親友
「それで、受けたの?」
「うん」
ことの顛末をサキに話すと、サキは感心した様子で頷いた。
「家元が今年の文化祭で演奏するってのは聞いていたけど、まさかそこにムッキーも参加するなんてねぇ」
「いや、私だって初めはどうかと思ったよ? でも、教えて貰っている手前なかなか断りにくいし、それに……」
楽しそうに文化祭の内容を語る吉川くんに釣られて、と言えば人のせいにし過ぎている感じがするけど、その吉川くんが本当に楽しそうに語るから私もついつい頷いてしまった。
「ムッキーって、たまに思い切ったことするよね」
褒められているとは思わないけど、とりあえず胸を張るとサキに「見切り発車って意味だけど」と付け加えられた。
「文化祭まで時間が無いけど、間に合いそうなの?」
「吉川くんが言うには大丈夫らしいけど、大丈夫な未来が全く見えないの……」
「まぁ、そうよね……」
ちなみに、文化祭まで一ヶ月を切っている状況だ。
だというのに、三味線初心者が、教え上手な先生がいるとはいえ舞台上で演奏をするなんて、なんと無謀なことだろうか。
その「大丈夫」の理由を吉川くんに尋ねると、「三味線がメインだけどバックミュージックも流すので問題はない」とのことらしい。
「三味線の演奏に伴奏じゃなくて、バックミュージック……?」
サキも、初めてロック三味線の話を聞いた時の私と同じ疑問を持ったらしい。
それに対し、私は頷くことで答えた。
琴や笛、太鼓といった楽器と一緒に三味線を演奏している動画なら、サキは私と一緒に見たことがある。
そこから文化祭でやるであろう演奏を想像すれば、「バックミュージック?」と疑問符がつくのは当然だ。
でも、吉川くんがいうには、想像できないからこそいいらしいけど。
それにそもそも、音楽を合わせられるバンドマンがこの学校には居ないとのこと。
「なんだか、よく分からないことをやるみたいね」
そして再び呆れ口調。でもサキはすぐにいつもの調子に戻り「でも、応援してる」と言ってくれた。
親友のサキは、最後には必ず私の味方になって肯定してくれる。
今回も、その顔を見るに私たちの演奏に期待しているようだった。
とにかく、引き受けたからには全力でことに当たる。
ちょっと無謀かもしれないけど、久し振りにワクワクしているんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます