第5話
翌日もバトラ山での討伐依頼をこなしGランクからFランクへとランクアップしていた。
レベルも確認すると1から4まで上がっていた。おそらく転移初日で1上がっていたのだろうが確認して無かった。
Fから次のE、EからDランクも同じく20カウントでランクアップだ。
要はDランクまでの60カウントがルーキー期間になる。
ギルドとしてはこの間を乗り越えられると一人前の認定になるのだが、命を落とすのもまたDランク手前が多い。変に慣れてきて緊張感が減ってしまう為だ。
もちろん元日本人のハジメは慎重型なので一気にランクアップは考えていない。
ハジメの目標として1〜2か月でDランクまで到達出来ればと考えている。
討伐依頼は3日やって1日を休息日、だいたい週休2日を予定している。働き過ぎだった元の世界を思えばホワイト生活である。
朝からバトラ山に来て太陽が真上にあるのでお昼くらいだろうか。少し休憩を挟んで続きと行きたかったが生憎天候が一気に悪化して切り上げることになった。
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マントとパーカーのフードでなんとか街まで戻ってこれた。
(あんなに晴れてたのに。というかさすがに雨も降るんだな…。)
そんな事を考えながらギルドに戻ると同じように雨で依頼を切り上げた冒険者達で溢れており奥のテーブルでは併設の酒場ではあちらこちらでパーティー内で話し合ってるようだ。
「いやーまいったな。」「あぁ、この雨じゃ2〜3日続きそうだな。」
(え?雨長引きそうなの?テレビの天気予報なんてないし困ったなぁ)
「どうするよ?しばらくダンジョンに切り替えるか?」「しかたねぇか。食糧買い出しして籠るか。」
(ダンジョン?この世界にはダンジョンもあるのか?ちょいと情報収集してみるか。)
隣のテーブルでダンジョンの話をしていたエールを大ジョッキで煽ってるヒゲもじゃの男に、大ジョッキを2つ差し出して話しかける。
「お疲れ様です。いやー急な雨でしたね。ちょっとダンジョンについて教えてもらってもいいですか?」
「おぉ、最近見かける新人だな。なんだ飲んで良いのか?」
タダ酒にありつけるとあって男はご機嫌だ。
「はい、どうぞどうぞ。少し前に登録したEランクのハジメです。」
「ありがとよ。俺はDランクのザンジだ。こっちが相棒のドラだ。ダンジョンの何が聞きたいんだ?」
「ええっとですね…。」
--10分後--
「ありがとうございました。また何か分からない時は教えて下さい。」
ザンジの話では、シスナの近くにE〜Cランク向けのダンジョンがあるようだ。
ダンジョンの最深部にボスがいて宝箱を守っていてボスを倒すと手に入るみたいだ。
ボスは倒しても一定時間で復活するようでボス狩りでランク上げをする荒技もあるらしい。
Eランクはだいたい20階層、Dランクで50階層Cは最深部100階くらい迄が目安のようだ。
(せっかくだからダンジョンに向かってみるのもいいかもしれないな。)
午前中に狩った素材を売却して今夜も早めに宿に向かうハジメだった。
宿に向かう途中でふと何かに気になってハジメは足を止めた。そこにあるのは白い石造りの建物。
「教会か…。」
ハジメは前の世界では特定の宗教だったわけではないが全く信心深くないわけでもなかった。
学生の古代史の勉強の中で興味を持って歴史と宗教の関係性などは一通りは学んでいた。
(たしか、この世界は何種類か宗教があったな。シスナには1つしか教会がないが。)
シスナの教会はアレフガルドで1番多い多神教のライラ教だ。
たしか【女神】を筆頭に10の神がいてそれぞれの仕事に神がいるってヤツだ。教会に浄財として多額のお布施を強要するブラックな教義はない、ホワイトな教えだ。
(まぁ、こっちに来てから一回くらいはお祈りしてやってもいいか。)軽い気持ちで教会の扉を開けた。
中は30畳くらいの広さだろうか。長椅子が真ん中の通路から二手に分かれて並び奥には一段高くなった祭壇に女神の石像があった。
磔にされた某聖者の宗教のような作りだ。
修道士の方だろうか、奥から1人歩いてきた。
若いシスターだった。
「ようこそ、ライラ教シスナ支部へ」
「あぁ。特に信者って訳じゃないんだがお祈りをしても良いだろうか?」
若いシスターは優しい声で
「もちろんですよ。さぁ、こちらへ」
「ではお言葉に甘えて。」
ハジメは奥の祭壇へと向かい、シスターの真似をして両手を組み目を閉じて祈りを捧げた。
すぅっと辺りが白く霧に包まれるような感覚に陥る。
『やぁ、久しぶり。サカモトハジメさん。』
(その声はあの時の神さまか?)
『ピンポン♫あの時は時間がなく自己紹介が出来ませんでした。ライラです。』
(なるほどそれでライラ教か。あなたが女神様か。実在というのは語弊があるが…。)
『まぁまぁ細かいことは気にしなくても。無意識とは言え会いに来てくれて嬉しいですよ。元気にやってるようですね。』
(あぁ。色々と持たせてくれたおかげで今の所は不自由してない。強いて言えば軽いホームシックかな。)
『貴方なら、じきに慣れますよ。あ、そうそう。この後でダンジョンに向かう予定ですね?』
(さすがにお見通しってワケか。まぁ、行こうかな?と思ってはいた。行ってはいけないのか?)
『いやいや、大丈夫ですよ。ダンジョンで貴方にちょっとしたイベントを用意しておきましょう。悪さをせずに元気にやってるようだし。楽しみにしててください。あ、もう時間のようですね。では。」
霧が晴れて祭壇の前に立っていた。
(なるほど、神とは言え時間制限が有るって事か。イベントね。とりあえず悪い事はしてないしあの話しぶりなら何かプラスになることだろう。)
「ずいぶんと熱心にお祈りされていましたね。何かお困り事でしたか?」
「あ、いえいえ。まだこの街に来たばかりだったのでつい長くお祈りをしてしまったようだ。ところでここでは寄付は出来るのですか?」
シスターは少し俯いて
「裏の孤児院も一緒に運営してるので、お気持ちは大変嬉しいです。最近は寄付される方も減ってきていますので…。」
「そうでしたか…。では少しではありますが、コレを。」
そう言って財布代わりの小袋から1000Gを差し出す
「困ります!こんなにたくさん!」
「たまたま小金を持っていたので、子供達の衣食に使ってやって下さい。では、また来るかもしれませんがこれで。」
入り口に向かって歩きだすハジメの背中で
「せめて貴方の御名前を!」
「ハジメです。」
「ハジメ様ですね。では大切に使わせていただきます。本当にありがとうございます。」
シスターはハジメが出て行くまで深くお辞儀をしていた。
(ふぅ、なんかイイコトすると気持ちが良いものだな。あのシスターも特に贅沢をしてる感じでもなかったし今度は食べる物を持って行ってあげようか。)
そんな事を考えながら、雨降りの中を宿へと小走りで向かった。
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