第13話

「はぁ……疲れた」


 全員が帰った後、俺は一人部屋でため息を吐いていた。

 結局彩には今日も負けるし、なんか更にややこしくなるし……。


「わからないのはあっちの世界の西井だよなぁ……」


 そんな事を考えながら、俺はベッドに寝っ転がる。

 なんであんな嫌がらせみたいな呪いを掛けたんだ………昔の仲間だから、命を奪うまではしたくなかったとか?


「それにしても……もっとやり方が……」


 コンコン


「はい?」


「あぁ、ご飯だって」


「あぁ、わかった。今行く………じゃねーよ! またお前か!!」


 俺の部屋のドアをノックして入って来たのは、ユートだった。

 遊びに来る感じで世界を渡るなよ……。

 どんだけ手軽な異世界だ……。

 俺は言われるがまま、一階のダイニングに下りていき、席に着く。


「遅いわよ、まったく……ご飯冷めちゃうでしょ……」


「母さんは順応早すぎだろ……」


 我が母ながら恐ろしい……。

 




「どうしたの彩? 食欲無い?」


「………いや……そういうわけじゃ……」


「だったら食べなきゃダメですよ? 倒れてしまいます」


「……なんでアンタが居るのよ」


 私は隣で食事をする異世界の私、アーネに向かってそう言う。

 お母さんも何も不思議に思わず、食事を続ける。


「なんでお母さんも不思議に思わないのよ……」


「え? だって、こっちも彩でしょ? 別な世界だけど」


「それは最早他人でしょ……」


「酷いわ、私は別な世界の貴方なのよ」


「ちょっと黙って……こんなところにお父さんなんて来たら……」


「たっだいまぁ~!!」


「……来ちゃった……」


 最高のテンションで帰って来たのは、私のお父さんだ。

 自分で言うのもあれだけど、うちのお父さんは愛妻家であり、私を溺愛している。


「ただいま! 私の愛しい愛実ぃ~」


「お父さん、それ以上近づかないで……」


「え!? おかえりのハグは!?」


「いつもしてないでしょ……」


 私が冷たくそう言い放つと、お父さんはお母さんの方に行き、お母さんの胸に抱きつく。


「ママァ~娘は反抗期だよぉ~」


「そうねぇ~、よしよし~」


 いい歳こいて何をしてるんだか……。

 私がそう思っていると、お父さんは私の隣のアーネを発見する。


「ん? ……疲れてるのかな? 娘が二人?」


「あぁ……お、お父さん……この子はね……」


「始めましてお父様、私は……」


「娘が増えたぁぁぁ!! ママ! 彩が二人になってるよ!」


「そうねぇ~」


 お父さんはアーネを見て涙を流して喜んだ。

 いや、なんで喜ぶのよ……。


「初めまして! 君は彩なのかい?」


「はい、私は違う世界の彩さんです」


「そうか! よくわからないが、ゆっくりしていって欲しい!!」


「はい、ありがとうございます」


「なんで馴染んでるのよ……」


 うちの両親はなんでこう……人を疑わないのかしら……。

 私は食事を済ませ、部屋に戻りベッドに横になる。

 スマホを手に取り悠人の連絡先の画面を開く。


「……」


 メッセージとか送っても良いのかしら?

 ま、まぁあいつだって私からのメッセージを待ってるだろうし!

 仕方ないから私から何か送ってあげようかしら。

 そんな事を考えながら、私はなんと送ろうか文面を考える。


「うーん……」


 なんて送れば良いのかしら?

 あいつの言うとおり、何か送信する用事も正直無いのよね……でも……どうでも良い内容でも話したいのよ!!

 だってそうでしょ!

 好きな人となら、どうでも良い内容でもずっと話してられるわよ!!

 

「う~……なんであいつは私にメッセージを送ってこないのよぉ~私の事好きなんでしょぉ~」


 唸りながら私はスマホを握りしめる。

 そんな時、私の部屋のドアが開いた。


「何をしているのですか?」


「それは私の台詞よ……アンタは毎日家に来る気?」


 入って来たのはアーネだった。

 ご飯を食べて満足そうな様子で私の椅子に座る。


「悠人さんの事を考えて居たんですか?」


「……まぁね」


「意地を張らずに早く言えば良いのではありませんか? 素直になった方が楽ですわよ?」


「嫌よ! 絶対にあいつに言わせるの!!」


「でも、もたもたしていると他の人に取られてしまいますわ! 西井さんと言うライバルも現れた訳ですし……」


「西井……」


 あの子は確か私達の隣のクラスの子だ。

 確か陸上部だったと思うけど……一体どこで悠人と知り合ったのかしら……。

 あぁ……なんか考えてたらイライラしてきた!

 何よ! デレデレしちゃって!!

 悠人が好きなのは私でしょ!!


「あぁぁぁ! もう!!」


「あら? 発作ですか?」


「違うわよ!!」


「じゃあ、これを書いていただけますか?」


「何よそれ?」


「えっと……これに彩と悠人さんの名前を書いて、しやくしょ? と言う場所に提出すれば、正式に結ばれる事が出来るそうです」


「それ婚姻届じゃない! 私にはまだ早いわよ!!」


「え? でも彩のお母様に聞きましたら、この世界では女性は16歳で結婚が可能だとお聞きしました。彩はもう16歳ではありませんか?」


「そうだけど! 普通16歳では結婚しないの!」


「なぜですか? 可能なのに……」


「だから、普通は……」


「普通とはなんですか? 普通はお互いが好きで、許される年齢ならば、結婚するのではないのですか?」


「そ、それは……」


 なんか深い事を言われている気がする。

 世間体とか周りの目があるから、16で結婚なんてなかなかこの世界では無いが……言われてみればアーネの言うとおりかもしれない……。


「こ、この国では女性は16歳で結婚出来ても、男性は18歳にならないと結婚出来ないのよ……悠人はまだ16歳でしょ? だから私と悠人はまだ結婚出来ないの! てか、付き合っても居ないのに結婚とか……」


 結婚……。

 悠人と結婚……。

 ヤバイ、色々と想像しちゃう。

 悠人と結婚出来るなら、さっさと芸能界なんて引退して……子供は二人欲しいなぁ……男の子と女の子が良いわね……最初は小さいアパートで二人で貧乏生活も悪くないわ……。


「うふ……うふふふ」


「彩……女性がそのような笑い方は……」


「う、うるさいわね!!」

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