二度目の勧誘
自分を呼ぶ声に動きを止めた。昨日今日で何度も聞いた声だ。
案の定、そこにはアラウを筆頭に、『心友の絆』のフルメンバーがいた。
「2,3時間ぶりかな。今日もバトりに来たのか?」
「っていうか、ウォーミングアップだね。一日サボると身体が鈍っちゃうから。ジークは、デート?」
「「違う」」
「おぉう、息ピッタリ」
「必死になって否定するトコが怪しくね?」
「ハンゾー、それ以上は無粋だよ」
「お、大人の関係ですね!」
「違うって言ってるよな!?」
手すら繋いでいないというのに。特にリーフは勘繰り過ぎだ。
そんなやり取りを見ながら、ルナは彼等が昨日先陣を切ったメンバーだと気づいた。
「この人達って、昨日の……」
「知らないふりしてろ。バレるとややこしくなる」
昨日はフードを被っていたので、クレイヴ達はまだルナの正体に気づいていないようだ。
ルナとしてはお礼を言いたいところだろうが、あの騒動の発端となった人物が今日はデート(仮)なんておかし過ぎる。余計な追及を避ける為に、今回は黙っていてもらおう。
が、『そんなの関係ねー』なのがアラウ・クオリティ。初対面のルナに速攻で話し掛けてきた。
「初めまして。私はアラウディ。気軽にアラウって呼んでね!」
「えっと……初めまして、アラウ。私はルナ、こちらこそよろしく」
「ほら、聞いたジーク? これが正しい反応だよ」
「いいだろ別に。アバターとはいえ、女子をアダ名で呼ぶのは慣れないんだよ」
名前で呼ぶなど以ての外。苗字で呼ぶのが限界だ。
そんな心情などいざ知らず、顔を寄せるハンゾーはこれでもかというほどニヤニヤしている。
「何だよジーク、隅に置けねぇな。どうやってゲットしたんだ、あんな可愛い子ちゃん」
「ただの知り合いだよ。前にクエストで、ちょっと協力しただけ」
「ほほ~う。手取り足取り、あ~んな事やこ~んな事を教えたワケ?」
「……クレイヴ、そちらのメンバーの一人に腹パンしていいかな?」
「ハハハ、ダメ」
残念。心の中でめちゃくちゃ舌打ちするジークだった。
「いや~、しかし運命を感じちゃうよね。こうも会いたいと思ってる人と会えると」
「偶然だ」
「これはもう、ウチに入れっていう天のお告げとしか思えないよね!」
「思わない」
「そうだ。竜退治に行こう!」
「もう何の脈絡もないよな!?」
コイツはコイツでしつこい。ガソリンか何かで動いているような気さえしてくる。
「……すっごい頑固なんですね、ジーク君って」
「……アラウ相手にあそこまで粘る人なんて初めて見たよ」
「……私からしたら、あそこまで断られて食らいつける方が驚きよ」
何気に仲良くなったのか、ひそひそ声で感心する3人。こんなので感心されても困るのだが……。
「まぁまぁ2人共。ここはいっそ、2人の意見をどっちも叶えるっていうのはどうかな?」
と、そこでようやく一向に進展しない2人に、クレイヴからの助け舟が入った。
「どっちも叶える?」
「あぁ。昨日の決闘は、アラウはジークをウチに入れたくて、ジークはそれを断りたくてやったものだったろ?だけど乱入者のせいで中断してしまった。これはある意味、引き分けとも考えられないかな?」
「引き分け……つまりお互いに、お互いの意見を聞き入れる権利があるって事か」
若干こじつけ臭いが、確かにどっちも負けたとも言えなくはない。クレイヴの言葉も一理あるだろう。
「そうなるね。この場合、ジークには俺達が今回の試練をクリアするまで一緒に行動してもらって、それ以降はしつこい勧誘はしないって事で妥協してほしいんだけど、どうかな?」
結局一回は付き合わないとダメか。でも、もう二度と関わらないというなら、願ったり叶ったりだ。口約束なのは不安だが、文句はない。
「……責任持って引き留めるのを約束するなら」
「決まりだね」
「いや、決まりじゃないよ!?」
笑顔で纏まりかけたが、そこでアラウが待ったを掛ける。まぁ、あれだけ食らいついていたのに、それをあっさり諦める約束をされたら当然だろう。
「これで最後、自分から入ってくれるなら万々歳だけど、100%断る気満々なのにそんな条件……!」
「アラウ、ちょっとこっちにおいで」
が、クレイヴもそれは織り込み済み。ちょいちょいと手招きをして隅の方へ。
ひそひそ話すこと1分少々。やがて戻ってきたアラウは満面の笑みを浮かべて、
「オーケー! これで綺麗さっぱり諦めるよ!」
「何この見事なまでの掌返し。不安しかないぞ」
絶対裏がありそうだが、これといった穴は思いつかない。大どんでん返しの危機を感じつつも、ジークはこの条件を呑んだ。
「分かった。今回だけ、本当に今回だけ! 第2の試練クリアまで手伝わせてもらう」
「やったー! アイム・ウィナー!」
「何の勝者よ」
「ジーク君もアラウの強情っぷりには勝てませんでしたか」
「いやー、今のはクレイヴの説得あってこそだろ」
周りが何か言っているが、こちらは一刻も早くこのコバンザメから離れたいんだ。その為ならプライドなんていくらでも捨ててやる!
「じゃあ、試練に挑戦する時は呼んでくれ。直ぐに来れるようにす――」
「よし、早速行こう!」
『……え?』
その提案に、ジークだけでなく全員が固まった。
「え、今から?」
「うん。善は急げって言うでしょ? 折角メンバー全員揃ってるんだから、これを逃すのは勿体ないじゃん!」
「石橋は叩いて渡った方がいいと思うけどな」
「鉄は熱い内に打てとも言うよ?」
あ、これアカン奴だ。
助けを求めて、クレイヴ達にアイコンタクトを送るが、
(説得は?)
(ム・リ!)
ダメでした。
「まぁ、これでクリアすれば解放される訳だし、嫌がってる君に申し訳ないと思って、アラウなりに気を遣ってるんじゃないかな?」
「そういう気遣いが出来るなら、最初から諦めてほしいよ」
何にせよ、長い付き合いの彼等でこれだ。諦めるしかない。
「そういう訳らしいから、ルナ。悪いけど先に戻って……」
「私も行くわ」
意外なルナの言葉に、きょとんとするジーク。
全く関係ないので先に帰らせようと思っていたのに、どうしたのだろうか。
「別に付き合わなくていいんだぞ? これは俺の問題なんだから。第一、レリック・ハントの事だって知らないだろ?」
「えぇ、知らないわ。けど、私も行った方がいい……そんな気がするの」
自分でもよく分からないんだけどね、と神妙な顔で続けるルナに、ジークは『ふむ……』と考え込む。
(勘なんだろうけど……元がこの世界の住人だしな)
もしかしたら、何かしらの啓示を受けているのかもしれない。今のご時世でオカルトなんてとも思うが、既に
「……アイツ等にお前が入っていいか聞いてくる」
「ごめんなさい、無理言って」
「いいよ。もしかしたら戻る手掛かりがあるかもしれないし。お前の野生の勘を信じるよ」
「女の勘って言ってくれないかしら!?」
ツッコみを入れるルナを尻目にジークは許可を取り、6人による蛇竜退治が決定。
必要なアイテムを買い、神話の怪物が眠る地へと旅立った。
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