第31話

 学と話しをしていると、ニコニコしながら沢井がやってくる。

 面倒な事になりそうなので、俺は席を立って沢井から避難しようとする。

 しかし……。


「あ、悠人。そう言えば………」


 学が何かを思い出し、俺に話し掛けてきた。

 しまった!

 このままでは、沢井がこっちに来てしまう。

 

「ま、学! 向こうで話そう!」


「なんでだい? 別にここでも……」


「い、良いから! じゃないと面倒な奴が……」


「誰が面倒なのかしら?」


「げっ……」


 しまった、行動が遅すぎたか……。

 沢井は笑みを浮かべながら、俺の肩を掴んでそう言ってくる。

 

「何話してたの?」


「いや……別に……」


「悠人が明日デートなんだって」


「おい、馬鹿!!」


「え? 麗美と?」


 あぁ……これだから言いたくなかったのに……。

 俺はそんな事を思いながら、ため息を吐く。

 そして、どうにかして話しをごまかせないかを考える。

 てか、学め……余計な話しを……。

 

「……そんな事より、次の数学の課題はやったか?」


「え!? 課題なんてあったっけ!?」


「あぁ、確か合ったと思ったぞ……多分」


「嘘っ!! 私やってない!!」


「教科書32ページの問題だ、早くやった方がいいぞ?」


「そうする! ありがと!!」


 沢井はそう言って自分の机に戻って行った。


「あれ? 課題なんて出てたっけ?」


「あぁ……嘘だ」


「え? なんでそんな嘘を?」


「デートに行くってバレたら、色々面倒そうだからな……」


「あ、西井さんと行く訳じゃないんだ」


「まぁな……」


 学はデートの相手が西井だと思っていたらしく、きょとんとした顔で「じゃあ誰?」と俺に尋ねて来る。

 

「誰でも良いだろ……」


「おいおい、俺にも秘密か?」


「付き合えたら話すよ……まだ付き合ってねーし」


「へぇ……悠人って好きな人が居たんだな……そんな影一切無かったけど」


「まぁ、俺だって健全な男子高校生だからな」


「まぁ、明日は楽しんでこいよ」


「……あぁ、そうする」


 俺は学にそう言い、自分の席に戻る。

 西井は出てもいない課題を自分の席で一生懸命やっていた。

 悪いな……お前から西井に話しが行ったら、まずいんだ。







「緒方くーん!」


「げっ……」


「げって何よ! げって!」


 昼休み、俺は食堂に行こうと学を誘って教室から出ようとしていたところ、丁度良いタイミングで西井が笑顔で俺を訪ねて教室にやってきた。


「今からご飯? じゃあ一緒に行こう!」


「はぁ……毎日来る気かよ……」


 俺はため息を吐き、学の方を見る。


「学、こいつも一緒で良いか?」


「逆に俺が邪魔だったりしない?」


「お前が居てくれた方が良い」


 そんな話しをしていると、またしても沢井がやってきた。

 しかも今度はなんか怒ってる……。


「ちょっと悠人君!! 課題なんて無かったじゃない!!」


「あぁ……すまん、俺の気のせいだった」


「頑張って終わらせたのに……私の時間を返してよ!」


「勉強した時間は無駄じゃないだろ……」


「だって学校は遊ぶところでしょ!」


「勉強するとこだ」


 アホは放って置いて食堂に行こうとしたのだが、話しを聞いた沢井も食堂に付いてきた。


「なんで四人で食堂来てるんだよ……」


「仕方ないだろ? 全員食堂派なんだから」


 四人も居て、一人も弁当を持ってきて無いのかよ。

 券売機の前まで来た俺たちは、何を食べるかを考える。


「今日は何にするかな……」


「俺はラーメンにしよ、悠人は?」


「俺はそばにする」


 俺たちは食券を購入し、食堂のおばちゃんに渡す。

 

「そう言えば……なんか緒方君について、面白い話しがあったような……」


「気のせいだ」


 まずい、沢井が思い出そうとしている……。

 西井の前で思い出されたら面倒だ。

 

「何だっけなぁ……」


「良いから、その日替わり定食を食べろ」


「えっと……で、で……デスノート?」


「俺は新世界の神になる気は無いぞ」 

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