のおかっぱの女の子だけが拍手してくれた……。
つらたにえん……。
その後も長ったらしい貴族のお子様達の自己紹介が続き、やっとおかっぱ頭の女の子の番になった。
「アマテ・サン・ライテスト、14歳、得意な魔法は光属性です。よろしくお願いしましゅ!……ぅぅ」
おかっぱ女子はアマテさんと言うらしい。
他の貴族様が長ったらしい自己紹介をする中、簡潔にそう言い終わると、現在、宇宙大戦争が勃発している俺の学習机の上に視線を戻した。
耳が赤くなってしまっているが噛んだ事は気にしないであげよう。
ちなみにアマテさんの位置からしか見られないようになっているので先生に怒られるような事にはならない。
クラス全員の無駄に長い自己紹介がやっと終わり、授業が始まるのかと思いきや昼食タイムに。
全校生徒は学食で食べるそうなので、アマテさんに誘われて一緒に食べることにした。
食堂は映画ハリポンで見た魔法学校のそれだった。
空の食器類が長テーブルに置かれていて学園長のいただきます発言で空だった食器に高級レストランに出てくるような料理が突然湧いて出てきた。
俺達Aクラスは学園長寄りの席で村八分にされた俺は端へ端へと追いやられ、先生方の目に付きやすい席へと座らせられた。
一部先生方の視線が痛いな。
「ねぇねぇ、他にも面白い魔法があったら見せてよ!」
無邪気な笑顔でそう話しかけて来たアマテさんは俺の心のオアシスとなった。
昼食を食べながら色々な魔法をアマテさんに見せていたらいつの間にか学園長が向かいの席に座っており、まるで少年のようなニコニコ顔で楽しそうに俺のヘンテコ魔法を見守っていた。
何か話しかけようかとも思ったが楽しそうに見ているので、そのまま見せてあげる事にした。
魔力で作ったチビチビ動物サーカス団の演目が終わった頃に昼食時間が終わったので午後の授業へ。
「じゃあ教科書を開いて。まずは魔法の基礎から勉強していきましょう」
正直言って眠たい授業内容だった。
これなら3歳の時に見たスライムでも分かる魔法の本の方がよっぽど面白い。
「先生! 実技の練習がしたいです!」
一人の生徒がそう言うと、俺も、私も、と便乗して、今のまま授業をするのならボイコットするとまで発言されて仕方無くといった感じで実技訓練室へ移動となった。
先生も気の毒だが、この優秀な生徒が集まるクラスにマニュアル教育は向いてないと思う。
実技は試験の時にやった的当てゲームだった。対人戦は二年生かららしい。多分それまでに我慢出来ずに自分達で勝手に始めるだろうね。
みんなバンバン的に向かって攻撃魔法を撃っているが威力弱過ぎない? こんなもんなの?
自分の番が回って来たのでペイント魔法でウンコのラクガキを的に書いた。
一部の生徒にバカ受けしたので良いだろう。
先生には呆れられたが気にしない。
「おい、貴様、神聖な学舎であのような下品な事をするのは控えたまえ」
「あ、はい、すんません」
凛々しい貴族のお坊ちゃんに怒られてしまった。反省反省。
それからなのか一部の勘違いしたクラスメイトがイジメのようなものを俺にし始めた。
教科書にウンコのラクガキ、机にウンコのラクガキ、イスにウンコのラクガキ、とにかくウンコのラクガキである。
それしか知らんのか?
流石は箱入り貴族様というか、教育だけは良いのでイジメ方すらご存知無いようだ。
靴に針を入れたり、教科書を燃やしたり、机を外に放り出したり、そういう陰湿なイジメじゃないのは有り難いがね。魔法ですぐに消せるし。
そもそもイジメという認識すら持ってない可能性もある。
それだけウンコのラクガキが衝撃的だったのだろう。
そんな事がしばらく続いたある日。
「貴様、この様な侮辱を受けて悔しくないのか?」
「いや、別に、可愛いイタズラだとは思いますけどね」
「これだから平民は……もっとプライドというものを持ちたまえよ!」
なんだか今日のお坊ちゃんはいつにも増して熱く語って来るな……。
「お坊ちゃん、何か嫌な事でもありましたかい?」
「僕をお坊ちゃんなんて呼ぶな! 僕の名はリンド・テール・マクマシステイだ!」
マクマシなんて? とりあえずリンド君と呼ぼう。
「それでリンド君は何に憤っているんだい?」
「僕は貴様のその態度が気に入らないんだ! 犯人はもう、とっくに分かっているだろうに何故決闘を申し込まない! 何故反撃しない! 答えろ!」
バンッ! と思い切り机を叩いて威嚇してくるリンド君。
せっかくのイケメンが怖い顔で台無しだぞ。
「いや、めんどくさいじゃないですか」
「がーっ! 君という奴は! もういい! 僕が決闘する!」
「いやいやいや、俺の事を思ってくれるのは大変嬉しい事なのだが俺が心底どうでもいいと思っている事に対してリンド君が暴走するのはいただけないな。落ち着いてリラ~ックスしようよ、ね?」
ムキーッと頭を搔きむしり出したので本当にこういう不正を働く人間の事が心底嫌いなんだろうなという事が分かった。
とりあえず気持ちを落ち着かせよう。
「リラックス」
「む、すまない。取り乱してしまった。とにかく君はもっとプライドを持ちたまえ。以上だ」
リンド君は俺のオリジナル癒やし魔法、リラックスで心を落ち着かせ自分の席へと戻っていった。
それからかウンコのラクガキはパタリと止まった。
ちなみにウンコのラクガキの犯人は……まぁ、言わなくてもいいか。
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