第51話



 彩が連れ去られた。

 アーネは俺に待機しているように言ったが、俺は落ち着いてなんて居られなかった。

 彩が攫われたのにジッとなんてしてられない!

 しかし、部屋のドアには昨晩アーネが掛けた魔法が掛けられており、部屋の外に出る事が出来なくなっていた。


「クソッ!! 一体どうしたら……」


 アーネやユートを信用していない訳ではないが、やはり不安だ。

 居ても経ってもいられないとはこの事だ。

 俺は何をするでも無く、部屋の中をウロウロする。


「あぁぁ!! クソッ!! なんで俺は待機なんだよ!」


 一人、部屋の中でそう叫んだところで状況は変わらない。

 こうしている間も彩が何をされるか分からない。

 なんとか部屋を抜け出さなければ……。


「窓は……無理だよなぁ、開かないし……ここ二階だし……」


 うーむどうしたものだろうか……これではトイレに行きたい時はどうすれば……って違う!! 

 早く抜け出して彩を助けに行かなければ!!


「仕方ない……かくなるうえは……ドアを破壊するか……」


「それはやめてもらえる? 修理が大変だから」


「あ! アーネ! ユートから連絡は!?」


「なんとかするって連絡があったわ……でも……レイミーの足取りが掴めないから……少し時間が掛かるかもね……」


「そ、そうか……やっぱり俺も!!」


「悠人君が行ったところで何も出来ないでしょ?」


「それは……そうだが……」


 でも、だからといって何もしないでジッとなんてしていられない!


「でも! それでも俺は!!」


「ダメよ、下手をしたら命に関わるわ……それに貴方は魔法も使えないし……戦いだって……」


「格闘技は結構やってきたぞ!」


「それでもダメです! 貴方は実践経験がありませんし……」


「ジッとなんてしてられねーんだよ!!」


「でも……悠人にもしもの事があったら……」


 アーネが悩んでいると、アーネの背後に魔方陣が浮かび上がる。


「アーネ! 状況は!?」


「ユート! もう戻ってきたの?」


 魔方陣から現れたのはユートだった、鎧を着込み、右手には剣を持っている。

 アーネはユートに状況を説明する。


「……なるほど……レイミーが……」


「えぇ……なぜ彩を攫ったのか……」


「戦場にもレイミーの姿は無かった……だが、戦場で有力な情報を手に入れてきた」


「ど、どんな情報だ!?」


 俺はユートの言葉に身を乗り出して尋ねる。

 

「反乱軍の一人が行っていた、レイミーは別任務で北の山のふもとにある反乱軍の隠れ家に居るらしい」


「だったら、早くそこに!!」


「分かってるよ、幸い戦況は圧倒的に軍が優勢だし、ゼリウスにまかせてあるからね……」


「ユート、気を付けてね」


「あぁ、じゃあ行ってくる」


「待ってくれ! 俺も!!」


 俺はユートにそう言う。

 ユートについて行けば、アーネを助けられる。

 でも……アーネが反対するか……いや、それでも俺は!


「悠人……」


「……頼む」


 俺はユートに頼んだ。

 ユートは俺の目を見つめる。


「……よし、行こう」


「え? ユート! それは危険よ!」


「だろうね……でも僕も悠人と同じ立場なら……同じ事を言っていただろうね……だから分かるんだ、彼の気持ちが……」


「でも……」


「大丈夫さ……僕は僕を信じてる」


 ユートはアーネを説得し、俺に武器と鎧を貸してくれた。


「これを着てくれ、何があるか分からないからね……」


「鎧か随分重いんだな」


「魔法を掛けて軽くするから大丈夫だよ」


 準備をえた俺とユートは、レイミーがいるであろう北の山のふもとに向かう。

 山までは転移魔法という魔法で一瞬で移動し、そこからは徒歩で隠れ家を探す。


「どこだ? どこにあるんだ……」


「悠人、あまり焦らない方が良い、ここはもう敵地だ!」

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