第10話

「おいおい、悠人。女の子を泣かせるのは感心しないよ?」


「うるせぇな……黙って………ってなんで居るんだよ!?」


 後ろから急にユートから声を掛けられる。

 いつの間に背後に居たのか、まったく気がつかなかった。

 てか、こんな頻繁に来れるのかよ……。

 驚きながら思っている俺を置いて、ユートは話し始める。


「君………まさか」


「お、緒方君が……二人……」


 ユートは彼女を見ながら何かを考えていた。

 しかし、今はそんな場合では無い。


「おい! ややこしくなるから帰れよ!」


「……悠人、君とこの子はどんな関係なんだ?」


「は?」


 真面目な顔で尋ねてくるユート。

 関係と言われても……友達ってわけじゃないし……知り合いや顔見知りだと思うが……告白されてるしなぁ……。


「恋人(仮)です!」


「ちげーよ!」


 何言ってるのこの子……。

 マジでどうするんだよこの状況……ややこしくなりすぎて、もう俺は訳がわからんぞ。


「悠人、こっちへ」


「な、何だよ……」


 ユートは俺を連れて彼女から少し離れ、俺に耳打ちをしてくる。


「彼女も別世界の自分と合ったと言ったのか?」


「え? あぁ、そうだって言ってたけど……」


「じゃあ……彼女もこの世界に……」


 ユートは真面目な表情で何やら考え込んでいた。


「なんだよ、お前の世界の知り合いがあの子なのか?」


「まぁ、そうなんだけど……」


 何やら難しい顔をしながら、ユートは俺から離れ、彼女の目の前に行って尋ねる。


「君……名前は?」


「西井麗美(にしいれいみ)だけど……」


「君の元に来たのは、レイミーという女の子じゃなかったかい?」


「う、うん……私そっくりだった」


「そうか……悠人」


「な、何だよ」


 ユートは西井の話しを聞き終えると、俺の方に向き直って口を開く。


「彩ちゃんに連絡は取れるか? 重要な話しがあるって……もちろん、君にも関係がある」


「わ、私?」


 ユートは真面目な顔で俺と西井に言う。

 そんな事を言われても、俺は彩の電話番号なんてしらない。

 スマホを買って貰った頃には、既に仲が悪い状態だったので、電話番号もメッセージアプリのアカウントもお互いに教えて居ない。


「直ぐは無理だ……まぁ、今頃は家に居ると思うが……」


「じゃあ、悠人の家で話そう。5人で」


「まぁ良いが……ん? 5人?」


「そう、5人」





 学校から自宅に帰って来た俺は、隣の家から彩を連れて部屋に戻っていた。

 彩と一緒にアーネもおり、今俺の部屋には俺とユート、そして西井を含めた5人が居る。

 てか、狭いんだが……。


「何よ、ドラマの撮影で疲れてるのに……それに……この子は?」


 彩は眉間にシワを寄せながら、西井の方を見る。

 いや、見るというよりも睨むと言った方が適当かもしれない。


「あぁ……この子は……その……」


「西井麗美……昨日、緒方君に告白したの」


 対抗するかのように、西井が彩を睨みながら言う。

 すると彩は一瞬驚いたような顔をした後、眉間にシワを寄せて俺のを方を見てきた。

 怒ってるなぁ……いや、ヤキモチか?

 まぁ……あれだな……怒った顔も可愛い……。


「ふーん……あっそ」


「幼馴染みなんだよね? ただの」


「さぁ、それはどうかしらね」


「余裕そうね……」


 あぁ……なんか予想通りの展開だなぁ……。

 気まずい雰囲気の中、俺は何も言えずに黙って座っていた。

 自分の部屋なのに、なんでこんなに居心地が悪いのだろうか……。


「ユート……」


「アーネ」


 お前らはイチャイチャすんじゃねーっつの!

 俺がイチャつくユートとアーネを睨んでいると、それに気がついたユートが本題に入り始める。


「さて……本題に入ろうか」


「そうね」


「そうね……じゃねーよ! なんだお前らは! 人前でイチャつき過ぎだろ!」


「そうよ!!」


 ユートとはアーネを膝の上に乗せながら、真面目な顔で話しを始めた。

 まぁ、俺の部屋が狭いからそうしているんだろうが……気まずいからやめて欲しい。


「えぇ~……折角ユートと一緒なのに……」


「えぇ~……じゃないのよ! 下りなさい!」


「でも、この部屋は狭いし……」


「悪かったな!」


 話しをするのに、部屋を提供しているというのに、なんて言い草だ!

 ユートは仕方なくアーネを膝の上から下ろし、隣に座らせる。

 それによって、少し座るスペースを詰める事になり、俺は彩の方に少し詰める。


「ちょ、ちょっと! あんまり来ないでよ!」


「仕方ねーだろ……せ、狭いんだから」


 そうだ、狭いから仕方がないのだ!

 俺は決して、彩の体に触れたいとか、女の子特有の良い香りを楽しみたい訳ではない!

 あぁ……良い香り……。


「………」


 そんな俺の様子を西井さんは、頬を膨らませながら涙目で見ていた。

 一方の彩は頬を真っ赤に染めながら、勝ち誇った表情と羞恥心の混ざった複雑な表情をしていた。

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