#7 【横行する密猟。竜素材ビジネスの裏に黒幕が?】(2019年15号)[2/2]

 コンゴ共和国の国境でも、違法な竜素材の海外流出が後を絶たないという。

 警備犬を連れた青年・モルドも、イギリスから渡り、不審者の取り締まりを行っている一人だ。


「さあジャスティン、調べろ! ……お、そのスーツケースが怪しいのか?」


 荷物の持ち主は、某大国の男性だ。


 スーツケースを開け、調べてみる。

 すると――。


「よし、これだな! よくやったジャスティン!」


 インスタントコーヒーの缶から、厳重に包まれた、違法なドラゴンの牙製のネックレスや指輪が出てきた。


「違法な竜素材ですね。没収します!」


 アーサーは証拠写真として、没収品を持つアーサーと某大国人男性の一枚画を写真に収めると、男の身柄を警察に引き渡した。


 だが、何故か、お咎めは一切なし。

 誰かが裏で手を回したのか。この某大国人男性は2時間もしないうちに釈放された。


 異能系動物保護プロジェクト創始者シャルロット・オディプナは憤慨して言った。

「私が知っている某大国人犯罪者の中には、48時間で3回も釈放された者までいるんです」


 野生異能系動物保護団体創設者オフドール・フィロリはこう語ってくれた。

「実は、某大国の権力者たちが影で暗躍してるんです。彼らは豊富な資金力を使い、密猟者を裁く立場にある役人たちを買収しているんですよ」


 現在、非異能界――〝N〟では某大国系企業のアフリカ進出が進み、その投資額は、実に10兆円を超えるという。

 彼らは、アフリカ大陸を鉱山、食品会社、農場や製材所など、あらゆる事業を買収している。

 また異能界でも異能系鉱物や異能系植物など資源関係の事業の大部分を牛耳られつつある。


 そして、アフリカに入り込んだ多くの某大国人が、密猟者を通し、竜素材やそれを加工した製品を買い漁っているのだ。


 その点についてシャルット・オディプナは嘆いた。

「警察といえど政府の人間ですら、大金を落とす某大国には、逆らう事が出来ません」


 オフドール・フィロリはこう分析する。

「某大国人は金に物を言わせ、高価な竜素材を手に入れようとします。彼らにとって竜素材の品々は、自らの成功の証となるある種のステイタスなんです」


        〇


 1989年の〝N〟のワシントン条約に置いて多くの生物が輸出入を禁じた。

 それに倣ったのだろう、異能界でも1991年からの異能系生物の輸出入を世界中で禁じられた。

 ――アフリカ・リザードドラゴンもその1種だ。


 だが今も尚、密輸が後を絶たず、その多くは某大国人が関与していると言われているのだ。


 2013年。国際異能刑事警察機構が、タンザニアの港で竜素材の大量密輸を摘発した。

 だが実は、世界中の港からも、違法な竜素材が見つかっており、2013年に押収された量は、なんと800トン。

 ――推定ドラゴン1200頭分にも及ぶものだった。


 アフリカから密輸される違法な竜素材は、様々な港を経由しながら、最終的にはその90%が某大国へ送られているという。

 某大国の密輸業者は、各港の役人まで買収していると言われているのだ。


 しかも、アジア各地でも彼らは、違法な取引で、竜素材を売りさばいているという。


  野生異能系動物保護活動家・カルロス・アーマインは我々にこう教えてくれた。

「私がベトナム郊外の数店舗に潜入してみると、そこではアフリカ・リザードドラゴンの竜素材製品が、大量に売られていました。調べてみると、それらの店の買い付け業者は全て某大国人だったんです」


 実は某大国でも、アフリカ・リザードドラゴン、及びその素材の取引は厳しく規制されていて、売買を行うには、政府から許可を得なければならない。

 だが――。

 路地裏に潜入してみる、許可もないのにアフリカ・リザードの竜素材製品を販売する店が簡単に見付かる。


 野生異能動物保護活動家スタン・ガルシアは肩を落とした。

「こうした店は、まずい事があると、アフリカ・リザードの竜素材なのに、古代種など絶滅したドラゴンの牙だと嘘をつくんです。竜・龍などに関しては生態など未だ解明していない事も多いですし、DNAが似ている種類の名前を持ち出されれば、きちんとDNA鑑定しても突然変異した個体だった言われたら否定しきれません。こうやって法の目をかいくぐっているんですよ」


        〇


 ただ、某大国が暗躍しているという竜素材取引の現状に、世界中が黙っているはずもなかった。

 世界各国・各地・各団体から批判が続出。

 そこで某大国異能界政府が行ったのが――。

 各国の外交官やジャーナリストなどを集め、アフリカ・リザードドラゴンの竜素材、及び竜素材製品を破棄するイベントだった。


 また、地下鉄の構内に、違法な竜素材製品を買わないよう求める、ポスターも展示。

 だが――。


 異能界地区環境調査局局長マリー・ブレッドはこの対応に呆れていた。

「このポスターなんですが、何故か、象牙が売られている店には貼られていなかったんです」


 さらに、〝N〟のネット上では、異能界の人間ならば一目でそれと判る暗号や隠喩を用いり、売買される違法な取引に対しては、見て見ぬふりだそうだ。

 某大国異能界政府は、本腰を入れて取り締まる気がないのか。


        〇


 そんななか、アフリカの小国ボガン共和国の異能界代表キリー・オフアーティから、某大国異能界政府に向け、切実な想いが語られた。

「彼らは、私たちアフリカ人が某大国に行って火の玉種の龍を殺したら、きっと激怒するでしょう。私たちの竜・ドラゴンに対する感情は、彼らが竜に抱く感情と同じという事です」


 果たして、アフリカ・リザードドラゴンの密猟がなくなる日は来るのだろうか。


        〇


 しかし、それから数年。


 実は某大国は、2018年12月31日をもって、竜素材市場をついに封鎖。

 さらに、今年(2019年)からは某大国国内での竜素材販売が原則として禁止になった。


 だが残念なことに、某大国民のほとんどが、その事実を知らないのだそうだ。

 果たして、いい成果が見られるかは、これからの動きに注目である。

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