第15話

 なんか俺……モテ期来たかな?

 俺は日替わり定食を食べる手を止め、西井の顔を見る。

 頬は薄ら赤く染まっていたが、目は真っ直ぐ俺を見ていた。

 そんなに見つめられると照れるな……。


「お、俺……君になんかしたっけ? そんなに好かれる理由が……わからないんだけど……」


「まぁ、覚えて無いよね……入学前だったし」


「入学前?」


 入学前に西井と会ったことなんてあったか?

 いや、この前告白されるまで俺は彼女の名前も知らなかったし……。


「まぁ……それはいつか話すよ。それよりも、どうしたら私を好きになってくれるの?」


「いや……そんな事を言われてもな……」


 彩が好きなうちは、この子に好意が傾くなんて無いと思う。

 

「残念だけど……俺好きな人居るし……」


「うん知ってるよ。だから奪うんじゃん」


「いや……俺が言うのもなんだけど、早く諦めて他に良い人を見つけた方が……」


「だって、付き合ってる訳じゃ無いでしょ?」


「うっ……まぁそうだけど……」


 俺が告白すれば彩はほぼ100%の確率でOKを出すと思うが……そういう訳にもいかないし……あんな事言った手前、なんか言いづらい。


「相手は超人気アイドルだよ? まぁ、幼馴染みっていうのは強みだけど……」


「ま、まぁ……そうだけど……」


「それに、ライバルも多いよ? 学校の男子はもちろん、共演者のイケメン俳優とか」


「うっ……そ、そうだが……」


 あんまり痛いところをつかないで欲しい……そんなの俺だってわかってるよ!!

 でも……そんなすげー奴が、俺の事を好きなんだよなぁ……。

 それに比べて俺は……。


「はぁ……」


「ね、ため息吐くなら私と付き合おうよ」


「なんでだよ……まぁ、西井の言うとおりだって事は俺が一番わかってよ……」


「じゃあ、さっさと諦めて私と愛を育もうよ!」


「育まねーよ……」


 俺はため息を吐きながら、定食の焼き魚を食べる。

 こいつも俺なんかにちょっかい出してないで、他に良い相手でも見つければ良いのに……。


「ねぇ、今日って放課後何か用事ある?」


「え? あぁ……本屋に行く用事が……」


「じゃあ私も行く!」


「え! な、なんでだよ……」


「いや、だから奪う為に仲良くなろうと思って」


「まぁ……良いけどよ……」


「やった! じゃあ放課後に迎えに行くから!」


 まぁ、一緒に帰るくらいなら……。

 それに自分に好意をもってくれた相手に冷たい態度を取るのもどうかと思うし……。


「放課後デートだね!」


「デートじゃない」


 結局俺は西井と一緒に帰る事になった。

 そして放課後、俺は授業を終えて帰る準備をしていた。


「悠人、そろそろ帰ろうか」


「あぁ悪い……今日はちょっと用事が……」


「え? 用事?」


 西井と本屋に行くため、いつも一緒に帰っている学に一緒に帰れない事を伝える。


「そっか、じゃあ先に帰るよ。でも、用事ってなんだい?」


「ちょっと本屋にな……」


 昨日発売の彩の写真集を買いに行かなければならないのだ!

 予約しているとはいえ、昨日買いに行けなかったので、今日は早く買って家で見たい!

 そんな事を俺が考えていると、教室の入り口から俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。


「緒方くーん!」


「ん?」


 教室の入り口に居たのは西井だった。

 まぁ、迎えに来るとか言ってたし……教室に来るのはわかっていたが……そんな大声で呼ばないでくれ……恥ずかしい。

 西井は俺を見つけると、ニコニコしながら俺の元へ駆け寄ってきた。


「さ、早く行こうよ!」


「あぁ……わかったから、少し静かにしてくれ……目立つ」


「あ、ごめんごめん」


 西井は口元を抑え、俺に謝罪する。

 俺の隣に居た学は不思議そうに俺と西井を交互に見て、俺に尋ねて来る。


「え? こ、断ったんだよね?」


「あぁ……そうなんだが……」


「なんか……凄く仲よさそうだね……告白されて三日しか経ってないのに」


 俺だってそう思うよ、でも西井が……。


「あ、告白の時一緒に居たよね?」


「えっと……悠人の友達の北岡です……うちの悠人がこの度は大変なご迷惑を……」


「いえいえ」


 お前は俺の親か!

 それに、別に迷惑なんて掛けてねーだろ!!

 そんな事を俺が学に対して思っていると、学は俺の方を見てニヤリと笑う。


「じゃあ、僕はこの辺で……邪魔者になるのも嫌だし」


「は? 何言ってんだお前」


「じゃ! また明日!」


 訳のわからない事を言って、学は直ぐに帰って行った。

 なんだあいつ……。


「まぁ、いいや……早く行こうぜ」


「うん! じゃあ、はい」


「何?」


 西井は俺の方に手を差し出して来る。


「手繋ごう!」


「絶対ヤダ」


 こいつ、距離を近づけ過ぎじゃないか?





「はい、お疲れ様でした! それじゃあ明日もよろしくお願いしまーす!」


 監督がそう言った瞬間、一気に肩に疲労がのしかかるのを感じた。

 今日の撮影は大変だった。

 台詞は多いし、動きも多かった。


「はぁ……疲れた」


 高校生の私が学校を休んで芸能活動をする事はあまり無い。

 事務所には学業優先と言っている為、今回は特別だ。 それに……学校に行かないと悠人に会えないし……。 私は直ぐさま帰りの支度を済ませて、家に帰る準備をする。

 今日は思い切って悠人の部屋に突撃しようと決めていた。

 昨日発売の私の写真集には、私の水着写真もある。 悠人は予約したと言っていたし、絶対に買ってあるので、それをからかいに行くためだ。


「ウフフ……あいつ、私の水着姿で興奮してるのかしら?」


 仕方無いから、どうしてもってお願いしてくるなら、悠人にだけ水着を見せてあげても良いわね……。

 ま、まぁ……どうしてもってお願いしてくるならだけど……。

 あ、でも……あいつの事だから私の水着姿なんて見たら、興奮して襲ってくるからしら?

 それはそれで……って何を言ってるのよ私ぃぃぃ!!


「え……えっと……あ、彩音ちゃん?」


「はっ! は、はい! ど、どうかしましたか?」


 私は楽屋でスマホの悠人の写真を見ながら自分の世界に入っており、ノックの音もドアが開く音にも気がつかなかった。


「ど、どうしたの? なんか悶絶してたけど?」


「な、なんでも無いですよ! そ、それよりもどうかしました?」


 入って来たのはマネージャーの村北(むらきた)さんだった。

 私がデビューした頃からの女性マネージャーだ。

 大人の女性と言う感じで、何事もきちんとしているが、時折子供っぽい仕草も見せる。

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