第33話



 放課後、俺は久しぶりに一人だった。

 何もやることが無いので、このまま真っ直ぐ家に帰ろうと思ったのだが、意外な相手から俺は一緒に帰ろうと誘われてしまった。


「ゆ、悠人……」


「え……」


「た、たまには一緒に帰ろうよ……」


 そう言って来たのは彩だった。

 昇降口で靴を履き替えようしていた時、急に彩がやってきて俺にそう言った。

 夢か幻かと自分の目を疑ったが、頬を抓ったら痛かったので現実のようだった。


「い、いきなりなんだよ……お、お前……仕事は?」


「きゅ、急に休みになったのよ……ほ、ほら……どうせ帰る方向も一緒だし……」


「何だったら家も隣だけどな……」


 俺にとっては喜ぶべきイベントだが、喜ぶ反面不安な事も何点かあった。

 もし、俺と一緒に居るところを写真に取られ、SNSなんかにアップされたら、彩に迷惑が掛かるのではないだろうか?


「いや、やめた方が良いだろ……俺と一緒だと……お前に迷惑が……」


「べ、別に大丈夫よ……ただクラスメイトと一緒に帰るだけなんだし……それとも私と帰りたくないの!」


「い、いや……そういうわけじゃ無いけど……」


 正直言うとメッチャ嬉しい。

 だけど、彩の迷惑になり得ることはあまりしたくない。

 だが……本人もこう言ってるし……。


「ほら! 行くわよ!」


「お、おい!」


 俺が考えをまとめる前に、彩が歩き始めてしまった。 俺は彩の後ろを付いて行き、強制的に一緒に帰る事になってしまった。


「なぁ……急にどうしたんだよ」


 帰り道、俺は彩に尋ねた。


「別に……ただそういう気分だっただけよ……」


「どんな気分だよ……」


 まぁ、理由はどうあれ久しぶりに一緒に帰れるのだ、嬉しいことに変わりは無い。


「あのさ……」


「ん、どうした? 腹でも減ったか?」


「違うわよ! あ、明日なんだけど……」


「あぁ……買い物に付き合えってやつだろ?」


 もちろん覚えている。

 そのことしか頭になかったよ。

 

「明日は朝十時に家を出るから、遅れないでよ!」


「分かってるよ、お前こそ変装してこいよ」


「分かってるわよ」


 明日は何を着ていこうか……。

 それよりも買い物が終わった後はどこに誘うか……。 俺は頭の中でそんな事を考えていた。

 すると再び彩が話し掛けてきた。


「ね、ねぇ……」


「ん? なんだ?」


「最近なんか……西井さんと仲良くない?」


「は? ……いや、そんな事ないだろ……ただ一緒に飯食ったり……」


「十分仲良いわよ! 今日も一緒に食堂行ってたでしょ!」


「一緒にって言っても……学も沢井も一緒だったけど……」


「そ、そうよ! アンタなんか沢井さんとも仲良くない!?」


「いや、別に特別仲が良いわけでは……」


「楽しげに話してたくせに……」


 別に楽しくは無いのだが……。

 てか、やっぱり見てたのかよ……まぁでも、ヤキモチ焼かれるのは結構嬉しいけど……。


「別に楽しげではねーよ」


「ふーん……振った相手にあんなに優しくするんだ」


「そ、それは……あんまり冷たくするのも……可愛そうだろ?」


 俺がそう言うと彩は深くため息を吐き、一呼吸ついて俺に話してくる。


「まぁ、アンタがそういう性格なのは知ってるけど……あんまり優しくしすぎるのも良くないと思うわよ?」


「そうか?」


「そうよ……そうしないと、西井さんだっていつまで経っても諦められないじゃない。思わせぶりな態度ばっかりとるのは逆効果よ」


 

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