第56話

「ど、どう言う意味だ……」


「レイミー様が……貴方を愛しているからです」


「え……」


 ゴブリンの言葉にユートは驚き口を開ける。

 まぁ……俺はそうなんじゃ無いかと思っていたが……本人はやっぱりまったく気がついてなかったのか……。

 しかし、好きな相手に振られたくらいで反乱軍なんてつくるか?


「貴方がご結婚なされてから……あの人は毎日悲しそうでした……」


「そ、そんな事を言われても……」


 驚愕するユート。

 まぁ、こう言う鈍感な奴は直接言われないと分からないだろうな……。


「思えばあの日からレイミー様は少しづつおかしくなっていった……怪しげな男と会うようになり……果ては反乱などと……」


「怪しげな男……レイミーがか?」


「そうでございます、あのお方が現れてからです、レイミー様が反乱軍を作られたのは……私は昔からあのお方に使えてきました、だから今度も私はあのお方の力になりたかった……あのお方の味方であり続けたかった……しかし……」


 悲しそうに話しをするゴブリン。

 俺の勝手な予想だが、このゴブリンは反乱軍とか戦争とかそういうのはどうでも良いのだろうと思った。

 ただ、信じた主君の為に力になりたい一心でレイミーに付いてきているのだろう……。


「私は……あのお方に命を……家族を救っていただいたのです……だから……」


 話しを続けるゴブリン。

 しかし、すっかり話しに夢中になっていてユートは気がついていなかった。


「ユート危ない!!」


「え?」


 背後からもう一体のゴブリンがやってきている事に……。


「い、いつの間に!!」


 ユートは直ぐさま背後のゴブリンの方に身を翻した、しかし行動がワンテンポ遅れたせいで、ゴブリンに先手を取られる。


「甘い!!」


「くっ!」


 背後から現れたゴブリンは、ユートに向かって手をかざすと、黒いモヤのようなものを手から放出させた。 モヤはユートの体に纏わり付き、ユートの動きを封じた。


「くそっ! しまった!」


「私はあのお方の為なら……悪魔にも魂を売ろうと……心に決めたのです」


 身動きの取れないユートに対して、先ほどから話しをしていたゴブリンがそう言う。

 まずい……このままでは俺も捕まってしまい、彩を助けるどころでは無くなってしまう……。

 ゴブリン二人がユートに注意を向けている間に、俺はどうするべきかを考える。


「後ろのユート様は別世界のユート様ですね……貴方も拘束させていただきます」


「おいおい……マジかよ……」


 結局何も思い浮かばない間に、ゴブリン二体は俺の方に注意を向けてきた。

 相手は槍と剣を持った傭兵……こっちはただの高校生……勝てる訳がない。

 どうする……このまま捕まってしまったら終わりだ……逃げるか?

 いや、絶対に追いつかれてしまう。


「な、なぁ……お前らはレイミーの為に反乱軍をやってるのか?」


「そうだ……さっきも言ったが、私はあの人の力になりたいのだ」


「そうか……でもよ、それは間違いなんじゃないのか?」


「なんだと……」


「主人が間違った道に進もうとしてるんだぞ! 普通はそれを止めるのが部下の仕事じゃ無いのかよ! そんな事も出来ないくせに……何があのお方の力になりたいだ!」


 俺が強きな発言をしていると、ゴブリンはダッシュで俺に近づき、俺の首を掴んで持ち上げる。


「黙れ……貴様に何が分かる!」


「わ……分からないね……好きな相手の幸せを喜べない女の……部下の忠誠心なんて……」


「きさまぁ……レイミー様を侮辱するのか!!」


「うっ……かはっ!」


「悠人!!」


 俺の言葉にゴブリンは怒鳴り声を上げる。

 よほど頭にきたのだろう、首を掴む力も強くなった。 しかし、俺は続ける。


「あ……アンタが本当に……レイミーの力になりたいってんなら……一緒になって復讐心を燃やすより……一緒に泣いて……新しい一歩を踏み出す……手伝いをしてやることじゃ……無いのかよ……」

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