不安、と思いきや…?
「ふぅ、気持ちいい……」
一糸纏わぬ姿で、夢心地のルナ。
ただお湯を浴びているだけなのに、それが何とも言えない幸福感を与えてくれる。
「それにしても、ホントに異世界なのね」
操作盤にシャワーノズル、シャンプー。どれもあちらの世界、悠翔達がフロンティアと呼ぶ世界では見なかったものだ。
さっきまで話をしていたリビングにも見慣れないものが色々あったし、これはもう認めるしかない。
「……これから、どうなるのかしら」
明日リンクスを買ってくると言っていたが、悠翔の言葉通りなら望みは薄い。一時的な滞在しか出来ないだろう。
(まぁ、それはそれで追われる心配はなくなるんだけどね)
あっちはあっちで危険が多い。何ならここで第二の人生を考えてもいいかもしれない。
悠翔は明日学校だと言っていたし、まずは街の散策を、
――ルナ■■■■
――■■!
――■ー■ー!
「ッ……!」
ノイズまみれの映像が頭の中をよぎり、ルナはこめかみを押さえる。
こうなるのは今日が初めてじゃない。ふとした拍子に見覚えのない光景が流れては、消えていく。
そうだ、見覚えはない。見覚えはない、はずなのに、
(何でこんなに、悲しい気持ちになるの……?)
懐かしく、切ない気持ちが胸の中に渦巻く。そして、その感情が告げるのだ。
早く戻らないと、と。
「……あーもー、止め止め! 難しいこと考えるの止め! 折角ゆっくり休めるんだから、ここは楽しまないと!」
うじうじ考えても始まらないし、取り敢えずは明日リンクスを使ってどうなるかだ。それが分からない事には動きようがない。
「さて、それじゃあ身体を洗わせてもらおうかしら。えっと、これが髪を洗うやつだったわよね。確か、シャンプーだったかしら?」
シャワーの使い方を教えてもらった時に、洗剤の種類も覚えた。
いくつか並んだボトルの中から乳白色の液体を出したルナは、それを髪に行き渡らせ――。
◆
その頃、キッチンでは。
「うーん……手軽だし、チャーハンでいいか」
冷蔵庫の食材を見てそう判断した悠翔は、取り出した食材を次々に切っていく。
一人暮らしもそれなりに長いので、実にテキパキした動きだ。
(あとはもう鍋に入れて炒めるだけだけど、どうせなら温かいもの食べてほしいし、少し待つか)
どのくらい入っているつもりかは分からないが、適当なところで声を掛けよう。
準備を終えた悠翔は、ソファに腰を下ろした。
「……夢じゃないんだよなぁ」
耳を澄ませば聞こえてくる、シャワーの音。言っておくけど、やましい気持ちはない。ないったらない!
ただ、普段はこの家に一人でいるので、そこに自分以外の人がいるという事実に、これが現実だと改めて認識させられる。
「ったく、何だってこんな訳の分からない事に……。天咲の件といい、俺って今年厄年だったっけ?」
いや、それどころかピンポイントに不幸が舞い込んでいる気がする。
「アイツ、当分ここに住むのかな。あぁ、女子と二人暮らしなんて、学校側に知られたらどうなるやら……」
リンクスを使って戻れなければ、そうなるだろう。こっちの金は持っていないから、当然と言えば当然だ。
金銭面に関しては、月一で振り込まれる生活費を上手く使えば何とかなる。基本遊びにも出掛けないので貯金もそれなりにあるし、問題ない。
何より、
(あの女の口振りだと、俺が巻き込んだみたいだし)
思い出すのは、裸Yシャツの少女。
ルナがこちらに送られたのは、十中八九彼女の魔法陣のせいだ。最後に言っていた『ボクからのプレゼント』が、多分ルナの事だろう。
あれがプレイヤーなのかNPCなのか、それとも別の何かなのか。そして何を企んでいるのか、それらは全く分かっていない。一つだけ確かなのは、ルナを巻き込んでしまった事だけ。
(なら、せめてここにいる間は、俺に出来る事をするしかないか)
自分の中でそう目標を立てたところで、ふと時計を見る。すると、ルナがシャワーを浴び始めてから、もう10分以上経っていた。
「ヤバ。そろそろ上がるか聞かないと――」
「ひゃあぁーーーーーー!!?」
「!?」
突如聞こえたルナの悲鳴に、慌てて悠翔は風呂場に向かう。
(まさか、ここにも何か……!?)
ルナだけが転移されたと思ったが、まさか他にも……!?
そんな考えがよぎった悠翔は、勢いよく扉を開け、
「どうした!? 大丈――」
「し、染みるぅうううぅぅうううううッ!?」
「……」
ポカン。
思わず口を開けたまま固まってしまう悠翔。その視線の先では、何やら一人で慌てふためいているルナがいる。
――生まれたままの姿のルナが。
「な、何なのこれ!? 何だかスゥスゥするし、凄い目に染みる!?」
どうやらメンズ用のクールシャンプーが目に入ったらしい。これはキツい。
と、冷静に考察してる場合じゃない。ルナがまだ気づかない内に逃げないと、
「ハッ! まさかこれ、毒だったんじゃ……あ?」
ダメでした。2人の目がばっちり合う。
訪れる沈黙。その間にも、片や羞恥で顔を真っ赤にし、片や真っ青になって冷や汗をダラダラ流し始める。
またもグーパンチの危機!? そう直感した悠翔は、何とか気を落ち着かせようと頭をフル回転させ、
「な、ナイスバディ?」
「ッ~~~!!」
パッカーン!
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