第14話


 次の日、俺はいつものように家を出て学校に向かった。

 今日も彩は学校を休むようで、席には彩の姿が無い。

「はぁ……なんだかなぁ……」


 昨日ユートからの説明を受け、更に面倒臭い事態となり、俺はため息を吐いて肩を落とす。


「おはよう悠人、どうしたんだい? 朝から疲れてるみたいだけど?」


「あぁ……色々ややこしくなってきてな……」


「昨日何かあったのかい? そう言えばあの子に返事はしたのかい?」


「まぁ……付き合え無いって言ったけど」


「え!? あんな可愛い子だったのに!? なんで! これを逃したら、君に彼女なんて!!」


「どう言う意味だよ! 俺だって好きな相手と付き合いたいし……それに、好きでも無いのに付き合うなんて……なんか失礼だろ?」


「まぁ、そうだけど……あの子って二組ではモテるらしいよ?」


 二組とは俺や学の居る一組の隣のクラスの事だ。

 まぁ、確かに活発な感じの可愛い子だったが……彩には敵わないな!

 たしかに良い子かもしれないが、やっぱり俺の一番は彩だな。


「ふーん……」


「そんな子に告白されたのに、もったいないじゃないか」


「もったいないとかの話しじゃねーよ……俺は……まぁ、色々あんだよ……」


「色々ってなんだよ! 結構羨ましかったのに!」


「もうやめないか? もう良いだろこの話は……」


 俺は強引に話しを中断させ、スマホを確認する。

 メッセージが一件来ていた。

 一体誰からだろうか? もしかして彩?

 なんて事を思っていたが、全然違った。

 

「ん……噂をすればだな……」


 メッセージの相手は彩では無く西井だった。


【お昼暇かな? 一緒にお昼食べようよ】


 内容は食事のお誘いだった。

 まぁ、別に断る理由は無いが一つ問題がある。


「学、悪いけど昼は今日別々で食わないか?」


「え? まぁ良いけど……用事でもあるのかい?」


「まぁな……」


「わかったよ、じゃあ僕は他の人たちと食べるよ」


「悪いな」


 問題は解決した。

 俺の学校には購買と食堂がある。

 弁当を持ってくる生徒も多いが、食堂や購買を利用する生徒も多い。

 俺の母親は仕事の事もあり、弁当を用意出来ないので、俺はいつも学食で食事をする。

 さっき振ったと言ったのに、西井と一緒に食事をするなんて言ったら、学がうるさそうだったので、俺はいつも昼食を共にする学に言い、今日は別々に食事を取ることにした。


【食堂で良いか?】


 俺はそう短く文章を打ち、西井に送信する。

 返事は直ぐに帰ってきた。


【良いよ、じゃあ食堂で待ってるね】


 恐らく西井は昨日の話しの続きをしたいのだろう。

 別な世界の自分とか、俺と彩の事とか……。

 まぁ、その話しを出来るのが俺しか居ないからだろうけど……。


「あ、またネットニュースに出てるよ彩音ちゃん」


「え?」


 学はそう言って俺の目の前にスマホの画面を差し出す。

 スマホの画面にはネットニュースのサイトが表示されていた。

 題名は『成瀬彩音! ファンに神対応!』と書かれていた。

 

「神対応ねぇ……」


「顔も可愛いくて、対応も完璧なんて、とても同い年とは思えないよねぇ……」


「そうか? てか、何が神対応なんだよ?」


「なんか、ライブに来たお客さんが居たんだけど、興奮しすぎて倒れたお客さんが居たんだって、そのお客さんを担架で運ぼうとしたんだけど、興奮したファンが道を塞いで、スタッフが担架を持って倒れたお客さんに近づけなかったんだけど、彩音ちゃんがそれに気がついて、自らステージを下りて、ファンを誘導して道を作ったらしいよ」


「へー、凄いねー」


「冷たいなぁ……ホントに興味無いの?」


「まぁな……嫌いではないし、普通に凄いとは思うけどな」


「アイドルの幼馴染みって皆こんな感じなのかな?」


「それよりも俺は、この『不審者現る』って記事の方が気になるけど」


「あっそ……クラスメイトの記事より、どうでも良い不審者のニュースの方が気になるんだ……」


「だって、これ近くだろ? 気を付けないとな……」


「はぁ……そうだね……」


 いや、普通に怖いじゃん……。

 だって近所で不審者が何回も見られてんだよ?

 襲われたら怖いじゃん……。


「お、そろそろ授業だね……じゃあ」


「おう、また帰りな」


 授業が始まり、俺は午前中の授業を受ける。

 授業中、俺は彩のSNSを見ていた。

 今日もドラマの撮影らしい。

 

「頑張るなぁ……」


 画面に映る彩。

 こんなに可愛い子と幼馴染みと言うだけでも俺はラッキーだと思う。

 しかもその子が俺の事を好きなんて……。

 俺、多分早死にするな……幸運過ぎて……。

 まぁ、まだ付き合っても居ないけど……。


「いてっ……」


「緒方……良い度胸だな……授業中にスマホを弄るなんて……」


「あ……先生……」


 彩の記事に夢中になりすぎて、先生にスマホを弄っていた事がバレてしまった。

 しかも授業は説教の長い相田(あいた)だし……。


「いや……ただ時間を見てて……」


「はぁ……まったく、授業がつまらんのはわかるが、少しはちゃんと聞きなさい……これは放課後まで没収だ」


「あ!」


 相田先生は俺からスマホを取り上げ、自分のポケットに入れた。

 しまったなぁ……見つからないように見れば良かった……。

 その後の授業はひたすら眠気と戦っていた。

 そして、ようやく昼になり、俺は食堂に向かう。


「えっと……西井は……」


 俺は食堂に行き、西井を探した。

 お昼の食堂はそこまで混雑していない。

 理由は、弁当派の生徒・食堂派の生徒・購買派の生徒と三つに分かれるからだ。

 その為、お昼の食堂で人を探すのは大変では無い。


「悪いな、待たせた」


「ううん、大丈夫だよ」


 俺は西井を発見し、西井の目の前の席に座る。

 西井はうどん(360円)を食べて待っていた。

 ちなみに俺の今日の昼食は、日替わり定食300円だ。 

「んで……どうかした? 急に一緒に飯なんて」


「え? 理由が無きゃ一緒にご飯食べちゃダメ?」


「い、いや……そんな事は無いが……」


 なんだよ……昨日の話しの続きを聞きたいんじゃないのかよ……まぁ、俺もそこまで答えられないけど……。


「だって……私は本気で君を奪い取るつもりでいるからね」


「え?」

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