第55話

「貴様ら! 何をごちゃごちゃ話している!!」


「あぁ、ごめん」


「敵に謝るなよ!」


 ゴブリンは腰から剣を抜き、俺たちに向けて構える。 相手は一人……ここで倒せれば、仲間を呼ばれる心配も無いのだが……。


「く……二対一では分が悪いか……」


 流石に相手も一人で掛かってこようと思わないようだ。

 そりゃあそうか……相手はこの世界では英雄だしな。 実力差を感じたのだろう、ゴブリンは少しずつ後ろに下がっていく。

 が……ユートはそれを許さない。


「どこ行くの?」


「な! いつの間に後ろに!?」


 俺も驚いた、先ほどまで後ろに居たはずのユートがいつの間にか敵の背後を取っていたのだ。

 ユートは腰の短剣を抜き、敵の喉元に当てる。


「ここに連れてこられた女の子が居るはずだ、どこに居る?」


「し、知るかよ……」


「正直に言った方が身の為だよ?」


 ユートはそう言うと、持っていた短剣をゴブリンの喉に少しづつ押し当てる。


「うっ……わ、わかった……付いてこい」


「ありがとう、それと変な気は起こさない方が良いよ……」


 ユートは敵の喉元から短剣を離し、短剣を腰の鞘に戻して別な剣を抜いて、敵の背中に向ける。


「さぁ……案内して貰おうか」


「すげぇ……」


 俺は思わずそんな事を言ってしまった。

 瞬時に敵の背後を取り、主導権を握ったユート。

 本当にこっちの世界の俺はスペックが高いなと思いながら、俺とユートは敵の後ろについて歩いて行く。


「クソ……なんでこんなところに英雄が……前線に居るはずじゃ無かったのか!」


「色々あるんだよ……それにこんな戦いも早く終わらせたいし」


「終わらせる? 良く言いますね……切っ掛けを作ったのは貴方だというのに……」


「何を言っているんだ? 僕が切っ掛け?」


「そうです……我々は確かに魔族と人間の和解には反対した者達の集まりだった……でも切っ掛けはすべて貴方なんですよ」


「それは……僕が現魔王に和解という道を提案したからかい?」


 敵のゴブリンは俺たちを彩のところに連れて行く道中、そんな話しをし始めた。

 反乱軍が発足された切っ掛け……その理由がユートにあるのは当然と言えば当然だろう。

 ユートが和平の提案をした事で今のような世界になったのだ。

 

「いや……違う」


「え……」


「我々は貴方が和平を望んだことに関しては恨んではいない……まぁ、他の奴らはどうか分かりませんが……少なくとも私は違う」


「どう言う意味だい?」


「私は貴方を恨む理由ですか? ハハ……そんなの決まっています……貴方が魔族の姫の思いを踏みにじったからだ!!」


 言われたユートは大きく目を見開いて驚いていた。

 魔族の姫とは、恐らくレイミーの事であろう……そうか……やはり彼女は……。


「ど、どう言う意味だ! 裏切ったのは彼女……レイミーの方だろう!」


「違う……あのお方を最初に裏切ったのは貴方だ!」


 敵の言葉にユートは動揺を隠しきれない。

 この様子だとユートは本当に知らないようだ。

 レイミーがユートに抱いている気持ちに……。


「ぼ、僕が?」


「そうです……私は昔からレイミー様にお仕えしてきました……貴方なら知っているでしょう……レイミー様は昔から仲間思いの優しいお方だった……」


「そんな事は知っている……だから僕たちはわかり合うことが出来た……」


「そうです……あのお方は貴方に出会い、明るくなられた! 何百年も続いた戦争を終結させ、平和をもたらした貴方を誰よりも尊敬していた! それなのに貴方は!!」


「ま、待ってくれ! 意味が分からない! そこからなぜ反乱軍の発足に繋がるんだ!」


「まだ分からないのですか!! 貴方が……貴方がレイミー様で無く、王国の姫様を選んでしまわれたから!!」

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