第6話 野外授業、いえ自習です。

 今日は野外での実地訓練の授業だ。


「はーい、みんなちゃんと集まっているわね? ジュース君もちゃんと居るわね。良し。今日は三人一組のパーティーを組んで指定された数のモンスター討伐とアイテム採取をこのファル森林でして来てもらいます」


 あちゃー……。

 学校の定番トラウマの一つ「はい、二人組作ってー」の更に上位版の三人組なんて、クラスメイト達にハブられてる俺には難易度高すぎるぜ。

 仕方ない、今日もサボるか。


「ジュース君、一緒にやろう……?」

「仕方ないな、このリンド・テール・マクマシステイが君のために一肌脱いであげようではないか」


 右腕の袖を心のオアシスであるアマテさんに、左肩を何かと世話を焼きたがる爽やかイケメンのリンド君にそれぞれ掴まれてしまった。


 今日もニーナとイチャラブしようと考えていたけど、せっかく誘って貰えたし、今日はちゃんと授業受けるかな。


「じゃあ、よろしく頼むよ、二人とも」

「うん! こちらこそよろしくね!」

「僕の全力でもって君たちをサポートすると、ここに誓おう!」



 それぞれのパーティーに討伐すべきモンスターと、採取すべきアイテムが書かれたメモを渡され、うちのパーティーはカチコチネズミ10匹の討伐とドロドロタケ10本の採取と書かれたメモを渡された。


「ホーミング魔網」


 索敵マップに表示された獲物に向かって自動採取してくれる俺のオリジナル魔法、ホーミング魔網を放ち、数秒もしない内に獲物を捕まえて来た網が俺の目の前に戻って来たので、採取し終わってしまった。

 ネズミは討伐だけど、ま、細かい事は気にしない、気にしない。


「先生、終わりました」

「あ、え、っと……お疲れ様でした?」


 この場に居た全員がポカーンと口を開いて間抜け面を晒していた。

 アマテさんとリンド君は直ぐに我に返り、抗議し始めたので無視して話を進める。


「課題は終わったので、自習という形で森に入っても大丈夫ですかね? 二人とも納得していないようなので」

「え、ええ、それは構わないけど、やっぱりジュース君は規格外過ぎるわね……先生が教えられる事なんてあるのかしら?」

「うーん、人生経験とか?」

「ジュース君がそれを言いますか……私なんてまだ一度も……」


 最後の方はボソボソと誰にも聞こえない音量になってしまったが俺には聞こえてましたよ。

「私なんてまだ一度も男の人と付き合った事が無いのに」

 ビスト先生、と言うか学園は俺が結婚しているって事を知っているのでそういう発言になってしまったのかもしれないが、男女関係だけが人生経験って訳でも無いと思うんだけど。

 ま、先生が何の教えを説こうとも、俺は俺のまま好き勝手やらせてもらいますけどね。


「つー事で、森林探索にレッツゴー!」

「お、おー!」

「待て! まだ僕の話が終わって、こらっ! 無視して先に行くんじゃない! 待ちたまえ! おい! 無視するな!」



 このファル森林、濃い緑の爽やかな香りとキラキラと木々の間から漏れる木漏れ日が美しく、散策するにはもってこいの場所だ。


「ま、すぐに飽きたが」


 道は整備されてない自然のままだし、虫が目の前に飛び出して来たりして鬱陶しいし、とにかく歩くのがめんどくさいのだ。

 こんな環境でまともに課題を進めていたらと思うと、気が滅入る。

 さっさと片付けてしまって正解だったな。


「何の話だ?」

「ただの独り言、課題は終わらせちゃったし、二人は何か必要なアイテムとかモンスターっている?」

「そうだな……いや、特に無いな。魔法の特訓さえ出来れば僕はそれでいい」

「うーん、私も特には無いかなぁ。親に頼めば何でも揃えてくれるし」


 二人とも貴族だからなのか物欲というものがあまり無さそうだな。

 でも困ったな。このまま、ただブラブラと森の中を散歩しててもつまらないし、何か面白い事でも……?


「そうだ。鬼ごっこでもしようか」

「鬼ごっこ?」

「あれ、知らない?」

「東方の伝統的な遊びだな。僕もルールまでは把握していないが」


 東方、こっちの世界にも日本みたいな場所があるのかな?

