第25話



「お腹減ったねー」


「そうだな」


 お昼休み、俺は西井と共に食堂に来ていた。

 昨日あんな事があった後だというのに、西井の奴はいつもと変わらない様子で俺に接してくる。

 変に意識している俺が馬鹿みたいじゃないか……。 てか、勢いに流されて一緒に飯を食いに来たけど……昨日の今日でまずかったよな……彩、またヤキモチとかやいてるかな?

 まぁでも……ヤキモチをやくってことは俺の事を好きって言う証明だし……あんまり悪い気もしないんだよなぁ……。


「ねぇ、何ニヤニヤしてるの?」


「え? 二、ニヤニヤなんてしてねーよ」


「嘘、してたよ」


「気のせいだっての」


「……彩音ちゃんと何かあった?」


「ね、ねーよ……」


「嘘だ、あったんだ……むー」


 なんで分かるんだよこいつは……。

 俺は隣で俺の事をジト目で見る西井を他所に、俺は食券を購入し、食堂のおばちゃんに渡す。

 

「てか……なんで俺がお前と飯を……」


「嫌だった?」


「別に嫌ではないが……」


 こんなところ、あまり彩には見られたくないのだが……。

 あんまりハッキリ言うのも、なんだか悪いし……。

 てか、これからもしかして毎日か?

 そんな疑問を浮かべていると、西井が俺に尋ねて来た。


「ねぇ、緒方君ってどんな女の子が好きなの?」


 どんなって言うか……彩が好きなんだが……そんな事は言えないので、俺は適当にごまかす事にした。


「そうだなぁ……可愛くて優しくて……でもたまにわがままを言うような……」


「つまり彩音ちゃんね」


「分かってるなら聞くな」


「むー、ライバルは相当手強いなぁ……」


「そう思うなら、さっさと俺に見切りをつけて、他にいい人でも探せ」


「キスまでした女の子にそんな事言う?」


「正確には、俺はされた側なんだが」


「細かい事は気にしないの!」


「気にするっつの!」


 ダメだ、こいつと飯を食ってると疲れてくる。

 俺はさっさと教室に戻ろうと箸を黙々と進める。


「む、なんか急いでない?」


「俺は昼休みは寝るって決めてんだよ」


「そんな事言ってぇ~もしかしてボッチ?」


「ちげーよ」


「まぁまぁ、お昼くらい私の話し相手になってよ」


「断る」


「即答だね」


「俺の貴重な睡眠時間を奪うな」


「どうせ授業中も寝てるでしょ?」


「寝てねーよ」


 まぁ、授業によるけど……。

 その後も俺は西井に捕まり、まんまと話し相手にさせられてしまった。

 良くもまぁ、これだけ話しの種があるなと感心してしまうほどに、西井は色々な話しを俺にしてきた。


「……で、私的には青山先生は絶対にズラだとおもうんだけど」


「アホか、あの人はまだ30代中盤だぞ? それにあんな自然に生えてるのに、ズラな訳ないだろ」


「いや、絶対にズラ! 不自然だもん!」


 こんなアホな話しでも、西井と話しをしていると盛り上がってしまう。

 恐らく西井は話し方が上手いのだろう。

 コミュ力が非常に高い。

 あまり高くない俺からしたら羨ましい。


「なぁ」


「ん? 何?」


「俺なんかと話しててもつまらなくないか?」


「全然。むしろ今が一番楽しい」


「お前変わってるな」


「そうかな? 好きな人と一緒で楽しくない女子なんて居ないでしょ?」


「そういうもんか?」


「そういうもんですよ」


 じゃあ、彩も俺と一緒にいる時が一番楽しかったりするのかな?

 いや、これはうぬぼれか……。

 でも、俺は出来ることなら、また昔みたいに彩と接したいな……。

 しかし、それは恐らく難しい願いだろう。

 彩は最早普通の女の子ではない、最近は国民的人気を誇る大人気アイドルとまで言われるようになった、トップアイドルだ。

 そんなトップアイドルが、俺みたいな一般人の男と仲良くなんてしてたら、やましい事がなくても悪い噂が立ってしまう。

 しかも、今はSNSなんかで情報の拡散も早い。

 ここまでアイドルとして頑張ってきた彩の事を考えると、昔のように仲良くと言うのは難しい。

 例え彩と両思いだと分かっても、俺は彩に釣り合うのだろうか?

 あいつはどんどん先に行ってしまっている。

 最早、俺とは住む世界も違う。

 業界には俺よりも良い男なんて腐るほど居る。

 そう考えると、なんだか憂鬱になって来てしまう。

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