第13話
「はぁ……疲れた」
全員が帰った後、俺は一人部屋でため息を吐いていた。
結局彩には今日も負けるし、なんか更にややこしくなるし……。
「わからないのはあっちの世界の西井だよなぁ……」
そんな事を考えながら、俺はベッドに寝っ転がる。
なんであんな嫌がらせみたいな呪いを掛けたんだ………昔の仲間だから、命を奪うまではしたくなかったとか?
「それにしても……もっとやり方が……」
コンコン
「はい?」
「あぁ、ご飯だって」
「あぁ、わかった。今行く………じゃねーよ! またお前か!!」
俺の部屋のドアをノックして入って来たのは、ユートだった。
遊びに来る感じで世界を渡るなよ……。
どんだけ手軽な異世界だ……。
俺は言われるがまま、一階のダイニングに下りていき、席に着く。
「遅いわよ、まったく……ご飯冷めちゃうでしょ……」
「母さんは順応早すぎだろ……」
我が母ながら恐ろしい……。
*
「どうしたの彩? 食欲無い?」
「………いや……そういうわけじゃ……」
「だったら食べなきゃダメですよ? 倒れてしまいます」
「……なんでアンタが居るのよ」
私は隣で食事をする異世界の私、アーネに向かってそう言う。
お母さんも何も不思議に思わず、食事を続ける。
「なんでお母さんも不思議に思わないのよ……」
「え? だって、こっちも彩でしょ? 別な世界だけど」
「それは最早他人でしょ……」
「酷いわ、私は別な世界の貴方なのよ」
「ちょっと黙って……こんなところにお父さんなんて来たら……」
「たっだいまぁ~!!」
「……来ちゃった……」
最高のテンションで帰って来たのは、私のお父さんだ。
自分で言うのもあれだけど、うちのお父さんは愛妻家であり、私を溺愛している。
「ただいま! 私の愛しい愛実ぃ~」
「お父さん、それ以上近づかないで……」
「え!? おかえりのハグは!?」
「いつもしてないでしょ……」
私が冷たくそう言い放つと、お父さんはお母さんの方に行き、お母さんの胸に抱きつく。
「ママァ~娘は反抗期だよぉ~」
「そうねぇ~、よしよし~」
いい歳こいて何をしてるんだか……。
私がそう思っていると、お父さんは私の隣のアーネを発見する。
「ん? ……疲れてるのかな? 娘が二人?」
「あぁ……お、お父さん……この子はね……」
「始めましてお父様、私は……」
「娘が増えたぁぁぁ!! ママ! 彩が二人になってるよ!」
「そうねぇ~」
お父さんはアーネを見て涙を流して喜んだ。
いや、なんで喜ぶのよ……。
「初めまして! 君は彩なのかい?」
「はい、私は違う世界の彩さんです」
「そうか! よくわからないが、ゆっくりしていって欲しい!!」
「はい、ありがとうございます」
「なんで馴染んでるのよ……」
うちの両親はなんでこう……人を疑わないのかしら……。
私は食事を済ませ、部屋に戻りベッドに横になる。
スマホを手に取り悠人の連絡先の画面を開く。
「……」
メッセージとか送っても良いのかしら?
ま、まぁあいつだって私からのメッセージを待ってるだろうし!
仕方ないから私から何か送ってあげようかしら。
そんな事を考えながら、私はなんと送ろうか文面を考える。
「うーん……」
なんて送れば良いのかしら?
あいつの言うとおり、何か送信する用事も正直無いのよね……でも……どうでも良い内容でも話したいのよ!!
だってそうでしょ!
好きな人となら、どうでも良い内容でもずっと話してられるわよ!!
「う~……なんであいつは私にメッセージを送ってこないのよぉ~私の事好きなんでしょぉ~」
唸りながら私はスマホを握りしめる。
そんな時、私の部屋のドアが開いた。
「何をしているのですか?」
「それは私の台詞よ……アンタは毎日家に来る気?」
入って来たのはアーネだった。
ご飯を食べて満足そうな様子で私の椅子に座る。
「悠人さんの事を考えて居たんですか?」
「……まぁね」
「意地を張らずに早く言えば良いのではありませんか? 素直になった方が楽ですわよ?」
「嫌よ! 絶対にあいつに言わせるの!!」
「でも、もたもたしていると他の人に取られてしまいますわ! 西井さんと言うライバルも現れた訳ですし……」
「西井……」
あの子は確か私達の隣のクラスの子だ。
確か陸上部だったと思うけど……一体どこで悠人と知り合ったのかしら……。
あぁ……なんか考えてたらイライラしてきた!
何よ! デレデレしちゃって!!
悠人が好きなのは私でしょ!!
「あぁぁぁ! もう!!」
「あら? 発作ですか?」
「違うわよ!!」
「じゃあ、これを書いていただけますか?」
「何よそれ?」
「えっと……これに彩と悠人さんの名前を書いて、しやくしょ? と言う場所に提出すれば、正式に結ばれる事が出来るそうです」
「それ婚姻届じゃない! 私にはまだ早いわよ!!」
「え? でも彩のお母様に聞きましたら、この世界では女性は16歳で結婚が可能だとお聞きしました。彩はもう16歳ではありませんか?」
「そうだけど! 普通16歳では結婚しないの!」
「なぜですか? 可能なのに……」
「だから、普通は……」
「普通とはなんですか? 普通はお互いが好きで、許される年齢ならば、結婚するのではないのですか?」
「そ、それは……」
なんか深い事を言われている気がする。
世間体とか周りの目があるから、16で結婚なんてなかなかこの世界では無いが……言われてみればアーネの言うとおりかもしれない……。
「こ、この国では女性は16歳で結婚出来ても、男性は18歳にならないと結婚出来ないのよ……悠人はまだ16歳でしょ? だから私と悠人はまだ結婚出来ないの! てか、付き合っても居ないのに結婚とか……」
結婚……。
悠人と結婚……。
ヤバイ、色々と想像しちゃう。
悠人と結婚出来るなら、さっさと芸能界なんて引退して……子供は二人欲しいなぁ……男の子と女の子が良いわね……最初は小さいアパートで二人で貧乏生活も悪くないわ……。
「うふ……うふふふ」
「彩……女性がそのような笑い方は……」
「う、うるさいわね!!」
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