 今度行ってみるか。


「ルールは簡単。鬼に捕まらないように逃げるだけ。最初の鬼はジャンケンで一人決めて10秒待つ。その間に鬼以外は出来るだけ遠くに逃げる。制限時間内に捕まえられなかったら鬼の負け。捕まえられたら鬼の勝ち。簡単でしょ?」

「ジャンケン?」

「それも知らない?」

「東方の手遊びだな。石とハサミと紙をそれぞれ手で表して戦う決闘方と聞いたが」

「決闘するほど物騒なものでは無いがそれで合ってる。グーは拳、チョキはピースサイン……これも知らない? こう、人差し指と中指を立てるだけ。でパーは手を広げる。グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ、三すくみ」

「えっと、グーはチョキ、チョキはパー、パーはグーね。良し覚えたよ」

「今回は俺が鬼になるからジャンケンはしないけどね」

「え……」


 ジャンケンをしないと言った途端、アマテさんがすごく悲しそうな顔になってしまった。

 そんなにやりたかったのか……。


「分かった。ジャンケンもしよう。ただ俺が鬼になるのは変わらないけど」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべちゃって、なんて可愛いんでしょ! もうっ!


「じゃ、行くよ。ジャンケン、ポン!」

「「ポン?」」


 俺はパー、アマテさんがチョキ、リンド君がグーで相子だ。


「この場合は誰が勝ったの?」

「相子と言って引き分けになる。そして引き分けた時の掛け声は「相子で、しょ!」


 俺がパーを先出しすると、慌てて二人がグーを出した。俺の勝ちだ。


「これってジュース君の勝ち?」

「うん。俺が勝ったので負けた人は何でも一つ言う事を聞く事」

「おい、そんな話は聞いていないぞ?」

「冗談だが、そういう賭け事にも使える遊びだ」

「じゃ、じゃあ、今度は本気勝負で!」

「アマテ君! 賭け事は校則違反だ!」

「はう……」

「まぁまぁ、それよりも鬼ごっこしようぜ? こっちは遊びではなくガチで殺りに行くから覚悟しておけ」

「何か今、物騒な言葉が聞こえた気がしたが?」

「訓練がしたかったんだろ? 俺は全力でお前らを捕まえに行くから、お前らも全力で抗えよ?」


 殺気を魔法で作り出してちょっとだけ漏らす。

 殺気なんて俺にはカケラ程も無いのでね。


「制限時間は授業が終わるまで。俺が10秒数える内に全力で逃げろよ? 10、9、8、7……」


 先程までほのぼの雰囲気だったのが嘘のように、信じられないような目で俺を見て、俺のカウントダウンを合図に二人は同時に身体強化系の魔法を使って全力で森の中を駆けて行った。

 ちょっと震えていた気がするので殺気を漏らし過ぎたかもしれないな。


「6、5、4、3、2、1、0、0、0、ゼー、ロー」


 うしっ、いっちょやってみっか。

 まずはアマテさんから捕まえるかなっと。


 俺は索敵マップを開き、二人の居場所を把握して、アマテさんとリンド君の点表示にピンを指して分かりやすくしておく。


「結構遠くまで行けるもんだな。だが俺からは逃げられない」


 身体強化魔法、10倍アクセルブーストで走るスピードを上げてアマテさんを追う。


「はぁ、はぁ、はぁ、んっ、なんで……ジュース君……」


 息を切らしながらも走るスピードを緩めない辺り、アマテさんは中々の強者、になれる可能性を秘めていそうだ。


「呼んだ?」

「ぴっ!?」


 背後から突然声を掛けたからか、アマテさんの体がビクンッ! と飛び跳ねて、小動物みたいな可愛い声を上げて驚いた。超可愛い。


「ほらほら、ちゃんと前を見て走らないと危ないよ? ちなみにこの鬼ごっこに限って魔法での妨害もありだから、何か有効そうな魔法があれば使ってみるのも手かも?」

「フラッシュライト!」

「うぉっ!? まぶしっ!?」


 強烈な光で目潰しか、だが俺には効かないぜ!


「キュアヒール。ふぅ、眩しかった、ってあれ? どこ行った?」


 一瞬の隙を突いてアマテさんが雲隠れしてしまったみたいだ。

 まぁ、索敵マップで居場所はバレバレなんだがな!


