過ぎて困ること

神林あぢへい

過ぎて困ること

 「母さん。この前言ってた、彼女を家に連れてくるの、・・・なくなった」

 仕事が終わって帰って来た。

 深夜11時にもかかわらず、俺は食卓に着いて飯を食う。

 向かいで温め直した煮物を二人分持った母親が、

 「そ。」

 言って煮物を置き、冷蔵庫から缶ビールを出しグラスを手に向かいに座った。

 ぷしっと缶を開けた。

 母はグラスに、よく冷えたビールを注ぎ。

 「ん~・・・、おいしい!」

 飲んだ。残りのビールを入れながら、彼女は言った。

 「アンタはバカなのよ」

 俺は立ち上がり、冷凍庫からよく冷えたご飯を出してレンジにかけ、それをご飯茶碗に入れて食卓に戻ってくると、言った。

 「確かに。いま、おかわり! って言っても無駄だろうな」

 「あんたの前の女は嫌いだったわ。」

 ビールを飲み

 「離別れてよかったじゃない」

 ぷはー! と息を吐き、げっぷをした。俺は、黙黙と飯を食った。

 失恋したことは、何度もある。

 母にも何度も何人か逢わせた。

 今日、俺に離別れを告げた彼女は、ほんとうにいい女だった。

 だが、まだ母には逢わせていなかった。


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 彼が好き。

 彼と話をするだけで、ドキドキする。

 いつもそう。

 手を繋いで街を歩いた時は恥ずかしかった。

 どうしてだろう。

 恋なんて何回もしたことあるのに、彼といるだけでダメになりそうになる。

 歳上の友人に相談した。

 『離別れたら? 合ってないんじゃない?』

 なんでそう思うの? と訊いたら彼女は

 『なんとなくよ。』

 そう言って、チョコを食べて私にもくれた。

 チョコは美味しかった。

 彼に逢った。

 『すき過ぎて困るから、離別れたい』と言ったら、彼は面白い顔をした。


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 俺が居間でソファに転がりボンヤリTVを視ていたら、風呂上りの母親がパジャマ姿で通り掛り、

 「ね、あんた。納得したの?」

 言った。

 「は?」

 俺は振り返って彼女を視た。

 「ばかねェ!」

 頭を拭きながら

 「好き過ぎて嫌いなんて、ありえない事じゃない!」

 言った。

 俺は、ポコンと何かがどこかにハマったような気がした。

 「それだ!」

 言うと立ち上がり、とう! と座っていたソファの背を飛び越え、彼女に連絡を取るためケータイが置いてある自分の部屋に駆け込んだ。

 「ホントにバカねェ!」

 母は笑い、冷蔵庫に向かった。



【20120917/20190305】

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過ぎて困ること 神林あぢへい @azihey

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