第17話

 俺は店員から写真集を三冊受け取り、代金を支払う。

「女の子と一緒なのに、良く平気な顔で写真集買うね」


「付いて来たのは西井だろ……さて、用も済んだし帰るか」


「もう帰るの? 折角来たのに……」


「でも、これ以外にやる事も無いしな」


「何か食べて行こうよ、私お腹減った」


「太るぞ?」


「怒るよ」


 俺も悪かったが、足の裏を強めに蹴るのはやめて欲しい。

 仕方なく俺達は大手ハンバーガーチェーンの店にやってきた。

 放課後だからと言うこともあってか学生が多い気がする。


「何食べようかなぁ……」


「俺はポテトとドリンクでいいや」


「それだけ? 男子なのに? 部活の男子はもっと食べるよ?」


「陸上部の奴らと一緒にするなよ……俺はこれだけで良いんだ」


 体育会系の奴らと帰宅部の俺を一緒にしないで欲しい。

 まぁ、中学時代は俺も部活に勤しんだものだが……。 そう言えば、部活やめたら食べる量も減ったんだっけな……。

 俺と西井は注文を終えて席に着いた。


「西井、今日は部活は休みか?」


「うん、週一回の休みの日」


「部活の奴らと遊ばないのか?」


「それよりも今は緒方君かな? 早く彼女にして」


「だから、俺にそんな事を言われてもな……」


 好いてくれるのは嬉しいが、恐らく俺は西井の重いには一生答えられない。

 だから早く俺を諦めて新しい恋に生きて欲しいのだが……。


「私と付き合ったら、色々出来るよ?」


「色々って何だよ……」


「ところ構わずキスとか!」


「そこは構えよ……」


「いつでもハグしてOK!!」


「お前に羞恥心は無いのか」


「ぱ、パパとママが居ない日は……私の部屋に来ても……良いよ」


「わかったもう良い、お前ちょっと黙れ」


 こいつはアホか……。

 頭の中が男子みたいになってるぞ。

 俺、女子じゃないけど恐怖を感じる。


「えー、でもアイドルと付き合えてもそんな事出来ないでしょ? 人に見られたら大変だし」


「いや、アイドルじゃ無くても見られるのは嫌だろ」


「ヤバさの度合いが違うじゃん!」


 俺と西井がそんな話しをしていると、脇を通ろうとしていた学生が立ち止まった。


「あれ? 麗美?」


「え? あ! 美月(みつき)! 何してるの?」


 陸上部の友人だろうか?

 話し掛けたきたのは、同じ学校の女子生徒だった。


「皆でカラオケ行った帰りだよ、麗美は……あぁ~もしかしてデート?」


「そうだよ!」


「ちげーっつの」


「痛い!」


 平気で嘘を付く悪い奴には、脳天にチョップを食らわせてやった。

 変に誤解されたらどうするつもりだっての……。


「えっと……たしか同じクラスの……」


「あぁ、そう言えばなんか見たことあるな」


「いや、同じクラスなのに名前覚えて無いの? 私もだけど」


「じゃあ、おあいこって事で許してくれ」


 よく見たら、俺と同じクラスの女子生徒だった。

 俺はあまり人の名前を覚えるのが得意では無い。

 それに加えて影も薄いので、名前を覚えられていないのは仕方ないよな……。


「それは良いけど、自己紹介くらいしてよ。友達がデートしてる相手とは仲良くしたいな」


「だからデートじゃ無いっての……緒方だ、緒方悠人」


 なんで五月も中盤だって言うのに、俺は今更クラスメイトに自己紹介をしているのだろうか?

 

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