第32話

 なんでそんな忘れ方をするんだか……。

 最初と最後しか合って無いじゃないか。

 俺はため息を吐きながら、そばをすする。

 

「今日は陸上部は部活か?」


「そうだよ」


「そうか……」


「え、何? 一緒に帰れなくて寂しい?」


「いや、全然」


 俺がそう言うと、西井は不満そうに頬を膨らませてジト目で俺を見てくる。

 

「なんだよ……」


「別にぃー……ただ酷いなぁって思っただけ」


「そうか……」


「反応薄っ!! もっとなんか反論してよ!! 別に酷くないだろ! 見たいな!!」


「反論するのも面倒い」


「緒方君……そういうとこだよ?」


「何がだよ」


 俺はため息を吐きながら、最後のそばをすする。

 今日も食堂のそばは美味しかった。

 一番早く食事を済ませた俺は、スマホを弄って他の四人が食べ終わるのを待つ。


「ん? また不審者か……しかも近所じゃん」


「本当か? そう言えばこの前も出てなかったか?」


「あぁ……最近多いよな」


 スマホのニュース記事を読みながら、俺は学に言う。 

「怖いねぇ……私も危険を感じちゃう」


「いや、沢井は大丈夫だろ」


「どう言う意味よ!」


 何となくだが、不審者を倒してしまいそうな気がする。

 食事を終えた俺たちは、食堂を後にし教室に戻る。

 まだ昼休みの時間なので、西井も俺たちの教室に着いてきた。

 教室に入る際、西井は彩の方に視線を向けていた。

 彩が誤解して否ければ良いが……。

 俺がそんな事を考えていると、西井が俺に耳打ちをしてきた。


「ねぇ緒方君」


「なんだ?」


「実は……向こうの世界の私の事なんだけど……」


 そう言われた瞬間、俺は回りを確認し、話しが聞かれていないかを確認する。

 

「ここでその話しはやめろ、ちょっと来い」


 俺はそう言って西井を廊下に連れ出す。

 

「あれ? 悠人どっか行くの?」


「トイレだ」


「西井さんと?」


「そうだ」


「そっか……へ?」


 俺と西井は廊下に出て階段の踊り場まで向かう。

 

「ここなら良いだろ……で、何があった?」


「うん、今日の朝なんだけど……突然私の目の前に現れて……」


 一体何があったんだ。

 何か脅すような事でもされたのだろうか?

 西井の事を心配しつつ西井の答えを待つ。


「いや……なんか……急に来て……『絶対にあいつと結婚しなさい! そうしないとアンタ一生独身よ!!』って脅されたのよね』


「それは脅しなのか?」


 なんか心配して損したな……恐らくだがユートに何か気にくわない事を言われてムキになったのだろう。

 ユートも交渉が決裂したと言っていたし……。


「まぁ……大丈夫だろ?」


「そうかな……なんかすっごい怖い顔で言われたんだけど……」


「女の恨みほど怖いものは無いからな……」


 向こうの世界の西井……レイミーが段々可愛そうになってきたな……。 

 多分、レイミーも西井と同じく諦めが悪いのだろう。 そういう部分は似ているかもな……。


「まぁ、大丈夫だろ? お前に直接危害を加える事は無いと思うし……」


「そうかな……でも、あの人……なんか凄く悲しそうだったんだけど……」


「悲しそうか……」


 好きな相手に振り向いてすら貰えず、それどころか敵になってしまった。

 なんだか可哀想な話しだ。

 報われない恋か……俺もユートがこっちの世界に来なければ……同じような立場になっていたかもしれないな……。

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