第42話

「さ、お腹も減っただろ? 食事にしよう」


「お、おう」


「そ、そうね……」


 俺たちは席に座る。

 すると、サーリアが俺たちの前に食事を並べてくれた。

 シチューのようなスープに大きな肉、そして大きめのパンが二つ。

 もちろんご飯などはない。


「サーリアとアーネが作った物はどれも美味しいよ、遠慮せずに食べてくれ」


「口に合えば良いけど」


 笑みを浮かべながら、頬に手を当ててそういうアーネ。

 俺は一緒に置かれていたスプーンを掴み、スープを一口飲む。

 美味しい、普通に美味しい……料理に関しては、俺たちの世界とあまり変わりはないのかもしれない。


「美味しいな」


「うん、これ美味しい……」


 俺が言った後に彩も同じ事を言う。

 アーネは嬉しそうに笑みを浮かべ、サーリアはホッとしたような表情でアーネの隣に座る。


「それでは私も失礼して」


「あぁ、サーリアも早く食べよう」


 ユートはサーリアにそう言った。

 普通メイドさんは主人が食べた後に食事をするものではないだろうか?

 そう思った俺だったが、先ほどユートが言った言葉を思い出し、納得した。


「……家族か」


 そうだ、ユートはサーリアをメイドである前に家族として見ている。

 恐らくだが、ユートやアーネにとって、サーリアはただのメイドではないのだろう。


「はい、ユートあーん」


「あーん」


 なんて事を思って俺が感心していると、ユートとアーネは俺たちの前で食べさせ合いっこを始めた。

 何がはいあーんだ!!

 ところ構わずイチャツキやがって!!

 うらやま……おっと間違えた。


「おい……お前ら少しは自重してくれ」


「ん? 何がだい?」


「いや……だから……あんまりイチャイチャするなよ……見てるこっちが恥ずかしいんだよ」


「イチャイチャ? 僕たちにはこれが普通なんだけど……」


「じゃあとりあえずあーんはやめてくれ……見てるこっちが恥ずかしくて死ぬ……」


 俺の隣に居る彩も顔を真っ赤にしてるし……。

 てか、人が居る前で良くあんな事出来るな……。


「君たちもやれば良いじゃないか」


「いやなんでだよ」


「やりたいくせに~」


「その言い方やめろ……」


 俺はユートの言葉を無視して、食事を進める。

 なんかさっきからチラチラ彩がこっちを見ている気がするが……なんだろう?

 

「彩?」


「え! な、何よ!?」


「何驚いてんだよ?」


「お、驚いてなんかないし!」


「どうかしたか? さっきから俺のことチラチラ見てるだろ?」


「な、何言ってんのよ! そ、そんなのアンタの気のせいよ!」


「何怒ってんだよ……」


「怒ってない!!」


 いや、怒ってんじゃん……。

 なんて事を思いながら、俺はそれ以上何も聞かず食事に戻った。

 食事を終えると、ユートが風呂に案内してくれた。

 もちろんシャワーなんてものはない、あるのはタオルと桶、そして浴槽だ。


「これで体を洗ってくれ、それじゃあ……楽しんでね」


「楽しむ? まぁ、ゆっくりはするけど……」


 ユートはそう言い、風呂場を後にして行った。

 俺はお湯を桶にお湯を汲み、石けんで体を洗い始める。

 シャンプーなんてないし……石けんオンリーか……髪が軋みそうだな……。

 俺はそんな事を思いながら、体を洗い湯に浸かる。


「はぁ~……風呂はいい湯だな……」


 大きな浴槽の壁には、ライオンのような動物が口を開けた彫刻が取り付けてあり、そのライオンのような動物の口からはお湯が出て来ていた。


「マーライオン?」


 俺はふとそんな事を思ってしまった。

 良くお金持ちの家なんかにありそうな、お湯が出てくるアレだ。

 そんな事を考えていると、突然風呂場の戸が開く音が聞こえた。


「ん? ユートか?」


 何か言い忘れた事でもあったのだろうか?

 俺は風呂場の扉の方を見る。

 するとそこにはユートではない誰かが立っていた。

 湯気が酷く、シルエットしか見えなかったが、俺は目を凝らして良く見てみる。

 すると、俺が声を上げる前にその人物が声を上げた。

「え……ゆ、悠人!?」


「あ、彩ぁぁぁぁぁぁ!!」


 そこに居たのは、体にタオルを巻いた彩だった。

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