 背後の茂みに隠れているアマテさんに気付かれないように隠密魔法を使い、気配と足音を消し、近付いて行く。


「ぅ……ぅ……」


 息を押し殺して、物音を立てないように縮み込んでいる姿を見て、少し嗜虐心を煽られる。可愛い。


 肩を叩いてそのまま人差し指を立てる。定番のイタズラを仕掛けてみるか。


「むえっ!?」


 ほっぺがぷにっとなってめちゃ可愛い!

 にしてもここまで完璧に引っかかってくれるとすごく清々しいわ。


「ひーひっひっひ、つーかーまーえーたー」

「あ、あぁ、あああああああっ!?」


 あまりの驚きようにこっちがビックリしちゃったよ!

 そんなに怖かったかな?


「落ち着いてアマテさん。もう終わったよ」

「え、う? 終わり?」

「アマテさんの負けでね。次はリンド君を捕まえるから先に広場に戻るか、それとも一緒に行く?」

「え、っと。あはは、腰抜けちゃったよ。ジュース君、迫真過ぎるんだもん。あー、怖かったー!」


 殺気魔法はしばらく封印しておくか。

 腰が抜けたという事でリラックス魔法を掛けてあげると直ぐに立ち上がれるようになったが、魔法を使って全力で走ったという事もあり、広場に戻ると言うので転移で連れて行ってあげた。



「さて、次はリンド君の番だ」


 リンド君の背後に転移で移動して驚かすのもいいかと思ったが、それほど離れた場所に居る訳でも無いのでアクセルブーストで走って行ってみる。


「む、これは……」


 索敵魔法に反応があったので辺りを見回すと、対人用のトラップ魔法が至る所に設置されていた。

 鑑定魔法で調べてみると捕縛、目潰し、気絶、麻痺などなど、人を無力化するトラップだらけだ。

 この短時間にこれ程トラップを設置するとは、リンド君も中々やるな!


「一々避けて通るのもめんどうだな。押し通る!」


 そのまま真っ直ぐ進むと最初のトラップ、フラッシュライトが発動して視覚を奪われた。

 回復魔法で視力を戻し、更に進むとビリビリッと電気ショックが発動、体がシビビレレレ、魔法の詠唱が上手く出来ないので仕方無く無詠唱で回復。

 次のトラップはロックフォール、岩石が頭上に出現して脳天を直撃した。痛い。

 ヒールで回復して、先に進む。


 その後も縄で縛られたり、落とし穴に落とされたり、大量の水が降ってきたりと、多種多様なトラップを味合わされた。

 リンド君はガチで勝ちに来ているようだな。


 漢解除で全てのトラップを潰したのでリンド君の居る茂みへと歩みを進める。


「はい、捕まえた」


 どうやらリンド君は大量のトラップに加えて身体強化魔法の使い過ぎで魔力切れを起こし、動けなくなっているようだ。


「くっ、あれほど仕掛けたトラップを全て潰されてしまうとは……焦って魔力切れを起こす程消耗するなんて、僕もまだまだだな……」


 リンド君の肩を支えて広場に転移すると丁度授業終了のベルが鳴り響き、今日の実地訓練の授業は終了した。


「あ! リンド君大丈夫?」


 俺たちを見つけて駆け寄ってきたアマテさん。トラップ解除の疲れが癒やされるようだ。


「少し魔力切れをね、アマテ君も捕まってしまったのか?」

「あはは……。ジュース君強すぎるもん」

「そうか……。ジュース君、次の機会があれば、また鬼ごっこをしてくれるかい?」

「おう。鬼ごっこでもかくれんぼでも誘ってくれれば何でもするぜ」


 学園に戻る際に、かくれんぼなど、俺が知っている遊びをアマテさんとリンド君にあれこれ教えた後日、校庭で遊んでいると、何人かのクラスメイトが仲間に加わりたいと申し出て来てくれて、俺のクラスでの村八分も終わりを告げた。


 ちなみに魔力で作ったボールで遊ぶ魔力ドッジボールが学園の授業に無断で取り入れられていたので、俺が使用料を請求しても誰にも怒られないと思うんだけど、どうだろうか?

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