第12話

 鬱陶しい奴らが消えて良かった……なんてことにはならない。


「……」


「……」


「……」


 あの野郎……この状況をどうしてくれるんだよ!

 現在の俺の部屋には、素直になっていないだけで、両思いの俺と彩、そして俺に片思いをしている西井がいる。

 修羅場にならないわけが無い……。

 

「は、話しも終わったし……か、解散しようぜ……」


 そう言う俺の言葉を無視して、彩と西井はお互いに睨み合っていた。


「そうね……」


「そうですね」


 短い返事。

 もうヤダ! 俺怖い!

 そんな事を考えていると、西井が鞄を持って立ち上がった。


「緒方君……」


「な、なんだ?」


「私……諦め無いから!」


「お、おう?」


 強い目をしていた。

 諦め無いとは、俺の彼女になることを諦めないと言う意味だろうが……俺はあの子に何かしただろうか?

 名前すら知らなかったし……。

 西井はそう言って部屋を出て行った。

 残された俺と彩。

 これも非常に気まずい……。


「ねぇ!」


「は、はい!!」


 いきなり怒ったような声で口を開く彩。

 眉間にシワを寄せて、俺の方を見るとスマホを持って俺に尋ねてくる。


「……連絡先……教えて」


「は、はい?」


 そう言う彩の顔はリンゴのように真っ赤だった。

 そうか、彩は俺が西井に連絡先を教えて、自分だけ教えて貰っていないのが不満だったのか……。

 可愛い……。


「い、良いけどよ……ゆ、有名人が俺みたいな凡人に連絡先なんて教えて良いのかよ……」


「い、色々と連絡が必要になるでしょ……今後」


「ま、まぁ確かにな……あいつら、どこからともなく出てくるし……」


「私もビックリだったわよ……まさか家に居るなんて」


「お互い大変だよな……」


「だ、だから! そ、その……れ、連絡先……」


 うっ! な、なんだこの半端なく可愛い生き物!!

 こんなに可愛かったら、どんな男でも連絡先教えちまうだろ……いや、男から聞きに行くか。

 俺は早速彩と連絡先を交換しようと、自分のスマホを取り出す。

 ん? 待てよ……これってチャンスなのではないだろうか。

 

「でもなぁ……どうせ家だって隣だろ? それにお前ほぼ仕事じゃん? 連絡する必要なくね?」


「え……い、いきなり何よ!」


 そうだ、このチャンスを生かせ!

 うまくすれば、彩の口から付き合ってと言わせられるかもしれない!!


「それに、お前俺に連絡なんてしないだろ? 汚らわしいと言って」


「そ、そんな事言わな……我慢するわよ!」


 我慢ってなんだよ……。

 しかし、もう一息押せばいけそうだな。


「我慢させるくらいなら、知らない方がいいだろ?」


「うっ……」


 彩は悔しそうにしながら頬を含ませる。

 涙目で俺を睨む彩……やっぱり可愛いな……。


「良いから教えなさいよ!!」


「えぇ……」


 なんか強引に聞きだそうとして来たな……どんだけ俺の事好きなんだよ……。

 素直に知りたいからって言えば教えるのに……。


「いや、なんか今のお前に教えたら悪用されそう……」


「しないわよ!!」


「どうだか」


「良いから寄越しなさい!!」


「あっ! コラ!」


 彩はそう言うと俺のスマホを奪い取り、操作を始める。

 何、心配する事は無い、スマホにはパスワードを掛けてあるし……。

 まぁ、俺のスマホのパスワードが彩の誕生日だとは思うまい。


「アンタ……パスワード変えてないのね……」


「あれ!? なんでわかるの!!」


「それに……私のグラビアばっかり画像保存してあるし……」


「あぁぁぁぁぁ!! しまったぁぁぁぁぁ!!」


 早くPCに画像を移動して置けば良かった……。

 

「よかったわねぇ~? だ~い好きなアイドルが、連絡先を交換してあげるって言ってるのよぉ~」


「う……うるせぇ……」


 完全に立場が逆転していしまった。

 彩は小悪魔のようなイタズラな笑みを浮かべながら、俺のスマホと自分のスマホを操作する。


「はい、これ私のアカウント」


「………はい」


 負けた……完全に俺の負けだ……いや、何が? って話しなのだが……。

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