第50話


 戦場に行くのには慣れてきた。

 魔王軍との戦いが終わったと言うのに、まだ戦わなきゃ行けないなんて……。


「勇者様! 全員配置につきました!」


「そうですか……皆さんに鎧の防御魔法の確認を伝えてください」


「はっ!」


 町から少し離れた平原、僕の目の前には大勢の元魔王軍配下の魔族達が槍や剣を構えている。

 

「なぜなんだ……もう世界は平和なのに……」


 僕が始めて剣を取った切っ掛けはアーネのためだった。

 アーネと結婚するという目標の為に、僕は剣を手に取り魔王軍と戦った。

 しかし、戦いの中で僕は気がついた。

 魔族も人間と変わらない、平和を願う魔族も大勢居るという現実に……。

 気がつくと、僕の戦いはアーネと結婚するという目標だけでは無くなっていた。

 皆が平和に暮らせる世界……魔族も人間も手を取り合って暮らせる世界を目指していた。

 だから……こんな戦いがいまだにあることが悲しい。 

「はぁ……」


「ユート、どうかしたか?」


「ん? あぁ、ゼリウスか……なんでもないよ」


 僕に話し掛けてきたのは、元魔王軍三将軍の一人ゼリウスだ。

 ゼリウスは龍人と呼ばれる種族で、頭には二本の角を生やしている。

 体は大きく、身長は二メートルを軽く超えており、背中には大きな太刀を持っている。


「まったく……あぁ言うアホ共がいるから、世界から争いが無くならんのだ……」


「同じ魔族と戦うのはやっぱり嫌だよね……」


「お前が気に病む必要はない、奴らが選んだ道だ」


「でも……元は仲間だろ……」


「……お前と俺も元は敵だ……人生なんてどうなるか分からない」


 俺とゼリウスは戦争中、互いに命と誇りを掛けて戦った。

 接戦の末、俺はギリギリのところでゼリウスに勝利した。

 俺もゼリウスも戦いの中で互いを理解し、戦争集結間際には仲間になっていた。


「……お前の考えを当ててやろうか?」


「なんだよ急に……」


「誰も傷つかない方法を探しているな」


「……ゼリウスには敵わないか」


「甘っちょろいお前の考えそうな事だ」


「戦争はもう終わったんだ……誰も傷つけたくない……」


「お前のその甘さは、いつか身を滅ぼすぞ」


「分かってるよ……」


 自分が甘いなんて分かっている。

 でも……それでも僕は誰にも傷ついて欲しくない。


「……まぁ、だが女と結婚したいが為に魔王軍と戦った馬鹿だしな……こういう奴が意外と生き残る」


「おいおい、誰の嫁が世界一の美少女だって?」


「誰もそんな事は言っておらん!」


「最近また綺麗になった気がするんだ……ゼリウス、今度家に食事に来ないか? 随分来てないだろ?」


「お前は……嫁の話しになると周りが見えなくなるな……」


 やれやれといった様子でゼリウスは俺に背を向けた。

「出来るだけ努力はするが、俺はお前のように器用ではないからな」


「……ありがとう」


 ゼリウスはそう言って後ろに待機している数百人の兵士に告げる。


「お前達!! 我々魔族と人間が和平を結んで一年が経つ! しかし! 今だに平和は訪れない!! だが、私は信じている!! いつの日か、争いの無い世界がやってくる事を!! いつか来るその日の為に、今は君たちに戦って欲しい!! 恐れる事はない!! 我々には英雄が付いている!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 ゼリウスのかけ声に皆の士気が高まる。

 僕は剣を抜き、剣先を敵の軍勢に向ける。

 誰も傷つけない……僕はその為に戦う。

 そして帰るんだ……アーネの元に!!


「ん? なんだ……アーネから?」


 意気込んで敵に向かって行こうとした瞬間、僕の耳元に魔方陣が展開される。

 これはアーネからのメッセージだ。

 

『ユート! 彩がレイミーに連れ去られたわ!!』


「な、なんだって……」


 メッセージを聞いた僕は剣を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る