第16話
「今日の撮影良かったわよ、なんか最近調子良いわね」
「ありがとうございます、ちょっと色々あって……」
悠人が私を好きだとわかってから、私は調子が良かった。
なんだか、今なら何をやっても上手くいく気がする……根拠は無いけど。
「それで、今度バラエティーの仕事が来てるんだけど、どう? 出てみない」
「え、本当ですか?」
私みたいな新人が、こんなにお仕事を貰えるのはありがたい。
しかし、今の私にはどうでも良い。
「もちろん受けるわよね?」
「いえ、お断りします」
「え!?」
「ついでに引退したいです」
「はいっ!?」
だって、もう悠人と両思いだし……アイドルする意味無いし。
仕事が忙しくて、悠人と会えないなんて絶対嫌だし。 当然だけど、村北さんはメチャクチャ驚いていた。
そしてもちろん……。
「な、なんで!? ドラマの出演も決まって、これからでしょ!? なんで引退? 国民的アイドルになりつつあるのよ!! もったい無いわよ!!」
当然だが、必死になって止めてくる。
まぁ、それもそうよね……自分で言うのもなんだけど、今私は一番売れてる時期だし。
でも、うちの事務所って恋愛禁止だし。
恋愛禁止だと、悠人と付き合えないし。
「大丈夫です、今入ってる仕事はします。それが終わったら引退します」
「なんで!? お仕事大変だった? 友達と遊びたい? 私もマネージャーとして、なんとかスケジュール調整とか頑張るから! お願いだからやめないで!!」
「嫌です」
「そんなハッキリと!?」
だって、このままだったら、悠人と付き合えないし。
「と、とりあえずこの話は今度また、うちの事務所の所長を交えて話しましょう……」
「はーい」
「じゃあ、家まで送っていくわ」
私は帰る支度を済ませ、村北さんの車に乗って家まで送ってもらう。
車の中でも私はサングラスとマスクを付けて、顔をを隠している。
てか、早く帰りたい。
早く帰って悠人に会いたい。
早く悠人をからかって遊びたい。
私はそんな事を考えながら、悠人のSNSのアカウントを見る。
いまだに悠人からは、メッセージの一つも送られてきてはいない。
もう! 好きな人の連絡先でしょ!
『今何してる?』とか送って来なさいよ!!
私はそんな事を思いながら、頬を膨らませてスマホに入っている悠人の写真を見る。
「えへ……えへへへへ」
やっぱり可愛いなぁ……悠人。
*
私は村北恵実(むらきたえみ)。
大人気アイドル、成瀬彩音のマネージャーをしています。
彼女のマネージャーになって早いもので一年。
彼女の頑張りを一番近くで見てきた。
だからこそ、最近の彼女の様子の変化が気になっていた。
「えへ……えへへへ……」
スマホを見て、ニヤニヤするなんて……今までのクールな彼女からは考えられなかった事だ。
一体何を見ているのか……。
「あ、彩音ちゃん」
「はい?」
「明日だけど……放課後にレコーディングがあるから、学校に迎えに行くわね」
「わかりました。何時くらいで終わります?」
「いつも通りよ、OKが出たら終わりだから夜の十時とかじゃないかしら?」
「わかりました」
うーん……いつも通りのような気もするけど……。
でも、やっぱりおかしい。
なんで急に引退なんて言い出したのかしら?
最近は調子も良いのに……。
やはり、スマホを見てニヤニヤしていたし……何かスマホに秘密が?
そんな事を考えていると、彩音ちゃんの自宅に到着した。
「はい、お疲れ様」
「いつもすいません、ありがとうございます」
「良いのよ、それじゃあまた明日」
「はい、また明日……」
そう彼女は言いかけると、視線の先に何かを発見し、言葉を止める。
何を見ているのかと思い、私は彩音ちゃんの視線の先に目を向ける。
そこに居たのは……。
「あら? お友達?」
彩音ちゃんと同じ高校の制服を着た、男の子と女の子が居た。
*
「ねぇ、本って何買うの?」
「写真集だけど」
「あ、わかった! エッチな本だ」
「………エッチでは無い」
俺は西井と共に、書店に向かっていた。
俺が買うのは、予約していた彩の写真集だ。
まぁ、エロいかどうかは……正直わからない。
水着姿の彩を見て若干興奮する俺にとっては、写真集は十分エロい本かもしれない。
「じゃあ、何の写真集?」
「何だって良いだろ」
「わかった、成瀬彩音のだ……」
「………」
「図星じゃん……ぶー」
「ぶーってなんだよ、別に良いだろ!」
「アイドルに恋したって無駄だよ? 現実見ようよ、結婚出来なくなっちゃうよ?」
「余計なお世話だ!」
いちいちこいつはうるさいな……。
しかし……女子と何かを買いに行くなんて……始めてだな……。
あぁ……出来れば彩と来たかった。
いや、だが……彩と彩の写真集を買いに行くというのは……。
「ねぇ、何考えてるの?」
「ん? なんでも良いだろ」
「どうせエッチな事でしょ?」
「その決めつけはやめろ」
若干当たってるから腹立つな……。
少ししてようやく書店に到着。
俺はレジに行き、予約件を店員に見せる。
「すいません、予約した本を取りに来たんですけど」
「はいかしこまりました。それでは少々お待ちください」
そう言って店員さん(女性)は予約用紙を持って、倉庫らしくところに向かっていった。
そして本を取って戻って来たのだが……。
「こちらでよろしいですか?」
「あ、はい……あれ? すいません、予約したの一冊じゃ無いんですけど」
「あ、大変失礼致しました。えっと……さ、三冊でお間違いないですか?」
「はい」
そんな『この人マジ? この本一冊4000円だけど』みたいな顔をするな……。
店員さんは再び倉庫らしき部屋に入って行った。
「え、マジ? この本一冊4000円だよ……」
「お前が言うのかよ」
「いやいや、三冊買う意味がわからないんだけど……」
「見るよう、保存用、飾る用だ」
「12000円だよ?」
「バイトしてるからな」
「他に使いなよ」
「使いどころが無い」
「じゃあ私に……」
「使わない」
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